お団子と串でつくるコンパクトシティ富山 ― 再開発された中心市街地と、街をつなぐLRT ―

◆富山市のコンパクトシティへの取り組み
 富山市は日本海に面した人口約40万人の中核市であり、富山県の県庁所在地です。現在の富山市は、2005年に周辺市町村との合併を経て誕生しており、旧富山市地域の人口は32万人程度となっていて、旧周辺町村の区域にも多くの人が居住しています。
 そんな富山市のまちづくりで有名なのが、お団子と串の都市構造です。市街地の低密度化が進み、自動車交通に依存しているなかで、市街地の拡散に歯止めをかけ、人口縮小に備えて効率的な都市経営を実現するために、富山市ではコンパクトシティ政策が進められてきました。その基本方針として、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりを掲げ、実現する都市構造を「お団子と串の都市構造」と称しています。お団子と串とは、徒歩圏で形成される都市拠点・生活拠点を団子、その間の公共交通ネットワークを串に見立てた表現です。つまり、各拠点をコンパクトに整備し住民と施設を誘導するとともに、それらの拠点を結ぶ公共交通を整備することで、都心に対する利便性も確保するという計画です(図1)。
 今回は、富山市のコンパクトシティ政策で重要な役割を担う、再開発が進んだ中心市街地のまちなみと、拠点を結ぶ交通網の様子をご紹介します。


図1 お団子と串の都市構造(出典: 富山市都市マスタープラン)

◆中心市街地「総曲輪(そうがわ)」の再開発
 富山市の都市計画では、富山駅から総曲輪までの地域を都心地区として、広域的な交流拠点と位置付けられています。特に、富山駅から南に約1.5kmに位置する総曲輪地区は、以前から総曲輪通り商店街を有するなど県内最大の商業地域であったところに、さらに近年多数の再開発が進められています。例えば、2007年に百貨店である大和富山店をキーテナントとする複合商業施設の「総曲輪フェリオ(写真1)」と全天候型ガラス屋根を備えた広場である「グランドプラザ(写真2,3)」が、「総曲輪通り商店街(写真4)」と接するように開業しました。グランドプラザは、ベンチが多数設置され休憩スポットとなるとともに、ステージがあるなどイベントも開催可能な形に整備されています。訪問時も、多くの人でにぎわうとともに、募金活動のような人々の流れの多さを感じさせる活動も行われていました。


写真1 総曲輪フェリオ外観


写真2 グランドプラザ(南側から)


写真3 グランドプラザ(北側から)


写真4 総曲輪通り商店街

 また、旧西武百貨店富山店跡地には2019年に低層階に商業施設、高層階に住宅を備えた「プレミストタワー総曲輪」が、総曲輪通り商店街に接する形で建設されています。一階部分には、こちらも、建物の前には移動可能なベンチが設置され休憩できるようになっています(写真5)。


写真5 プレミストタワー総曲輪


写真6 プレミストタワー総曲輪を遠くから見た様子。周囲の建物と比べて非常に高いことがわかる。

 また、大和富山店の移転跡地には、隈研吾氏が設計し、図書館とガラス美術館を備えた「TOYAMAキラリ(写真7,8)」が開業しています。目を引く外観をしているとともに、内部も木とガラスを使った美しい空間が形成されていて、多くの人でにぎわっていました。


写真7 富山キラリ外観


写真8 富山キラリ内観

他にも、交差点に面する場所を中心にいくつか中高層の建物や新たな商業施設が建設されており、富山市によって本地域で戦略的に高度利用が進められてきたことが伺えました。(写真9)。


写真9 セントラルコート西町プレミア

再開発により、新たな大型施設が多数誕生している総曲輪地域ですが、一方で以前からの小規模なビルも多数残っていることから、統一感には欠けた街並みとなっています。富山市の都市構造において、市の計画において、富山駅から総曲輪にかけての地域は、広域的な機能と多様なサービスを備えた拠点として、市の魅力と活力を創出するものと位置付けられています。今後は、新たにできた施設の魅力を生かして、地域としての魅力を旧来のビルを含めて広げていけるかという点に課題があると感じられました。


写真10 総曲輪地区と通りを挟んで反対側のビルの様子。小規模で不揃いなビルが立ち並んでいる。


写真11 総曲輪通り商店街の裏の総曲輪地区の様子

◆交通の整備
 富山市では、コンパクトシティの実現に向け、地域生活拠点と中心市街地を結ぶ「串」と呼ばれる公共交通ネットワークの整備が重要視されています。そして、JR西日本が所有していた富山駅北側の鉄道路線(富山港線)を富山市を中心とする第三セクターで引継ぎLRT化して運行したり、駅と中心市街地を結ぶ環状の路線を新たに設けたりと、公共交通の強化を図ってきました。両路線はJR富山駅と同じ構内の一階部分に停車駅があり、一部の列車は駅を貫く形で直通運転しています(写真12)。軌道は、道路と併存して走っている区間(写真13)もあれば、専用の敷地内を走っている区間(写真14)もあります。運行されている車両には、大きく分けて新しく導入された超低床車両と旧型の車両(写真15)の二種類が存在し、前者が直通運転に対応しています。また、新型の車両はホームと車両との段差がほとんどなく、旧型のものも若干程度しか段差がないなど、バリアフリーに配慮した設計にもなっています(写真16,17)。


写真12 富山駅構内を横断するLRT車両


写真13 LRT車両が道路空間上で車と併存して走る様子


写真14 北の終着駅である岩瀬浜駅にて。北側では途中から車道とは異なる空間を走行する。


写真15 旧来型の車両


写真16 新型車両と駅のホームの間には、段差がない


写真17 旧型車両でも、段差はほとんどない

また、市の中心部では多くのシェアサイクルのステーションを見ることができました。


写真18 シェアサイクルステーション

◆駅と総曲輪をどうつなぐか
 富山市の中心部を歩いているなかで、感じられた課題の一つが、駅と再開発が行われている中心市街地との間の距離です。駅から総曲輪までは約1.5kmと、歩けない距離ではないですが、両地域の間の通りはオフィスや庁舎が立地しており、歩いて楽しめるような空間とはなっていないように感じられました。駅と総曲輪を結ぶ手段として環状線が整備されていますが、二つの魅力ある地域の間が見過ごされてしまうのはもったいないように思えます。本エリアが都市の魅力と活力を創出するには、駅周辺と総曲輪という二地点のみに人が集まるのではなく、その間にも魅力ある空間が広がることで、地域全体のポテンシャルを最大限活用していくことが必要ではないかと思います。また、輸送力という面においても、公共交通のみでは限界があるため、駅から総曲輪まで歩いていくということが自然に促される空間づくりが必要ではないかと感じました。

◆参考資料

-富山市都市マスタープラン (https://www.city.toyama.lg.jp/shisei/seisaku/1010738/1011468/1006110.html)
-富山市ウェブサイト 再開発事業等の実施地区 (https://www.city.toyama.lg.jp/shisei/machizukuri/1010808/1010815/1011786/index.html)
(文責・写真:衣笠匠斗)