谷中
〜昭和の面影が残る人情味溢れる街、
そして五重塔再建に向けて〜

台東区谷中地域は、山手線日暮里の内側にひろがる昭和の面影が残る街で、根津・千駄木地域とあわせて「谷根千(やねせん)」という特集が雑誌やTVで度々取り上げられ、 近頃では観光地としても有名になってきました。また、「日本の歴史的風土100選」の一つとして「寛永寺・上野公園・谷中の街並み」が東京では唯一まとまった街並みとして選定されています。

観光地として脚光を浴びているのはなんといっても「谷中銀座」です。特に大きくもない商店街ですが、日暮里駅から歩いて行くと「夕焼けだんだん」と呼ばれる階段があり、そこを下ると商店街があります。
休日ともなると有名なメンチカツ屋に並ぶ人やビールを飲んでくつろぐ人々でごったがえしています。
しかも、この商店街は平日に行っても活気が衰えることはありません。お魚屋さん、八百屋さん、豆腐屋さんも昔ながらのスタイルで呼び込みの声をかけ、買い物に来る近所の人で溢れかえっています。
駅から近いので、スーパーやコンビニが近くに無いわけではないのですが、この地域の人々はこの商店街で買い物をするのを常としているようです。

谷中銀座が成功している理由の一つには昔ながらの雰囲気を壊さないような景観づくりがされていることです。

(写真:谷中銀座)各店お揃いの看板。これだけで普通の商店街でもまとまりと雰囲気が出ます。


そして、お店の人々の人柄も成功の一つといえるでしょう。一つ何かを買うだけでも、必ず一言会話を交わす、昔ながらの人情味が残っている。そんな商店街だからこそ毎日行って買い物をしたくなるのだと思います。 これは今のスーパーやコンビニでは得られない人間関係であり、これこそが都会に住む人々にとってのメリットなのではないのでしょうか。

そんな地域ですから、地元の人々の結束力も素晴らしいものがあります。

そこで今持ち上がっているのが谷中霊園にあった五重塔の再建です。
7月30日にそれに関するシンポジウムがあったので、ここで触れておきます。

谷中一帯は谷中霊園が多くを占めており、その他多数のお寺や神社があります。
特に谷中霊園の桜並木の景観は美しく、桜のシーズンには霊園で花見をするというちょっと変わった光景が見られるほどです。

(写真:谷中霊園花見)


その中に五重塔は建てられていました。文豪が多く住んだ地域だけあって、幸田露伴がこの五重塔を題材にした作品を残しています。

(写真:五重塔)


(谷中霊園地図)


この五重塔は一度大火で消失していますが、江戸の人々の熱意によってわずか20年後には再建されたといいます。しかし、昭和32年、放火心中の巻き添えとなって消失してしまい、 今はそのままになっています。

シンポジウムに参加したのはこの地域に住み、この五重塔に親しみ愛していた人々が多く、パネラーの海老名香菜子さん(エッセイスト)や何人かの人がその想い出について語っておられました。

谷中地区町会連合会の野池会長が中心となり、この再建プロジェクトは進められていますが、すでにこの話が持ち上がってから数十年の月日が経ったといいます。問題は多くありますが、 やはり資金面の問題が大きいとのことでした。
参加者から、私達に出来ることはなんですか、という質問がありましたが、野池会長にはまずは署名活動から入り、都や区を動かしていきたいとのことでした。ですから、 このような集まりがあれば積極的に参加していただきたいとのことでした。

東京に唯一残された昭和の人情味が溢れる街、「谷中」。そこの人たちのランドマークとなり、大切な想い出となっている五重塔。是非この活動を全国に知らしめて、実現されることを願ってやみません。 (文責:中田早耶)