ストリートビュー画像と深層学習を用いた京都中京区の建築様式多様性マップの作成

1.はじめに

京都は日本を代表する歴史都市の一つであり、長い都市発展の過程の中で伝統建築を主体とした独自の都市景観を維持し、世界的に知られる文化都市景観を形成してきました。しかし近年、都市の近代化や観光の拡大に伴い、近代建築が伝統的街区へ浸透しつつあり、従来の都市景観に新たな変化をもたらしています。このような背景のもと、伝統的建築と近代建築の様式を比較的効率的に識別し、都市景観の変化状況を可視化することは、都市計画および文化遺産保全において重要な課題となっています。 従来の現地調査は詳細な知見を得られる一方で、大規模都市域への適用には、識別・分類効率の低さ、主観性の強さ、大規模かつリアルタイムな更新の困難さといった制約があります。近年では、GIS(地理情報システム)とCV(コンピュータビジョン)技術の統合により、大規模都市形態研究に新たな可能性が示されています (Yang et al., 2024)。学習済み深層学習モデル(コンピュータが大量のデータから特徴やパターンを学習するAI技術)を用いて大量のストリートビュー画像を自動処理することで、建築様式の識別・分類をより客観的かつ高精度・高効率に実施することができます (Yinan, 2023)。 本研究では、先端技術を活用しながら、対象地域の伝統建築と近代建築を自動的に分類する方法を検討します。京都市中京区の街路沿い建築の立面画像を収集・分類することで、都市中心部における建築様式の空間分布を可視化し、都市景観の視覚的連続性を明らかにします(図1)。得られた成果は、京都の都市デザインおよび景観保全計画に対する定量的根拠を提供するとともに、歴史都市における景観資源管理のための新たなデータ支援および方法論的示唆を与えるものです。

図1 分析フロー

2.研究対象地

本研究の対象地は京都市中心部に位置する中京区であり、日本の伝統都市景観と近代的都市開発が交錯する典型事例として選定しました(図2)。中京区は京都特有の碁盤目状街路構造を維持している一方、内部の建築様式は高度な複雑性と顕著な多様性を示しています(森重,田, 2017)。また、同区には歴史的記憶を体現する京町家が密集して保存されている一方で、経済の中心地区として近代建築の浸透も継続しています。このような「新旧共存」の空間構造は、建築様式の視覚的連続性および空間分布パターンを検討する上で理想的な研究対象と言えます。また、急速に変化する都市景観は、深層学習による建築認識や多様性マップの構築を行う上で、豊富かつ多次元的なデータ基盤を形成しています。

3.研究データ

本研究で用いたデータは主に、中京区の街路沿い建物のストリートビュー立面画像です。取得手順は以下の通りです。

1) まず、OpenStreetMapから中京区の道路ネットワークおよび全建物ポリゴンを取得しました(図3)。
2) ストリートビュー画像は街路沿い建築のみ取得可能であるため、街区内部の建物ポリゴンは後続処理において混乱や計算コスト増大を招く可能性があります。そこでPythonによるフィルタリングを実施し、街路に面する建物を抽出しました(図4)。具体的には、道路を平面投影座標系上で半径10mのバッファ処理し、建物境界がこのバッファと交差する長さを算出して「接道長」と定義しました。接道長が1m以上、または建物周長の5%以上の場合に街路沿い建物と仮判定しました。さらに建物と最寄り道路との距離が10m以下であることを条件とし、判定の安定性を高めました。
本研究では比較的緩やかな閾値を採用しており、目的に応じて調整可能です。
3) 抽出された建物の重心を算出し、最寄り道路へ投影しました。その投影点を基にGoogle Maps PlatformのStreet View Static API から建物立面画像を取得し、計21,885枚のSVI(street view image)を得ました。
4) SVIの特性上、遮蔽・過小表示・過大表示などにより無効な画像が含まれるため、Cityscapesデータセット (Cordts et al., 2016)とSegFormerモデル (Xie et al., 2021)を用いてセマンティックセグメンテーションを実施しました(図5)。画像中で「building」が最大割合かつ40%以上、「road」が10~30%の範囲にある画像のみを採用しました。
5) その結果、最終的に15,677枚の有効な建物立面画像を取得しました。

図3 中京区の道路ネットワークと建物ポリゴン

図4 中京区の道路ネットワークと街路沿い建物ポリゴン

図5 CityscapesデータセットとTransformerモデルを用いたSVIセグメンテーションの例(元画像出典:Google Street View)

4.方法と結果
4.1 建築立面様式データセットの構築

本分析では、街路沿い建物の立面を伝統様式と近代様式の二分類とすることを目的とし、中京区で収集した立面画像から、伝統様式建物の代表例600枚(図6a)および近代様式建物の代表例600枚(図6b)を手動抽出し、様式学習用データセットを構築しました。

図6 伝統様式建物(a)および近代様式建物(b)の例
(画像出典:Google Street View)

4.2 様式予測モデルの学習

建物立面の様式予測モデルには DenseNet121 アーキテクチャを採用しました (Huang et al., 2017)。様式データセットは、学習用・検証用・テスト用に 8:1:1 の割合で分割しました。複数回の学習を行った後、最も精度の高かった学習段階のモデルを保存し、その予測結果を可視化しました。結果から、両様式カテゴリにおいて予測精度(accuracy)が0.97以上と高い水準に達していることが確認されたため、本モデルを最終的な予測モデルとして採用しました。

