昭和2桁世代が新たに高齢者のマーケットに参入するにあたって、新世代高齢者の暮らし方や住まい方に関心が集まっている。
2004年度には、そうした新しい動向について、需要者サイドの動き、供給者サイドの動きの両面について、各界から有識者を招いて講演と討議を行ってきた。一連の研究会を通じて、需要者、供給者ともに従来になかった様々な新展開を図っていることが明らかになった。
 これに対して、2005年度は、高齢者の安定的な生活を成立させる上で、ハードと並んで重要なソフトサービス、すなわち、高齢者のための様々な生活支援サービスにどのような動きが出てきているのかを、一連の研究会を通じて明らかにし、Web上に公開していくこととする。
 そして、第1回の今回は、マンション管理センターの廣田信子さんを招き、ソフトサービスの中でも、マンションに焦点をあて、「マンション管理と高齢者向けのサービス」について講演をしていただいた。

■主 催
高齢社会研究会
■日 時
 

平成17年12月21日(水)

  18時00分〜20時30分
■会 場
 

住宅生産団体連合会 会議室

 

1.挨拶
園田眞理子(明治大学助教授)
2.第1部 講演「マンション管理と高齢者向けのサービス
  講師 廣田信子氏(マンション管理センター 総合研究所所長代理)
3.第2部 座談会
  司会進行 園田眞理子(明治大学助教授)
  メンバー 高齢社会研究会
    住宅生産団体連合会会員企業メンバー
 
あ
   
 

 

1.マンション管理と居住者の高齢化による課題
 1−1.マンションの高齢者居住のパターンと課題等
  ・ 「いきさつ」によるパターンと課題
ア) 住み続けて高齢化
   ⇒ マンションの老朽化と複合した問題
イ) 高齢になって積極的に選択
   ⇒ サービス体制も含めて自分に合っているマンションを選ぶことが
      できるかどうか
ウ) 子供の近くに呼び寄せ
   ⇒ 孤独の解消(引越先の近所付き合いがない)、子供との連絡体制

・ マンション全体との関係

ア)入居時から住み続けて、高齢になった人が多い
   ⇒ コミュニティがしっかりとれていることが多い
イ)入れ替わりが多く、若い家族(区分所有者)との混在
   ⇒ 意見が対立することも
ウ)賃貸化、事務所化が進み、居住する区分所有者は高齢者
   ⇒ 問題を対処する人材不足
エ)高齢者向けサービスが充実しているマンションの高齢者
   ⇒ 今はよいが、今後、区分所有者が若者へ変化していくと
       サービス内容が変化する可能性あり

 1−2.ハートビル法施行以前のマンションにおけるバリアフリー対策など
  ・エントランスのスロープ設置等で比較的バリアフリー対策がしやすい
 マンションでは合意が得やすい。

・管理組合活動、コミュニティがしっかりしているマンションでは、
 実施、または検討が進んでいる
 1−3.管理組合活動の課題等
  @ 高齢者の総会への出席ができなくなる
   ⇒ 重要なことが決められなくなる
A 役員の人材がいない
   ⇒ 修繕などに関する課題に対して、適切な判断が難しくなる
B 年金生活の中で、経済的なゆとりがない世帯が増える
   ⇒ 管理費、修繕積立金の値上げ、一時負担金の徴収が難しくなる
 
2.マンション居住の高齢者が必要とするサービス
 2−1.マンションの今後の方向性を決めることが求められる
  @ マンションの建築年、性能
A マンションの規模、敷地のゆとり、立地条件
B 専有部分の広さ、バリエーション
C 区分所有者の居住状況、年齢構成等
⇒@〜Cを総合的に考え、判断して、マンションの将来の方向性を決める必要が生じる
 2−2.高齢者の居住に関する総合的アドバイスや支援
  @バリアフリー改修支援
A移り住み先の情報提供、購入、売却支援
B賃貸への支援
Cフィナンシャルプランに関する支援
D福祉関連の情報提供
 ⇒これらの支援内容を、地域貢献としても、前期高齢者(65〜74歳)が
    コミュニティビジネスなど立ち上げて進める可能性もある。
    (立ち上げに行政の支援があれば軌道に乗せやすい)
 
