【第二部 座談会 】  
19:20〜20:30
       
 

Question:

 地方でのマンション居住者の高齢化はイメージ出来るのですが、都心のマンションで「これからマンションは高齢化する」といわれてもイメージしにくい。例えそうでも都心のマンションでは完全な高齢者だけのマンションといった形にはならないと思うのですが。    
また、高齢者を積極的にマンションに呼び込む仕掛け、又はそういったハード面(管理費、維持費)だけではないソフト面(生活支援)も含めた管理の仕方はないものでしょうか?


Answer:

 マンション管理の世界ではマンション居住者の高齢化も大きな課題の1つですが、地域の高齢者福祉とマンション管理の問題は行政の縦割り体制の中では別々に論じられています。ようやく同じテーブルについて考えていこうという動きが始まった自治体もありますが、まだ具体的な形にはなっていません。マンションは集まって住んでいますので、一つのマスとして考えれば、効率のいい高齢者支援の方法も考えられるはずですから、今後は一体になって考えていくべきでしょう。

マンションの問題は、まず建物が老朽化したマンションで居住者の高齢化も進むと言うことです。30年前、40年前に建った都心マンションでは、居住者の高齢化と共に、事務所化、賃貸化も進む。そうすると、生活とは無関係の事務所や入れ替わりの激しい賃貸世帯が多くなり、あとの分譲当初から住んでいる世帯は高齢化が進むという構図になってしまいますね。そうなると管理組合運営そのものが難しくなるという状況があります。

都心の千代田区・中央区などは住宅統計調査の「鉄筋コンクリートの持ち家に住んでいる」という区分でマンション居住者をみると、実際にあるマンションの部屋数とかなりの差があります。区分所有していてマンションの部屋が例えば100戸あるとするとそこに自ら居住している人はその半分ぐらいのところもある。つまり、マンションのハコの半分くらいが第三者への賃貸物件として、又は事務所として利用されているという実態が数字からも見受けられます。一方、郊外では分譲マンションに住んでいる人とマンションの部屋数との数の差はあまりない。多くの方が自ら自分のマンションに住んでいる訳です。

立地のいい都心のマンションは、建物が古くなり、自分も高齢になって、いよいよ困ったら、事務所や賃貸としての需要があるので売って住み替えたり、貸すこともできる。同じ町内での住み替え等も比較的可能である。マンションで高齢居住者の対策を考えるというより、高齢者対応の新しいマンションや施設に住み替えという方向に進むと思われます。

しかし、地方や郊外の古いマンションでは、昔は階段室型で高齢者には住みにくい形態の団地も多いが、そう簡単には住み替えられない。経済的な問題もあるが、長年住み慣れた街で、なじんだコミュニティの中で過ごしたいと考える高齢者が多いからである。

マンションという集まって住む居住形態では、同じような立地でも、20年経っても8割位は入れ替わりがないマンションもあれば、居住者がどんどん入れ替わっているマンションもある。初期段階に良好なコミュニティが形成されたところでは、居住者にとって住み心地がいいので住み替えが少なく、さらにコミュニティの形成が進み、マンション全体で高齢者対策を考えようと言う機運になり、バリアフリー改修等も進みます。一方、管理組合内に対立があり入居者同士の仲が悪いとコミュニティが形成できない。そういうマンションは入れ替わりも激しくなり、よりコミュニティが形成されにくいという悪循環になる傾向があります。住み替えが進み、どんどん若い世代が入ってくると、当初からの入居者には悩ましいが、マンションで高齢居住者対策を考えるとはいかないことになります。やはり、マンションで高齢者問題を考える上で、コミュニティの形成は重要なキーワードになります。

 

Question:

 ということは、サービス提供以前の問題ですね?