4.3 全SVIの様式分類

学習済みモデルをすべての街路沿い建物の立面画像に適用し、様式分類を行いました。以下に、その結果得られた空間分布を可視化しています(図7,0:伝統様式建物、1:近代様式建物)。

図7 中京区における街路沿い建物の伝統様式・近代様式の分布図

5. 結論と考察

本研究では、地理情報システム(GIS)、コンピュータビジョン(CV)、および深層学習技術を統合した建築様式の自動分類分析フレームワークを構築し、京都市中京区における街路沿い建物様式の大規模識別および空間パターン分析を可能にしました。その結果、中京区の建築様式は、中心への集積・軸線沿いへの浸透・軸線に沿った拡散という特徴的な空間パターンを示すことが明らかとなりました(図7)。 伝統様式建物は、中心部への集中および路地内部への集中という顕著な分布傾向を示し、二条城東側から烏丸通西側にかけての中央区域に高密度で分布するとともに、北西方向の西陣地域へと連続的に広がっています。この分布は、スケールの連続性が保たれ、都市組織が良好に残存する歴史的保全エリアを形成しています。また、これらの建物は主として副次街路や路地に立地しており、主要な近代交通軸から離れた地域ほど、伝統的都市形態の持続性が高いことを示唆しています。 一方、近代様式建物は交通軸に沿った発展傾向に従い、烏丸通、御池通、河原町通などの主要幹線道路に沿って線状に拡大しています。この分布は、都市の近代化過程において主要交通軸が優先的に更新され、低層の伝統住宅形態から多様な近代建築へと転換してきたことを示しています。その結果、中央保全地区と比較して、東側の商業地区では近代建築の比率が著しく高くなっています。 さらに空間分布図から、中京区は現在、伝統的な都市骨格や建築群の中に、近代様式の建物が内包されるという、当初とは逆転した入れ子状の形態構造にあることが示されました。また、新旧形態が交互に現れる遷移帯では、モザイク状の混在分布が明確に確認され、伝統的区画が徐々に、かつ断片的に近代建築へ置き換えられていくミクロな変化過程を反映しています。このような不均質な空間構造は、将来の都市計画および景観保全において、幹線道路沿いの再開発による歴史地区のさらなる分断を防ぐため、これら混在する遷移縁辺地域への重点的配慮が必要であることを示唆しています。 本研究は、SVIを用いた都市景観特性の定量的かつ大規模分析の有効性を示した一方で、いくつかの課題も残されています。第一に、本研究の分類は建築様式を伝統と近代の二分類に単純化しており、昭和初期様式やポストモダン様式など、より細分化された様式スペクトルを捉えていません。第二に、Google Street Viewの撮影点位置精度および京都特有の狭い立面幅の影響により、単一の撮影点に複数建物が対応する場合があり、局所的なデータのズレが生じている可能性があります。今後は、建設年代等の多様な情報を統合することで様式変遷メカニズムの解明を進めるとともに、多視点画像融合手法の導入により遮蔽やサンプリング制約によるバイアスを低減することで、より精度の高い分析が可能になると期待できます。

文責: CHEN Yinan, ZENG Erli, 谷川 百音

参考文献
  • [1] Cordts, M., Omran, M., Ramos, S., Rehfeld, T., Enzweiler, M., Benenson, R., Franke, U., Roth, S., & Schiele, B. (2016). The Cityscapes Dataset for Semantic Urban Scene Understanding. 2016 IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), 3213-3223. 2016 IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR). https://doi.org/10.1109/CVPR.2016.350
  • [2] Huang, G., Liu, Z., Van Der Maaten, L., & Weinberger, K. Q. (2017). Densely Connected Convolutional Networks. 2017 IEEE Conference on Computer Vision andPattern Recognition (CVPR), 2261-2269. https://doi.org/10.1109/CVPR.2017.243
  • [3] Xie, E., Wang, W., Yu, Z., Anandkumar, A., ?lvarez, J., & Luo, P. (2021, May 31). SegFormer: Simple and Efficient Design for Semantic Segmentation with Transformers. Neural Information Processing Systems. https://www.semanticscholar.org/paper/SegFormer%3A-Simple-and-Efficient-Design-for-Semantic-Xie-Wang/e3d7778a47c6cab4ea1ef3ee9d19ec1510c15c60
  • [4] Yang, J., Fricker, P., & Jung, A. (2024). From intangible to tangible: The role of big data and machine learning in walkability studies. Computers, Environment and Urban Systems, 109, 102087. https://doi.org/10.1016/j.compenvurbsys.2024.102087
  • [5] Yinan, C. J. (2023). City Diversity: How Do Architectural Uses, Ages, and Styles Affect the Public? A Case Study in Manhattan Through Social Media Data. C+++: Computation, Culture, and Context - Proceedings of the 11th International Conference of the Arab Society for Computation in Architecture, Art and Design (ASCAAD), University of Petra, Amman, Jordan [Hybrid Conference] 7-9 November 2023, Pp. 463-486. https://papers.cumincad.org/cgi-bin/works/paper/ascaad2023_052
  • [6] 森重幸子, 田光雄. (2017). 「歴史細街路」沿いのまちなみの維持・継承における課題. 日本建築学会計画系論文集, 82(734), 941-951. https://doi.org/10.3130/aija.82.941