20世紀の不都合な真実と、その打開策

- 住宅ローン債務のくびきからの解放

【質疑応答・意見交換】

成熟研委員:郊外で建設されてきた敷地60〜80坪の住宅は今の需要に合わないから空き家になる、敷地を3分割して3階建ての住宅を建てれば需要があり、郊外に人を呼び込むことができるという意見があります。それに対して、郊外の優れた街並み・環境を損なうのではという意見もあり、地域の方々の意見は割れています。
園田教授:確かに郊外住宅は広すぎるから3棟3階建てに変えるべきという意見を聞きますが、その住宅を買った方が20〜30年後、ホームエレベーターをつけることのできない家に住み続けることができるのでしょうか。その時に若い世代の買い手がいるのでしょうか。デフレスパイラルと同じような悪循環になると思います。広さを上手に使い、良い環境をキープするような住文化をつくることが必要だと思います。
成熟研委員:JTIの借上げ実績は最初の数年は200〜300件程度だったのですが、近年急に増えてきました。何がその要因とお考えですか。
園田教授:一昨年の後半くらいから増え始めたのですが、自分の家ではなく、親の家が空き家になったというケースが多いようです。自分の家を貸して地方へ移住というケースはまだレアで、親の家はお金がかかるばかりで、どうしたらいいか分からないという方々がJTIを利用しているようです。
成熟研委員:JTIの借上げ実績が増えたもう1つの要因は、以前は、ここは先祖の土地だからという意識があったが、最近は自分が買って移り住んできた土地であり、土地に愛着があるわけではないというケースが出てきたこととうかがっています。
成熟研委員:「定期便」というネーミングがとてもいいですね。
園田教授:JTI代表理事の大垣氏が考えたネーミングです。住宅資産をキャッシュフロー化した「定期便」があるとサ高住に移り住むときに安心ということにもなるでしょう。
成熟研委員:今、各自治体は立地適正化計画の策定に動き始めています。JTIの取組みともリンクしてくると考えられます。
園田教授:当然リンクします。JTIは全国の色々な自治体から、JTI制度の活用を市民にアピールしたいとか、地域の宅建業者などの参加を促したいといった相談を受けます。市内の駅近と田園地帯の間での居住循環に熱心に取り組んでいる自治体もあります。セミナーの後に個別相談会を行うと、自分の家が借り上げてもらえるかなどの相談をされる方で、順番待ちができるとのことです。
成熟研委員:JTIが借り上げた家への、入居率はどれくらいでしょうか。
園田教授:90%以上です。現在の賃貸住宅の空き家率が3割と言われているので、それ比べると入居率が高いと言えます。ただこれは反省点なのですが、3年の定期借家では、住む人が不安定で、家を大切に使ってくれない例も出てきました。「DIY長期リース型リノベーション住宅」はその反省から生まれた制度で、子どもが小学生から大学に入るまでのおよそ15年のために大きな家をローンで買うよりも合理的な住まい方の選択肢として若い方々に提案しています。固定資産税も払わなくて済みます。
厚労省高齢者支援課:郊外住宅地の経済的ポテンシャルについては、CCRCも同じ様な見方ができると思います。CCRCも高齢者だけではなく、高齢者予備軍などの人々が集まり、産業が生まれるという考えがあります。JTIとCCRCのそれぞれの取組みはリンクすると考えて良いでしょうか。
園田教授:リンクしています。CCRCは、都市では施設の床数が足りないから地方でという面があるようですが、郊外住宅地は自然発生的にリタイアメント・コミュニティとなるポテンシャルが有ります。郊外住宅地に住み続けることが難しくなった方に、18F程度のサ高住や地方に住み替えるような選択肢しかないのか、居住用不動産の流動化をもっと進めることができないのかという問題意識から、住宅ローン返済負荷と資産デフレについての論考を行いました。居住用不動産を安値で売って、キャピタルロスを生むよりも、居住用不動産をうまく活用してキャッシュフローを生み出せば、シニアの生活の選択肢はいろいろと生まれると言うストーリーです。
厚労省高齢者支援課:地域包括ケアにより、住み慣れた地域に住み続けるということとも関わってくるのでしょうか。
園田教授:地域の中に、良質なサ高住があれば、住み慣れた地域内での住み替えができます。郊外住宅地はゴルフ場や温水プールなどが隣接して、アメリカのリタイアメント・コミュニティのような設備は整っていると見ることができます。ただ今の郊外住宅地ではそれらの運営者が別々になっています。重要なことは、だれかがやってくれるということではなく、住民が自らお金を投資して、リターンを得られるような運営だと思います。
成熟研委員: CCRCと郊外住宅地の違うところは、住んでいる高齢者が、若い人や小学生が生活している住環境を希望しているかということだと思います。
成熟研委員:自分の周りの人達を見ても、65歳を過ぎて、持ち家を誰かに貸して、どこに住み替えるというリアルなイメージを誰も持っていないようです。自分の家を持って親から独立したけれど、これから親の介護が始まる方々は、親の家と自分の家の距離に関心があります。JTI制度で家を貸し出すことができても、その先の選択肢についてのイメージがまだ湧かない状態だと思います。
園田教授:やはり“出口”となる選択肢が必要なのだと思います。親の実家の近くに住み替えるにしても、仕事から解放されて地方に住み替えるにしても、地域内のサ高住に住み替えるにしても、現状では選択肢が少ないのだと思います。住宅地内にここなら入居しても良いと思わせるようなサ高住がない。そこのところをハウスメーカーの方々に期待しています。
成熟研委員:駅から遠く、通勤不便で、自家用車がないと生活しにくい既存のニュータウンに、若い世代が住みたいと思うのかなと感じます。JTIによる若い世代と住まいのマッチングにおいて難しい点になるかもしれません。多世代で暮らすとか、子育て支援があるといった価値がなければ、郊外住宅地は選ばれないかもしれません。
園田教授:これから生き残れる住宅地と残れない住宅地が分かれて来るでしょう。生き残るための、今ご指摘になった付加価値は、ディベロッパーだけでできることではなく、必要なことは、そこに住んでいる人がどれくらい前向きになるかということと、住んでいる人とタッグを組もうというやる気のある民間事業者と自治体の存在と思います。郊外住宅地が和製リタイアメント・コミュニティになれるかどうかは、そこがポイントです。


以上