「郊外住生活の現状と問題点」
−郊外住宅団地住まい手の経年による
“からだ・心・交流”の変化と住まいのあり方−
さかえ住宅環境フォーラム会長 竹谷康生
成熟社会居住研究会では、これまでハウスメーカーが建設を進めてきた郊外住宅団地の再生に取り組んでいます。今回は、実際に横浜市郊外住宅団地でのまちづくりに取り組んでこられた、さかえ住宅環境フォーラム会長の竹谷康生氏をお招きし、郊外住宅団地住まい手にとっての団地持続性の課題とハウスメーカーに期待することのお話を伺いました。
(1) 郊外住宅地の現状
さかえ住宅環境フォーラムでは、栄区・港南区・戸塚区の郊外住宅団地代表者や行政、学識経験者、まちづくり専門家などが集まり、より住みよいまちづくりを目指した、課題やまちのルールづくりを進めております。
私の住んでおります団地は昭和50年代に開発が始まりました。昭和14年に横浜市が市として制定された時の人口は100万ぐらいでしたが、現在は370万人を超えています。市域の面積は殆ど変らず、増加した人口は、新しく造成された地域に吸収されました。人口が減少していくと、郊外住宅地もどんどん縮小していきますが、縮小していく地域で存続できる住宅地の境界は、鉄道の駅から歩いて15分、バスに乗っても15分程度のところと考えています。横浜市でも交通利便性の基準は15分と考えているようです。他に利便性の要素は店舗や病院、教育施設といった要因がありますが、この交通利便性でほとんどが仕切れるのではないかと考えています。
若者は進学や就職で一度便利な所に移動すると、交通が不便なところにはなかなか戻ってきません。しかも郊外住宅地はある時期に同じぐらいの年代の人が一斉に住み始めたため、急速に高齢化が進みます。高齢化が進むと購買力が1/2に減少するので、お店が撤退する、お店が撤退すると利便性がさらに悪くなるから若い人が戻ってこないということになります。
私が住んでいる湘南桂台の例で申しますと、郊外住宅地では珍しい(駅から遠い)イトーヨーカドーがあります。イトーヨーカドーはほとんど駅に近い所にしか残っていないそうです。我々のところのイトーヨーカドーも閉鎖が検討の俎上に乗っており、我々もどうすべきかを調べていきますと、あることがわかりました。郊外住宅に住んでいる方は、ほとんど車を持っていますから、土日は家族サービスでアウトレットに買い物に行くことが多く、イトーヨーカドーでの購買が少なくなっています。そこで我々はイトーヨーカドーと相談して、土曜日に店内でのミセコンを1ヶ月に1回行うということを始めました。横浜市で駅を賑やかにするためのエキコンが当時流行っておりまして、イトーヨーカドーも工夫して地域にコンサートのスペースを提供といったことをやってくれております。イトーヨーカドーが赤字になるとどうなるか分かりません。イトーヨーカドーは2階建てで、1階の食料品売り場は黒字ですが、2階の日用品売り場は潰れてしまい100円ショップやドラッグストアに変わりました。高齢化が進んだ郊外住宅地では、日用品やリサイクルのお店は売れません。売る人は多いのですが、買う人はほとんどいないので、リサイクルの店も潰れました。
(2) 住まい手のライフサイクル
住宅に関して影響の大きいのは住んでいる人のライフスタイルです。古代インドの4住期という考え方をまねて、0歳から30歳を学生期、30歳から60歳を家住期(家を求める頃)、60歳から90歳を林住期、90歳から120歳を遊行期ということにしますと、最初の大きいイベントが家住期の前半30歳から45歳です。30歳で家を買って45歳になるころに、1回目の問題が起きます。我々は終の棲家として目一杯の費用で希望のものを建てるのですが、メンテナンスにこんなに金がかかるということはほとんど認識していません。それで45歳になると1回目のメンテナンスが必要になり、設備修理や外装の塗装、子供のための増築などで何百万かの投資が必要になります。45歳のころは、非常にはりきっているし前向きですからなんとかなります。さらに45歳から60歳の間は財力もあるし、力もあるので子供たちの成長を楽しみになんとかやり遂げたいという気持ちがあります。その時に15分で駅まで行けるような地区であれば、安心して投資できるということで二世帯住宅を建てる方もいます。しかし私のところのように駅まで15分以上かかるところでは、二世帯住宅はせいぜい10%どまりで、二世帯住宅を建てたけれど子供たちが住まないというような悲劇も起きています。
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