「令和6年度高齢者住宅施策について〜改正住宅セーフティネット法の概要等〜」
国土交通省住宅局安心居住推進課 横田企画専門官
「お一人暮らし急増で病院入院や施設入居でいま何が起きているのか?」
公益社団法人シニア総合サポートセンター代表理事 谷川 賢史
単身高齢者の増加と持家率低下が続く一方で、賃貸住宅の大家等の一定割合は単身高齢者の入居に対する拒否感を有しています。拒否感の原因については、居室内での死亡事故等に対する不安が最も大きなものになっています。
国は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(住宅セーフティネット法) の改正による、大家と要配慮者の双方が安心して利用できる市場環境の整備、居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅の供給促進、住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制の強化を検討しています。サービス付き高齢者向け住宅供給の促進継続も検討しています。
そして身元保証サービスのニーズがこれからも高まると考えられます。身元保証人だけで解決しない場合に対応するためには、成年後見人制度を押さえておくことが大切です。国は成年後見人制度をさらに使いやすくするための、制度見直しに関する検討を進めています。
要介護になっても最期まで安心して暮らし続けられる住まいのニーズは高く、地域包括ケアは、要介護になっても、できるだけ自宅で暮らし続けるか、あるいは地域の高齢者向け住まい・施設へ転居するかを自己決定できる仕組みです。新たな「住生活基本計画」での目標の中では、そのためのコミュニティの形成とまちづくりや、住まいのセーフティネット機能の整備が位置付けられています。
令和4年度に、高齢期に備えて自ら検討し住み替えられた方々を対象とするアンケート調査「高齢者の住宅資産の循環活用に関する検討調査」が行われました。その結果、住み替えのきっかけは、日常生活の不安が最も多いことが分かりました。住み替え先の選択では、交通・買い物・医療機関の利便性や、生活支援の重視されていることが分かりました。高齢者の多くは持ち家に住んでおられます。そして住み替えの際に大半の方が持ち家を売却していることが分かりました。
高齢者の住み替え先としては、ハードのスペックだけではなく、生活環境や見守りなどのサービスも重視されています。住宅会社の皆様には、住宅提供において、ハードも重要ではありますが、高齢者の生活に伴走するソフト・サービス提供や、元気に生活できる環境整備についても意識して進めていただければと考えております。
令和3年3月19日に閣議決定された「新たな住生活基本計画」では、8つの目標をあげており、高齢者について「目標4 高齢者等が安心して暮らせるコミュニティ等」「目標5 セーフティネット機能の整備」を位置付けている。住宅セーフティネットに関しては、要配慮者の入居を拒まない住宅の登録制度や、居住支援協議会による入居支援、国と地方公共団体による経済的支援の仕組みをつくっており、さらにこれらの仕組みの地方公共団体における拡がりのための伴奏支援・情報支援などを進めている。
ハウスメーカーに期待することは、要介護者が在宅サービスを受けやすく、且つ介護者がサポートしやすい住宅整備、良好な温熱環境が実現された住宅整備、IoT・ITなどの技術開発などである。また、リフォーム・住み替えや住宅資産の循環活用には、要介護になってからではなく、早めに相談できる体制が重要である。ハウスメーカーには、これまで供給してきた住宅の居住者からの相談を受け付ける体制の拡がりを期待している。居住者から営業目的ではと警戒されることがあるかもしれないが、ハウスメーカーが、地域の多様な主体が連携したまちづくりに取り組み、居住者のまちへの愛情に結び付いている先進事例がある。
国土交通省住宅局安心居住推進課 企画専門官 上野翔平
サ高住や有料老人ホームなど、立地やサービス内容といった質の部分、つまり看取りを含めたどういった生活を送れるのかを、高齢者が住まいを選ぶ上で重視することで淘汰される時代になると考えられる。現在、サ高住に関する省令の改正を、登録段階での情報開示の充実と、状況把握・生活相談サービスの提供体制の合理化の2つの方向性で検討中である。
最期はできる限り自宅がいいという方や、サ高住や特養など施設が併設されている環境がいい方も、それぞれの選択に応じて、最期に向けた生活を送ることのできる状況を整備していくことが我々に求められている。サ高住における見守りサービス等の地域提供が進めば、地域に住み続けられるような社会がつくられる。そのためには、介護保険サービスと、そのプラスαとなるサービスによる、その人がその人らしくいられる地域づくりも必要ではないかと考えており、皆様のお知恵をお借りしたい。
住宅生産団体連合会・成熟社会研究会から2018年度にむけた高齢者住宅に関する提言を伝え、国土交通省住宅局安心居住推進課との意見交換を行った。
また石坂聡安心居住推進課長から、近年の高齢者住宅や高齢者の居住に関する最新動向として、住宅セーフティネット法の改正、サービス付き高齢者向け住宅の展開、日本と北欧の政策視点の違い等について話題提供をしてもらい、成熟社会研究会メンバー等と活発な意見交換を行った。介護分野の人材が払底するなか、IOTの活用や、高齢者住宅のマーケット拡大に向けた規制緩和等が肝要との意見が交わされた。
次の大きな政策課題としては、心身機能が低下した場合の住まいの問題がある。また、高齢期の居場所が不明確なことも大きな不安要因になっている。
国土交通省では、サービス付き高齢者向け住宅に関する実態把握を行い、2019年度の税制・予算で調査結果をふまえた対応をする予定である。
一方、2017年10月に施行された新たな住宅セーフティネット制度の展開を重視しており、市町村レベルでの居住支援協議会の設立や居住支援法人を増やしていきたい。
その他に、「高齢期の健康で快適な暮らしのための住宅改修ガイドライン」を策定し公表した。また、スマートウェルネス住宅等推進事業も積極的に進めることを予定している。
少子高齢化が進む住宅市場に光明はないのかといえば、全くそうではない。一つは、年齢層の高いところに大きなボリュームゾーンが存在している。75歳の誕生日を迎える人は、今後十数年間は増え続ける。もう一つは、共働き世帯の増加である。経済状況が厳しくなった時、人々はどう対処するか。「家族総働き」が最も合理的な解決策である。
こうした「老いのマーケット」と「働き育み生活する若年者のマーケット」を両睨みするとき、俄然、注目しなければならないのが、「郊外住宅地」という、多少古くて、そして新しい存在である。今、高齢化の進展が激しいのは都市の郊外である。一方、子育てにとって、郊外の魅力は捨て難い。子供は広々としたところで、伸び伸びと育てたい。
だから、郊外を、郊外住宅地を、元気に、より魅力的にできないか。それについて考えてみよう。