Answer:

 マンションで高齢者サービスを考える前提として、まずマンションが適正に管理されていて、そこに良好なコミュニティが形成されているということが欠かせません。

これだけマンションストックが増えてくると、老朽化、高齢化が進みマンションの維持管理すら難しくなるマンションが心配されます。地方都市の郊外では、高齢者が退去したりなくなられた後の住み手がなく、空室化が進むことが問題になり出しています。賃貸化の先にはもっと深刻な空室化の問題があります。

こういったマンションストックも有効に活用する方法を考えないと、空室化は確実にマンションのスラム化に繋がります。それを防ぐためには、持ち家としてのマンションの概念を広げ、マンションを有効に活用するアイデアも必要とされるのではないかと思います。

立地があまりよくなく古いマンションでも、コンセプトをしっかり打ち出せば、また新たな需要を呼ぶことが可能です。今は雇用も安定しないし、借金をしたくないと考える若年層が、少し貯金をして自分たちに手が届くマンションを資産というより賃貸感覚で購入するという傾向も出始めています。世帯は増えないのに、マンションストックがどんどん増えていく訳ですから、企業が買ってビジネスとして賃貸化することも、居住する区分所有者にとって好ましくないとばかりいってはいられません。マンションのスラム化を防ぐためには、ビジネス展開も含めた現実的なアイデアを出していく必要があるでしょう。

ハートビル法以前のマンションでは、物理的又は経済的に、バリアフリー化が不可能なマンションもあります。高齢化に適応できるマンションかどうかを早めに見極めて住み替えることも選択枝に入れて考えていかなければなりません。

これからのストックの時代には、すべてのマンションが同じ方向を目指すのではなく、そのマンションの実情にあった今後の管理方針を明確にし、購入者はニーズに合わせて効率よく住み替えていくことで、ストックの有効活用をはかる必要があります。

一つの団地で、すべての棟にエレベーター設置はコスト的にも難しいとしたら、ある棟を高齢者用としてバリアフリー化し住み替えを促す。又は高齢者は1階に住み替え、4階、5階は若年者が入居しやすくするといった工夫で、団地全体とし高齢化対応を考えることも必要になるでしょう。

しかし、「区分所有」という所有形態が、コミュニティの全体ビジョンに基づいた住み替えのハードルを高くしているという事実はあります。例え同じ団地、同じマンション内でも、住み替えは、区分所有者の合意に基づくもので、もちろん管理組合等には強制力はありません。こういった住み替えを促すためには、合意形成のための支援や税制上の優遇措置等の政策がないとむずかしい側面もあります。



Question:

 マンションの成り立ちと後々の管理関係についてお聞きしたいのですが、一般的には、マンション規模(マンションの戸数)が大きく、共用施設やサービスが充実しているマンションは人気も高いものなのでしょうが、大きいとそれなりに合意形成が難しいという面もありますよね。そこのバランスはどのようにとっていくべきなのでしょうか。


Answer:

 管理に係る費用負担やサービスの質、共用施設の充実という点ではスケールメリットはありますが、規模が大きいといろいろな考えの人がいるので合意形成がたいへんという面は確かにあります。エレベーターの設置や耐震改修工事、高齢者向けのサービス施設の増設のように敷地内や共用部分を大きく替える場合は3/4の賛成が必要ですから簡単にはいきません。しかし、自分に直接メリットがあるかどうかでなく、それによってマンション全体の資産価値が上がるというように経済的メリットが明確になると求心力をもつ可能性も高くなります。また、建物の老朽化が進むと、そういうマンションは居住者の高齢化も進んでいるんですが、いずれは建替えも考えなければなりません。

建替えとなると4/5の賛成が必要になりますので合意形成は大変な作業です。しかし、合意形成の一番のネックは費用負担ですから、規模が大きく敷地や容積率に余裕があり、余った床を販売することで個人の費用負担が少ないという経済的メリットが求心力を持つ側面もあります。敷地いっぱいに建っている、既存不適格で建替えによって面積が減ってしまうようなマンションは、建て替え費用は全額区分所有者の負担で、面積的なメリットもない訳ですから、よほどの好立地でないと合意形成は難しいですね。年金暮らしの高齢者が費用負担できなければ、建替えたマンションに戻ってくることもできず、コミュニティを離れなければならないのですから。

一方、コミュニティという規模でもない都心部の好立地の10戸位の小規模マンションは、実質的建替えが結構進んでいます。区分所有者が自ら建て替えて住むというのではなく、企業が全戸買い取って、建て替え、また分譲するという形で建物は新しくなっていきます。小規模だと、個別の売買交渉がしやすいのでこういった実質的建替えが可能になります。経済的メリットがあれば企業が乗り出すので、スラム化したまま放置されるということはない訳です。

