温熱環境リフォーム 設計・施工について

合同会社TAKAOスタジオ代表社員 石崎竜一

 「住生活基本計画」(令和3年3月19日閣議決定) において、ヒートショック対策等の観点を踏まえた良好な温熱環境を備えた住宅の整備とリフォームの促進が基本的な施策となっております。住団連成熟社会居住研究委員会では、合同会社TAKAOスタジオ代表社員石崎竜一様に、温熱環境リフォームについてのお話を伺いました。

(1) 温熱環境と健康

 本日は一般社団法人ベターリビングで作成した「温熱環境リフォーム設計・施工ガイドブック」(以下、ガイドブック) をもとにお話いたします。

1) 住まいの現状と課題 (ガイドブック3〜4ページ)

温熱環境の実態:2019年度の「スマートウェルネス住宅等推進調査」(SWH調査) 約2,000件の調査結果では、日本の住宅ストックの7割は、昭和55年省エネ基準相当、もしくはそれ以下の断熱性能で、室内温度がとても劣悪であることを示しています。在宅中の居間の平均室温は16.7℃、寝室12.6℃、脱衣室12.8℃という非常に寒い状況です。平均室温が18℃未満の住宅は、居間では6割、寝室や脱衣所のでは約9割と、大半が18℃未満ということが実態です。
入居中の事故:入浴中の事故は冬季に集中して起きています。入浴中の年間死亡者推計数は19,000人で、交通事故よりも多いという状況です。入浴事故の9割以上が65歳以上の高齢者です。
日本の冬季死亡率:全国的な冬季の死亡率をみてみますと、高断熱住宅の普及率が高い、寒い地域ほど、冬季の死亡者増加率が低いという実態があります。高断熱住宅の普及が進んでいない温暖地域において、死亡者数が増加していることが分かりました。

2) 温熱環境と健康に関する調査研究 (ガイドブック5〜6ページ)

 WHOの2018年ガイドラインでは、健康を守る安全でバランスの取れた冬季の室温を18℃以上としています。イングランド公衆衛生庁による2011年の温度と健康リスク関する報告「イングランド防寒計画」では、室温18℃未満では健康リスクがあるとしています。このように世界的な指針では、健康を守る安全でバランスのとれた冬季の室温は18℃以上とされています。
 2014年から調査が開始されたSWHの調査結果では、室温が低いと起床時に血圧が高くなるということが分かりました。高齢者の方が室温低下の影響を強く受けていることも分かってきています。例えば男性で20℃から10℃へ室温が下がった場合、80代の方ですと10.2mmHgも血圧が上昇してしまいます。また女性の方が血圧は低いのですが、室温の低下による血圧上昇の大きいことが分かってきました。特に高齢の女性の方がその傾向が強いことが言われております。
 また居間や脱衣室の温度が低いと、熱いお湯に長く浸かる危険入浴につながり、入浴中の事故のリスクが高くなる傾向があります。居間と脱衣所の室温が18℃以上の住宅に比べて、18℃未満の住宅は危険入浴の可能性が1.7倍と分かっています。