一体となって取り組む街づくり〜黒川温泉〜

黒川温泉は熊本県の東北部、大分県の県境近くに位置する温泉街であり、昨今その人気と共に知名度は大きく上昇してきて います。その要因として「温泉街の街並の良さ」が多く挙げられています。そこで、実際にどのような街並づくりが行われてい るかを調査してきました。

(写真1)黒川温泉の街並


街並の話に入る前に、黒川温泉の特色をお話させて下さい。黒川温泉街は決して広くなく、徒歩でも十分全ての温泉宿を回れるほ どです。その中に二十を超える個性豊かな温泉宿があります。と、ここまでは一般的な温泉街にもあてはまりそうな話ですが、加 えて黒川温泉の大きな特色は「温泉手形」にあります。「温泉手形」とは、観光客がそれを購入すれば(1,200円)、黒川温泉内各宿 の露天風呂を最大3つまで選んで入浴できる、というものです。しかもその露天風呂は決して立ち寄り用のものではなく、各宿が 売りにしているメインの露天風呂ですから、一般的な温泉街であれば宿泊者しか利用できないものです。それを3つも利用できる のだから、温泉好きにはとても魅力的ですね。通常、各温泉宿がお客を増やそうと競い合うところですが、ここでは各宿が個性を 出しつつも、他の宿の宿泊者にも露天風呂を提供することで、温泉街全体の魅力を上げようとする試みがなされています。
この「温泉手形」の利便性をあげるための仕組みがいくつかなされています。例えば温泉宿と露天風呂の特徴が一目で分かる地図 が配布されており、温泉街を浴衣・下駄のまま歩き回れるようにしていることなどです。このような配慮によって、温泉手形を手 軽に利用でき、温泉街全体を一つの温泉宿のように利用できるようになっています。

(写真2)


以上のような仕組みに加えて、街並みにも温泉街の魅力を高める工夫が随所に見られ、歩いていて目を楽しませてくれます。まず、 街並みの色は茶色・黒色を基調として統一されています。建物はもちろんのこと、ガードレールなどの道路附属品に至るまで色に は大変な気遣いがされています。写真2のように、ガードレールは黒く塗られています。写真3のように、カーブミラーも黒く塗 られています。ポストも赤ではなく、濃い茶色に塗られています。自動販売機も茶色(写真4)。消火栓も茶色(写真5)。この ように徹底した色遣いにより、温泉街にそぐわない色を目にすることなく、温泉街の雰囲気をずっと楽しむことができます。

(写真3)


(写真4)


(写真5)


もちろん、温泉宿も魅力的です(写真6)。このように古くからある建物があると、街全体の雰囲気が落ち着いたものに感じられ ますね。写真7は温泉協会で比較的新しく建てられたものですが、他の温泉宿と調和したデザインになっています。狭い路地・坂 にこのような建物が並ぶと次に何があるのだろう?という期待感から歩いていて飽きません。

(写真6)


(写真7)


以上のように、黒川温泉には温泉街としての魅力を街全体で高めようとする、住民・温泉宿の方々の協同の取組がなされていると感 じました。加えてその取組が「温泉手形」の仕組み作りと、街全体の表情の統一の双方でなされていることが、成功の鍵ではないで しょうか。街並みを作る際には、ハード面だけでなくソフト面も併せて考えることが重要だと、改めて感じました。(文責:中田早耶)