ライフスタイル考現行


4.住み手という消費者?
鈴木:  これまでは、住み手を「住宅」の消費者として捉えてきた思うんです。住宅メーカーだけでなく、公団も僕たち専門家も、住み手が何かを生み出したり、地域で何かを売ったりする存在であるとは考えてこなかった。近畿大の学生団体がリノベして運営している「ながせのながや」という町の居場所的拠点があって、スペースを貸し出しているんですが、借りる人が結構いる。借りたスペースをどう使っているのか学生が卒業論文で調べてくれたんですが、単なる趣味活動というより、月1回だったり週2回だったりとペースはそれぞれですが、何か販売している人が多い。何かを売りたい人がこんなにも世の中にいるんだと気づかされました。
佐藤:  この「ライフスタイルとすまい」という連載で取り上げてきたのは、実は住み方ではなくて、働き方だったと思います。
鈴木:  そうですよね。住み方というと、ついつい食べる・寝るという分解された行為の話になってしまいますが、本来住むというのは生き方であって働き方と切り離せない。だから店・商売って大事だと思うんですよ。生き方・働き方であり、町に対する働きかけもありますから。でも、かつて東大の建築計画研究室では、商業建築に取り組んだりすると袋叩きにあったというんです。学生がある先生に「どうして店舗併用住宅を研究しないんですか」って聞いたら、「いずれ無くなる存在だから」と言われたそうです。実際、建築設計資料集成には、町で物を売ったり何か事業を興したりする人のための併用住宅や建築が全然載っていない。商いはかなり軽視されてきた。
松村:  先日、祭りの研究を聞く機会がありました。日本では祭りの時に町に開きますよね。木造軸組構法だから、建具を外すとスカッと建物が開かれ、祭りの時だけは町の人々がどんどん中に入ってこられる。だけどそれは日本独特の現象で、ヨーロッパなどでそんなことは行われていないんだそうです。考えてみると、そうした開けっぴろげな祭りを成立させているのは、自営業者なんですよ。町で商売する人たちがいるから、日本的な祭りが成立しているわけで、住むだけになった途端、そうした祭りが無くなってしまう。
鈴木:  そうなんですよ。千里ニュータウンの研究をして痛感したのは、圧倒的にサラリーマンが多いから町がつまらない。実は町のことを一番考えているのは自営業者なんです。町がダメになったら自分たちも潰れちゃいますから。調べてみると、泉北ニュータウンの方は面白いんです。自営業者が結構いるから、リノベーションを含めて色々と実験的な取り組みをしている。一方、千里ニュータウンには、自分たちで何かやろうって人たちが少ない。公共が全部やってくれると思っている消費者的な発想の人が多い。
松村:  これまでは住むということが消費者の事柄だった。今世紀初頭に住団連がこの連載を持ちかけてきた時も、消費者のライフスタイルを念頭に置いていたんだと思います。だけど、そもそも住み手を消費者と見なすことはできないんですよ。



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