震災の悲しみを繰り返さない街、陸前高田

◆はじめに・震災前の陸前高田

陸前高田市は岩手県南東部にある三陸海岸沿いの市です。陸前高田は1200年前から北方交易の拠点として栄えていたとされています。海沿いの砂州には江戸時代に高田の豪商である菅野杢之助によって松の植林が行われ、その後の増林によって7万本もの松が砂浜に茂り、高田松原と呼ばれるようになりました。高田松原は国の名勝として指定されるなど景勝地として評価され、マリンスポーツを楽しめる海水浴場と合わせて人気な観光地となりました。また、この松は防潮林としての機能も果たしており、1896年の明治三陸津波や1960年のチリ地震津波など、度重なる津波から市街地を守っていました。しかし2011年3月11日の東日本大震災では10メートルを超える津波が発生し、松原や市の中心部が壊滅し甚大な被害を受けました。本稿では陸前高田の防災・減災に取り組んでいる復興中のまちなみを紹介いたします。

◆市街地のかさあげ

災害に強い街を実現するには土木的な手法としては防潮堤の建設、高台への街の移転、街のかさ上げが挙げられます。陸前高田市は最初15mの防潮堤を要望しましたが、岩手県が決めた防潮堤の高さは12.5mになり、高台での宅地造成も市街地全部を移転できるほどの適地が無かったため、低地部にある市街地のかさあげが行われることになりました。かさ上げには膨大な量の盛土が必要となり、ダンプトラックでは9年かかるとされていた計画を全長3kmのベルトコンベアを導入することによって6年以上工期を短縮することに成功しました。かさ上げは大船渡線との立体交差などを理由に当初より規模の大きいものとなり最終的には海抜10mの街になりました(写真1)。こうして新しい市街地の土台が出来上がった陸前高田ですが、中心市街地には新しい複合商業施設や市庁舎など住民が集まる施設がオープンする一方で、被災者が戻ってこないため、民有地の利用率が伸び悩んでいて空き地が目立っていることや、大船渡線がBRT(バス高速輸送システム)になり(写真2)立体交差が不要であったといった課題もあります。

写真1 かさ上げされた市街地

写真2 大船渡線のBRT乗り場

◆高田松原津波復興祈念公園

東日本大震災による犠牲者への追悼や震災の記憶と教訓の後世への伝承を目的として整備された復興祈念公園が高田松原にあります。公園内には隈研吾建築都市設計事務所や内藤廣建築設計事務所など著名な事務所が手掛けた建造物があります。公園内には「祈りの軸」(写真3)と呼ばれる津波の襲来した広田湾方向と津波が遡上した気仙川上流部分を結ぶ軸線と「復興の軸」とよばれる震災の脅威を伝える旧道の駅と地域振興施設・新道の駅をつないだラインがあります。また、軸の交わる地点には東日本大震災津波伝承館があります。伝承館は「いわてTSUNAMIメモリアル」という名称がついており、「命を守り、海と大地と共に生きる」が展示テーマとなっており、被災者の声などから東日本大震災津波の事実と向き合うことができます。

写真3 祈りの軸

◆奇跡の一本松の保存プロジェクト

高田松原にあった7万本の松のうち東日本大震災に耐えたのは陸前高田ユースホステル(写真4)の敷地内にあった1本のみでした。この松は「奇跡の一本松」と呼ばれ、復興のシンボルとして親しまれるようになりました。しかし、震災による地盤沈下で塩水がしみ込んでしまった一本松の根は腐ってしまい、枯死が確認されました。そこで、復興の象徴として後世に受け継ぐために防腐処理や枝葉を複製したものに付け替えるなどの保存作業(写真5)を行い、元の場所に現在でも立てられています。現在、一本松は次世代への震災の記憶や教訓のために保存する震災遺構となっています。しかし、一本松の保存作業には多額の費用が投じられたため保存の是非については賛否両論があります。

写真4 陸前高田ユースホステル

写真5 奇跡の一本松

◆おわりに

本稿では陸前高田の防災・減災に取り組んでいる復興中のまちなみを紹介しました。二度と東日本大震災津波の悲しみをくり返さないという共通の目標を持ち、様々な取り組みが見られ震災前より改善された部分は多いと感じられました。一方で、住民の帰還など真の意味での復興に向けての道のりは長いと感じました。

◆参考文献

[1] 高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設:ホームページ(2022年12月6日)
https://takatamatsubara-park.com/
[2] 被災地最大級の造成工事を繰り広げた陸前高田市、目立つ広大な空き地(2022年12月6日)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01581/00004/
[3]陸前高田市:高田松原と奇跡の一本松(2022年12月6日)
https://www.city.rikuzentakata.iwate.jp/soshiki/toshikeikakuka/keikakukakari/2/2907.html
[4] [東日本大震災10年 秘話]<1>復興事業 かさ上げ、歯止めなく…陸前高田(2022年12月6日)
https://www.yomiuri.co.jp/shinsai311/feature/20210109-OYT1T50224/
[5]東日本大震災津波伝承館:ホームページ(2022年12月6日)
https://iwate-tsunami-memorial.jp/
[6] 東日本大震災津波からの復興に向けた基本方針(2022年12月6日)
https://www.pref.iwate.jp/shinsaifukkou/fukkoukeikaku/keikaku/1002582/1002583.html

(文責 江端吾朗)