 第1部の結果にもとづき、「マンション管理と高齢者向けのサービス」について、さらに掘り下げて議論した。

  1.今後、高齢者の住まい方が多様化した場合、ケアの効率化等の面から、高齢者を積極的にマンションに呼び込む仕掛けや管理の仕方はあるのか?
    高齢者福祉と連動させた具体的な事例はまだない。地域の高齢者福祉とマンション管理は別々に論じられている。集まって住むマンションを一つのマスとして考えれば行政としても効率のいい高齢者支援ができる可能性もあるが、現状は、各々自力でやっている。マンションの高齢者問題は、高齢者サービス以前に、高齢化の中でマンションそのものを適正管理できるかという部分が大きい。
今後、マンションストックが増えると、高齢化が進んだマンションの空室化、スラム化も心配される。これを防ぐためにはビジネス展開も含めたマンションの活用が求められてくる。そうした中で、マンションコミュニティ全体で高齢者居住を支援する「区分所有」の枠を超えた事業展開も必要になってくると考えられる。
 
  2.マンション規模(マンションの戸数)が大きいと、共用施設やサービスが充実して人気も高いが、反面規模が大きいと合意形成が難しい。このバランスはどのようにとるべきか?
    確かに合意形成は規模が大きいと難しくなる。しかし、大きいということはスケールメリット、経済的なメリットがあるので、資産価値が上がるといった経済的なメリットが明確になることが求心力をもつ可能性はある。
 
  3.マンション管理士などの専門家が管理者の一員になるといいのでは、と提案されていたが、事例はあるか?
    昔は管理会社が実質的管理権を握っていてトラブルもあった。これに逆戻りではない、新しいプロによる管理の仕組みの模索が始まってる。管理士が管理者として定着するには、管理士のサポート体制や責任を保証する仕組みが確立されていないと難しい部分がある。管理士が管理者となっている事例はまだあまりないが、顧問契約はかなりみられる。
 
 
  4.地域に溶け込めている人はいいのだが、なかなか溶け込めない状況だと、入居者の頻繁な入れ替えにつながると思うのだが、管理組合は地域コミュニティの形成を促すためにどんな働きかけが出来るか?
 

  コミュニティ形成には、顔見知りになって挨拶を交わすのが第1歩。トラブルにも、何でも白黒つけるのではなくお互いが歩み寄るという、ある程度の曖昧さも必要。管理組合は、法律や規約をきちんと守るという厳格さと居心地のいいコミュニティのための曖昧さの両方のバランスをとる必要があり、そこが難しいところ。

 
 
  5.都心型マンションで、高齢期なると家計から管理費の捻出は苦しい部分もあり、そう考えると賃貸の方がいいのか?分譲に関してはどう考えるか?
    例えば、分譲マンションと終身利用型の有料老人ホームを考えてみると、お金を払ってしまって運営母体が潰れた場合、保証はなく、そう考えると分譲で区分所有していれば自分の分は担保される事もあると考える。
 
 
  6.分譲ではない、高齢者用賃貸住宅の可能性はどう考えているか?
    賃貸も可能性はあると思うが、移り住むタイミングがカギとなる。元気なうちは住み慣れた自分のマンションに住みたいというのが普通。しかし、体が悪くなってから移り住むのではその先のコミュニティ形成が難しい。元気なうちに高齢者用集合住宅に移り住んでコミュニティを新しくつくるという考え方もある。

  しかし、現状では賃貸は空間的に分譲のものに比べれば著しく劣るし、コミュニティや混ざり合って住むことの難しさもあり、一概に賃貸が良いとも言えない。
今後は、生活の利便性や、生活のコンパクト化等の点から、高齢者の居住形態としては、分譲か賃貸に関わらず集合居住は一つの核として位置づけられていくだろう。