酒田~米どころ庄内の湊町~

◆はじめに

 酒田は、山形県北部の日本海に面した港町で、庄内平野の中心部を流れる最上川の河口部に位置します。庄内平野は全国有数の稲作地帯として知られており、私たちが日常的に口にしているコシヒカリやひとめぼれといった品種は、いずれも庄内で育成された品種「亀の尾」をルーツに持っています。今回は、こうした米などの特産品の交易で栄えた酒田の歴史を中心として、特徴的なまちなみである山居倉庫・ケヤキ並木と中通り商店街をご紹介したいと思います。


図1:酒田市中心部の略図
(基盤地図情報をもとに筆者作成)

◆山居倉庫とケヤキ並木~米どころ庄内のシンボル~

 庄内において本格的に稲作が始まったのは約400年前のことです。もとより庄内平野は、豊富な水と肥沃な土壌、温暖で日照の良い夏といった、米作りに適した気候に恵まれていました。江戸時代に入ると、大規模な灌漑工事によって作付面積が飛躍的に増加したことで、全国有数の米産地として知られるようになります。
 1672(寛文12)年には河村瑞賢によって、酒田を起点とし日本海沿岸から大阪へと至る西廻り航路が整備されました。米や内陸の紅花などが最上川を利用して集積され、日本海・最上川の舟運の要衝となった酒田は、「西の堺、東の酒田」と言われるまでに繁栄を極めました。鐙屋、本間家など多くの豪商が活躍し、また交易を通じて上方などの文化が伝来したことで、湊町文化といわれる華やかで自由闊達な文化が育まれました。現在でも、本間家旧本邸や旧鐙屋といった豪商の商家・武家屋敷や、料亭、史跡などが市内に数多く残り、当時の繁栄ぶりを伺うことができます。


写真1:日和山公園
西廻り航路に使用された千石船が1/2スケールで再現・展示されている

 中でも、米の積出港としての繁栄の歴史を象徴する施設が、山居倉庫です。山居倉庫は、1893(明治24)年に酒田米穀取引所の付属倉庫として建設されたもので、2022(令和4)年までの129年にわたって現役の農業倉庫として利用されました。内部の湿気や熱を逃がし、屋根からの熱を防ぐため二重屋根構造になっており、また西日と強風を防ぐためにケヤキが植えられています。こうした構造上の工夫や厳しい選別審査などによる徹底した品質管理によって、「山居米」は高く評価されました。
 現在でも創建当初の姿をよく残しており、倉庫の一部は資料館や観光物産館として整備されています。倉庫群とケヤキ並木が織りなす景観は多くの人々を惹きつけ、現在の酒田を代表する観光地となっています。また、ケヤキは、酒田市の「市の木」に指定されていることから、地元住民にとっても酒田の象徴的なまちなみであるともいえるでしょう。


写真2:山居倉庫とケヤキ並木
ドラマ・CMのロケ地としても有名

◆中通り商店街~酒田大火とその復興~

 庄内の恵まれた気候と、最上川河口に接する港町としての立地は、酒田が発展する大きな要因でした。一方で、強風地帯として知られる庄内平野に位置している酒田は、過去にも幾度となく火災に見舞われてきた地でもあります。
 1976(昭和51)年10月29日に発生した酒田大火は、中心市街地の22.5haを焼失、1822棟を焼損させる大規模な都市大火となりました。その復興事業は、①将来交通量に対応した幹線道路の整備、②近代的な魅力ある商店街の形成、③住宅地の生活環境の改善整備、④商店街と住宅街の有機的な結びつけを骨子として計画されました。具体的には、広幅員の街路整備、公園や緑地の整備、防火水槽の設置などです。中でも特徴的なのは、中通り商店街に整備されたセットバック方式のアーケードでしょう。アーケードの存在が延焼の一因となったこともあって、道路上のアーケードは撤廃され、代わりに通り沿いの建物が1階部分を1.5mセットバックすることでアーケードを形成することになりました。これによって、風雪を凌げる利便性と防災性の両立に成功し、独特の景観を生み出しています。また、中通りは酒田の中心市街地である中町地区を東西に貫き、酒田の東西の都市軸としての役割も担っています。


写真3:中通り
東西に約450mにわたり整備されている

◆おわりに

 今回は、酒田の特徴的なまちなみである山居倉庫・ケヤキ並木と、中通り商店街についてご紹介しました。山居倉庫は、昨年農業倉庫としての役割を終えたことで一つの転換期を迎えています。現在、保存活用計画の策定が進められており、今後の在り方が改めて問われています。また、中通りを含む中心市街地の商店街は、著しい人口減少や商業機能の郊外移転・撤退などに直面し、極めて厳しい環境にあるのが現状です。こうした状況に対応して、酒田市では、酒田駅前の複合施設(酒田駅前交流拠点施設ミライニ)整備や、中町地区のモール改修・イベント事業など、中心市街地の活性化を目指した事業を進めています。こうした事業が行われる「中心市街地」は、同市の立地適正化計画において、都市機能を誘導する区域に位置づけられているエリアです。今後、中心市街地に点在する、山居倉庫をはじめとした史跡・観光拠点整備と合わせて、人々の回遊を促し、互いに相乗効果を生むようなまちづくりが課題となってきます。歴史あるまちなみが時代に合わせてどう変化していくのか、今後の動向を注視したいところです。

◆参考文献

[1] 酒田市:酒田駅周辺整備
https://www.city.sakata.lg.jp/shisei/shisakukeikaku/kikaku/ekishuhen/index.html
[2] 酒田市:酒田大火 
https://www.city.sakata.lg.jp/taika/index.html
[3] 酒田市:酒田市中心市街地活性化基本計画 
https://www.city.sakata.lg.jp/shisei/shisakukeikaku/kikaku/cyushinshigaichi/shigaichikassei.html
[4] 酒田市:文化財に関する委員会 
https://www.city.sakata.lg.jp/bunka/bunkazai/bunkazaiinkai.html
[5] 酒田市:立地適正化計画 
https://www.city.sakata.lg.jp/jyutaku/toshikeikaku/tokeimaster_tekisei/tekiseikakeikaku/ritteki0329.html
[6] 酒田市立資料館:山居倉庫は日本一!! 米都酒田を支えた米券倉庫 
https://www.city.sakata.lg.jp/bunka/bunkazai/bunkazaishisetsu/siryoukan/kikakuten201-.files/0220.pdf
[7] 中林一, 太田亘: “糸魚川大火と酒田大火の市街地復興 : 災害復興まちづくりの転換点”, 災害復興研究, 第 11号, pp. 93-116, 2020. [8] 山形県:山居倉庫 
https://www.pref.yamagata.jp/110001/sangyo/sangyoushinkou/him_top/him_maincat4/him_05.html
[9] 山形県庄内町観光情報サイト:3. 水稲品種「亀ノ尾」の創選 
https://www.navishonai.jp/history/kameji_2.html
[10] 基盤地図情報:国土地理院 
https://www.gsi.go.jp/kiban/

(文責・図・写真:稲垣遥大)