講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2. 21世紀美術館のインパクト
小津:  2002年に東京へ戻ったら、21世紀美術館(以下21美)に入るカフェの企画提案の話が舞い込んできました。金沢の新竪町にgrafが手がけたカフェがあって、そのオーナーから「21美のカフェの民間募集があるので応募したい」と相談されたんです。そこで、企画展が勝負の現代美術館の展覧会に応じてカフェのコンテンツやメニューを変えていくという企画を作りまして、その運営を担うNPOも立ち上げました。21美は市立美術館なのでNPOの方が相性がいいと思ったんです。結局、採用されませんでしたが、この提案は関係者の中で注目を集めたそうです。
僕は金沢出身ですが、この街に興味はなかったんですよ。ただ古いだけの街としか思えなかった。でもそういう街にモダンアートの拠点ができるのはすごく面白いと思って、草の根的なアート・まちづくりの活動を始めることにしました。丁度2003年に片町にあった古いビルのリノベーションを手がけることとなり、設計以前の利活用の事業企画も提案しました。イベントスペースなども設置するよう施主にかけあい、その運営を兼ねた飲食店をNPOで出店し、自らレストランも開業しました。
鈴木:  21美のカフェ提案には、店舗設計だけでなく事業企画も含んでいたわけですよね。そうした企画のノウハウはどこで身につけたんですか?
小津:  学生時代にはイベントを企画運営したり、空間プロデュースの事務所に出入りしていて、卒業して1年間ほどは広告代理店の契約社員として働いていました。模型を作ったり図面を描いたりするのも好きでしたが、イベント企画の立案も同じくらい好きだったんです。新井さんの事務所では建築設計に専念していましたが、京都では時間があったので様々な企画づくりもしていました。
いずれにせよ21美は金沢に大きな影響を与えたと思います。実際、片町に開いた飲食店には様々な人が訪れています。21美の開館をきっかけにアート活動を始めた人や金沢へUターンした人などに出会いましたし、金沢では見かけなかったような観光客を目にするようにもなりました。例えば、コム・デ・ギャルソンを身にまとった年配の夫婦を定期的に見かけたりしますが、明らかに21美の企画展を目当てに金沢に再訪している人たちです。





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