しかし、企業が乗り出すようなマンションはごく一部で、経済的問題がネックで合意形成ができずスラム化するマンションは確実に出てくると思われます。
マンションストックが増えてくると、わざわざ高額な費用負担をし、合意形成に苦労して建替えるメリットがなくなってきます。別の所に住み替え、更地にして売却代金を精算するということも現実的選択枝になってきます。しかし、現在の区分所有法では、区分所有者が建替える場合の手続き規定はありますが、更地にして清算するシステムがありません。老朽化したマンションが放置されスラム化するのを防ぐためにも法整備が必要で、今後の検討課題の1つだと考えます。

実際、自分たちの力で管理し切れずマンションがスラム化してしまうケースも出てくる訳で、自力で建替えが難しい老朽マンションをどのように支援するかが今後のテーマになるのではないでしょうか。法律の枠組みでは、マンションは私有財産ですから、自分たちで責任を持って管理し、問題が発生した場合の後始末も自分たちでとなりますが、スラム化したり、放置されたマンションは、治安の問題、地震による倒壊等、個人の問題に止まらず、近隣住民にとっても大きな問題です。





       

Question:

 マンション管理士などの専門家が管理者の一員に加わる必要性もあるのではと、先ほどおっしゃられていましたが、何か事例はありますか。

Answer:  ちょっと歴史的背景をお話しすると、20年前ぐらいまでは、マンションは管理会社が管理してくれるものという感覚が強く、自分たちが自ら管理していくものだという意識が希薄でした。区分所有法は「管理者」を決めて、その「管理者」に一定の義務と権限を持たせて管理を行っていく形をとっています。

 昔はその管理者を「管理会社」としているところも少なくありませんでした。任せきりでは管理会社のやりたい放題になってしまい問題も多いことから、20年前にできた「標準管理規約」という規約のモデルでは、理事を区分所有者から選び、理事長を「管理者」とする形をとっており、これが管理組合運営の形として定着しました。しかし、形は整っても、居住者が高齢化し経年が進んだマンションでは、発生する問題も高度化するのに、役員のなり手がない、自分たちで判断できなない、問題解決ができないという実態も明らかになってきています。

その中で、プロによる管理という考え方も1つの選択肢として復活させる必要があるのではないかという研究も始まっています。そのプロに当たるのは「管理会社」や「マンション管理士」になります。「管理者」はお金に関しても一定の権限を持ちますので、昔に逆戻りして管理会社任せきりにならないような歯止めも必要になります。外部監査を入れて管理会社をチェックするような仕組みが検討されています。

中立性を持つ第三者の「マンション管理士」が管理者となるのは、管理組合にとって意味がある選択だと考えますが、管理組合が個人の管理士に安心して仕事を任せられるようになるには、管理士をチェックしたりサポートする仕組み、責任を連帯して保証するような仕組み等まだまだ研究が必要なのも事実です。したがって、マンション管理士の本格的管理者選任はあまり聞きません。自分のマンションの管理者になるといった事例を幾つか聞く程度です。プロのマンション管理士への信頼感や評価がもう少し定着する必要があるでしょう。

しかし、マンション管理士を顧問として採用する管理組合はかなり増えてきました。管理組合へのアドバイスや資料作成、実際の運営補助業務、会計や委託業務のチェック等を受け持つ訳ですが、こういった専門的知識を必要とする部分をプロに依頼することで、素人でも安心して理事が務められますし、管理組合としての判断力や実行力もアップします。顧問としての評価の定着が、いずれは、その先の管理者へと繋がっていくと思われます。


       
Question:

 地域に溶け込めている人はいいのですが、なかなか溶け込めない状況だと、良好なコミュニティが育たず、入居者の頻繁な入れ替えにもつながると思うのですが、管理組合は地域コミュニティの形成を促すためにどんな働きかけが出来ますか。


Answer:

 いろいろな働きかけがありますが、私はまず一番の基本は「挨拶」だと思います。お互いが挨拶を交わすぐらい顔見知りになる。それが第1歩です。中には挨拶を返さない人がいても、そこは心に余裕がある方が挨拶し続ける、人付き合いが苦手な人でも、そのうち挨拶するようになる、その次には、ちょっとお天気の話しなどしてみる…そういう地道な心がけが基本だと思います。いきなり「お祭りに参加を」といっても、人付き合いが苦手な人は出てきません。何でも便利にしないで、回覧板を回すといったアナログなことも、隣の人と顔を合わせるきっかけになります。

