福岡県宗像市 -日の里団地における団地再生-

◆はじめに

宗像市は福岡県の北部に位置する人口約10万人弱*1の都市である。世界遺産・宗像大社がある観光都市としての顔を持ちながら、福岡市と北九州市の両方に1時間以内にアクセスできる事から両都市圏のベッドタウンとして発展してきた。本稿で取り上げる日の里団地(図1)は、1971年に日本住宅公団により竣工した、九州で初めての大規模(計画住戸5000戸、217.6ha)な郊外住宅団地である*2。


図1 東郷駅前の日の里一丁目団地

◆これまでの50年 -日の里団地の抱える課題-

日の里団地は本年でまち開きから51年を迎える。他の住宅団地と同様に、日の里団地も住棟の老朽化や人口減少の課題を抱えている。まち開きの時期に多くの建物が建設され、同世代の居住者が一斉に居住したことにより、現在高齢化の波が強く押し寄せている。実際に、日の里団地のある日の里地区の年齢層別人口を見てみると、宗像市全体と比べて高齢者層への偏りが見られる(図2)。
この課題はまちなみにも表れている。団地では空室の増加に対処するため、居住者に転居をお願いし住棟の集約を進めている。東郷駅(日の里団地の最寄駅)から駅前大通りを進むと、左手に入り口が封鎖された高層住棟が見られる(図3, 4)。老朽化に伴った工事等のため、現在この住棟に人は居住していない。


図2 宗像市日の里の人口構成(2020年度国勢調査より筆者作成)


図3 駅前大通り沿いの高層住棟


図4 工事等のため封鎖された出入り口

◆団地再生に向けた取り組み@ -CoCokaraひのさと-

こうした課題に対し、団地の再生に向けた取り組みが日の里団地では行われている。東郷駅前にあるCoCokaraひのさと(図5)はその先駆けであると言えよう。CoCokaraひのさとは駅前の廃コンビニをリニューアルし、2016年に新たにオープンした施設である。「日の里の人・まち・情報の価値を高め、新たな人・まち・情報を集める場づくりを進める」というコンセプトのもと、団地再生の拠点として多世代が交流し情報を受発信する場所として開設された*3。
オープンから6年、CoCokaraひのさとは交通結節点として地域の情報発信を行うとともに、地元連携の展示・講座を行って住民や日の里に関心のある人を集めたり、繋げたりする場として機能している。コロナ禍前は、自習室として学生に開放され、学生と高齢者の交流や学生の地域愛着の形成を促進していた。訪れた際には、日の里に関する写真展(図6)を行い、住民の日の里の記憶を残し伝える場所となっていた。
日の里団地の案内をして頂いた柴田建先生は、「CoCokaraひのさとをきっかけに、住民・日の里に関心のある人同士のネットワークが作られた」と話す。現在の展示や以前の取り組みから、関わる人たちの日の里に対する熱意を感じ取る事ができた。


図5 東郷駅前のCoCokaraひのさと


図6 CoCokaraひのさと内で行われている写真展


◆団地再生に向けた取り組みA -さとづくり48プロジェクト-

「CoCokaraひのさと」から始まった団地再生の取り組みが、実際に日の里団地のまちなみを良い方向に変えている。その1つが「さとづくり48プロジェクト」だ。このプロジェクトは、日の里東小学校に近い日の里団地10棟の敷地を再開発するにあたり、戸建住宅64戸(さとのは住宅)を新築するとともに、住棟のうち1つをリノベーションした施設(ひのさと48)としてオープンさせたプロジェクトである*4。この再開発の方針は、「CoCokaraひのさと」や「日の里THIRD BASE(2017年開設、まちづくりの活動拠点)」の参加者が中心となり、一部の既存住棟を残し活用する事を提案したことにより実現した*5。
今回は団地の既存住棟をリノベーションしたひのさと48を訪れた(図7)。ひのさと48は既存住棟がカラフルに彩られており、広場と1階のフロアが木製のステップによって続いた構造になっている(図8)。1階のフロアにはカフェやビール工房、DIY工房、子どもたちの遊び場が入り、2階や3階はCo-doingスペース(コワーキングスペース)やオフィスとして活用されている(図9, 10)。滞在中には、日の里に住む子どもたちが広場と一階フロアで賑やかに遊ぶ様子が見られた。既存住棟を活用した事で賃料を抑えられ、個人で経営するテナントや子どもたちが自由に使える空間が作られたと考えられる。


図7 既存住棟を活用したひのさと48


図8 広場と1階を繋ぐ木製のステップ


図9 1階に開店しているカフェ「みどりtoゆかり」


図10 2階に入っているCo-doingスペース

施設を運営・管理する企業の方によれば、こうしたカフェや工房はコミュニティづくりの手段としての役割もあるそうだ。ビールは材料となるホップを住民とともに作る事を通じてコミュニケーションを生み、既製品の販売ではなくDIYの工房とする事で住民と会話しながらものづくりを行なっている。このように新たな取り組みがどんどん行われる場所であるひのさと48は、住民から「行くたびにどんどん新しく進化している」と言われる場所になっている。

◆今後の団地再生はどう進んでいくのか?

今回はまち開きから50年を迎えた日の里団地を探訪した。日の里団地では、次の50年に向けてまちを継承していくために取り組みを進めている。上述した取り組みに共通するが、日の里団地では住民や関心を持った人がまちづくりの重要な役割を持ち、ネットワークしながら主体的な団地再生が行われている。
本探訪では、団地の持つ空間・緑の豊かさとそこに根付く人の繋がりという団地の魅力を生かしつつ、既存の団地にないワクワクする場をつくる様子を見る事が出来た。今後の団地再生の方向性を考える上で、今後の日の里団地のまちなみからは、多くの見聞が得られるのではないかと感じている。


図11 緑豊かで広々とした日の里団地のまちなみ


◆謝辞

現地を案内して頂いた大分大学の柴田建先生、各施設を紹介して頂いた皆様に感謝申し上げます。

◆参考文献

*1:宗像市「宗像市の人口・世帯数」 https://www.city.munakata.lg.jp/w008/20150327204928.html (2022/10/10閲覧)
*2:ひのさと記憶プロジェクト実行委員会編「ニュータウンのあの頃とこれから《日の里団地1971?2021》」山田雄三監修、弦書房、2022年
*3:木村秀子・林田公子・上野崇之編「CoCokaraひのさと開設1周年記念誌」谷口竜平監修、ココカラ運営協議会、2017年
*4:吉田啓助、今長谷大助「地域の『ひっさつわざ』拠点としての団地リノベ」2022年度日本建築学会大会(北海道)建築社会システム部門 研究懇談会資料、2022年
*5:柴田建「地元居住者+ネットワークのポリフォニックなまちづくり ?福岡県宗像市日の里団地での活動を通して?」2022年度日本建築学会大会(北海道)建築社会システム部門 研究懇談会資料、2022年 )

(文章・写真・図:森田洋史)