また、コミュニティの形成には感情的対立を生まない努力も重要です。そのためにはどちらが正しいのかを徹底追求するのでなく、どうしたら皆が住みやすくなるのかを考えるべきですね。

トラブルを解決するのに、法律や規約は基本となるものですが、それですべてが白黒つくものではありません。隣近所の付き合い方のルールには曖昧な部分が当然あります。ある事例なのですが、専用庭の扱いについてトラブルになりました。専有庭は共有部分扱いなのですが、通常の手入れは使用している方が行うのがルールです。入居のころ、飛んできた種が十数年後大きな木に育って、2階の住民から日陰になるから切ってほしいと要望がありましたが、この際の費用はどうなるのでしょう。

1階の人からすれば自分が植えた木でもなく、結構気に入っていた木なのに費用を負担して切れと言われても納得いかないでしょう。しかし理事の中には日常の手入れは使用者の責任だから自分で費用を負担するのは当たり前という意見もある訳です。「通常の使用」とはどこまでをいうのかという規約の解釈論を、勉強した知識などを持ち出してきて、延々と両者に分かれて争っているのですが、あまり意味があることとは思えません。要は感情的な部分も考慮してうまく解決することが知恵というものです。2階の人は日が遮られ困っている、これは何とかする必要があるのですが、1階の人の気持ちの問題もある。切ることも抵抗があるのに、もっと早く切らなかったのが悪いんだから費用も出せでは収まりません。その場合はせめて費用は管理組合が負担するとしても問題はないでしょう。

居心地のいいコミュニティには、曖昧さも時には必要だと感じます。何でも白黒付けずに歩み寄ることも知恵です。トラブルになって、白黒つける付けるために訴訟というのは最後の最後の手段です。結局同じにマンションには住めなくなってしまうし、2派に分かれて争っているマンションではコミュニティは育ちません。
規約でルールを明確にすることは重要ですが、運用に当たっては、感情的な部分という曖昧な部分も含めて、うまく収めていくことが求められます。
そして、1人1人の居住者は、ちょっとずつ他人に寛容になるように心がける。そんなところが、マンションコミュニティ形成のこつだと思います。


   
Question:  高齢者が都心型マンションで、年金の中から何万も管理費を出すのは苦しい部分もあり、そう考えると賃貸の方がいいのですか。

Answer:  管理費や修繕積立金の負担はあるが、賃貸だって家賃は必要になる。また、分譲マンションは資産ですからいざとなったら売って現金にすることができる。終身利用型の有料老人ホームを考えると、お金を払ってしまって、運営母体が潰れちゃった場合、保証はない訳です。区分所有していれば資産として担保されます。

高齢者住宅は賃貸が中心ですが、高齢者住宅、高齢者福祉を考えた場合、マンションのような「区分所有」も一つの選択肢ではあると思います。公的な支援と組み合わることで、あたらしいモデルが考えられるのではないでしょうか。

   
   
Question:
 高齢者用賃貸住宅に対するお考えはどうですか。

Answer:  高齢者だけが住んでいる賃貸マンションというよりも、若い世帯もある住み慣れた自分のマンションに元気なうちは住んでいたいと考えるのが一般的ではないでしょうか。住みなれた地域に住み続けたいと考える人も多いですね。

しかし、体の自由がきかなくなったから高齢者住宅に移り住むというのも、その先でコミュニティ形成がうまくいくのか心配な部分もあって難しい。同じ地域内で高齢者住宅に住み替えられれば理想でしょうが。



   
総括:

 今後、高齢者の居住形態としては、生活の利便性や、生活のコンパクト化などの点から、集合居住は一つの核として位置づけられなくてはなりません。
しかし、介護等、様々な問題があり、本日の先生のお話で区分所有についても、山あり谷ありということがわかりました。

一方、有料老人ホームと賃貸型でいいかというと、空間的に分譲のものに比べれば著しく劣るし、コミュニティや混ざり合って住むことの難しさもあり、一概にそういうわけでもないようです。このあたりを解くことが、高齢期居住の1つの鍵のように見えました。