愛媛県松山市〜地方都市における中心市街地の活性化〜

◆はじめに

愛媛県松山市は人口約50.5万人(松山市「松山市の人口動態(令和3年版)」R3年12月1日時点による)の都市である。松山市「松山市中心市街地活性化基本計画(第3期計画)」(令和2年10月30日認定)によれば松山市の中心部に約304haが中心市街地として設定されており、その中心市街地は松山城の城下町を原型としているものである。 本稿は中心市街地のうち、近年中心市街地の活性化の取り組みが見られる、花園町通りや銀天街・大街道に着目した。
花園町通りは松山市駅から城山公園を結ぶ大通りである(写真1)。
銀天街・大街道は松山市駅から路面電車の大街道停留所までを結んでおり、一体的なアーケードになっている商店街である(写真2,写真3)。


花園町通り(写真1, 筆者撮影)


銀天街入口(写真2, 筆者撮影)


大街道入口(写真3, 筆者撮影)

中心市街地の衰退は松山市でも見られている課題である。松山市が2010年5月から2020年1月まで毎月実施している「松山店舗状況変化調査」では、銀天街・大街道では総店舗数は対象期間中それぞれ約200店舗ずつでほぼ変化がないが、空店舗率は近年上昇の一途であり、2020年1月には空店舗率が20%に達していた。(図1)


銀天街・大街道の月別空店舗率(図1)
出所)松山市「松山店舗状況変化調査(銀天街)」、「松山店舗状況変化調査(大街道)」を基に作成

首都圏の商店街と異なり、松山市では松山市駅と大街道停留場の2つの主要な交通結節点をアーケードでつなぎ、回遊性が高い空間が創出されている。
松山市「松山中央商店街における通行量調査」による銀天街・大街道の交通量は平成18、19年のピークに比べれば近年は減少しているものの、平日では約7万人(図2)、休日では約13万人(図3)で安定している。平日よりも休日の方が通行されていることがわかった。なお、令和2年以降は新型コロナウイルス感染症の影響で観光客の訪問が減少していると考えられ、特に平日の通行量が減少しているが、休日の通行量は安定している。つまり、空店舗が多くなってもこのアーケードは地域住民の交通空間として利用されている。
このことから、地域住民は銀天街・大街道のアーケードを素通りしていると考えられる。空き店舗を減らすためには、まちづくりでこの場を活性化する取り組みが考えられる。


銀天街・大街道の通行量(平日)(図2)
出所)松山市「松山中央商店街における通行量調査(平日)」を基に作成
銀天街は「銀天街千舟口」「銀天街三丁目西口(三浦屋文具店横)」「銀天街四丁目西口(伊予銀行湊町支店前)」の合計値、大街道は「大街道一番町口」「大街道二番町通り交差点」「大街道三番町通り交差点」「大街道千舟口」の合計値とした。


銀天街・大街道の通行量(休日)(図3)
出所)松山市「松山中央商店街における通行量調査(休日)」を基に作成
銀天街・大街道の対象地点は図2と同様に集計した。

◆中心市街地活性化の取り組み

このような状況を踏まえて、中心市街地活性化の取り組みとして、今回はアーバンデザインセンター松山(以下、UDCMとする)が関わった、花園町通りのリニューアルプロジェクトと、銀天街・大街道での公共空間創出について、まちなみとともに振り返りたい。
UDCMは松山市のまちづくり組織として、2014年から公・民・学の連携の下で活動を行っている。中心市街地においては花園町通りのリニューアルを皮切りに、本記事でも触れるアーケード街の再生や、道後温泉街のリニューアルにも携わっている。

【花園町通り】
花園町通りは元々片側3車線で交通量の多い通りであった。しかし、松山市の掲げる「歩いて暮らせるまち」の実現のために、幅員を片側1車線に減らし、その分のスペースを魅力的な歩行空間として再配分する取り組みが市によって行われ、UDCMも2014年より参加している。
この取り組みの特徴としては、@電柱の地中化、A沿道店舗へのファサードガイドラインの策定、Bイベント等が可能な公共空間の配置、C温かみのある自然素材の使用が挙げられる。
この取り組みにより、歩いていて楽しい景観が作られるとともに、歩行者交通量が倍増する等の効果にも繋がっている(参考文献7)。


無電柱化や道路空間再配分により生まれた花園町通りの歩行空間(写真4, 筆者撮影)

【銀天街・大街道】
銀天街や大街道でも数多くの取り組みが行われている。
銀天街や大街道を歩いていると、アーケード商店街の至る所でベンチやデスクが置かれ、そこで談笑する方々が見られる。これは「SWALOT」という常設された座り場であり(写真5)、まちなかでの居場所づくりの取り組みの一環として行われている。


大街道に設置されたSWALOT(写真5, 筆者撮影)

また、銀天街付近(移転前のUDCMの斜め前のスペース)の路地では以前は「みんなのひろば」という名称で、元はコインパーキングであったスペースに芝を張り、地域の方が手作りした椅子、柵などを配置することで、集まりの場所を作り出す取り組みが実施されたそうである。現在は駐車場に戻っていることからその様子は確認できなかったが、コロナ禍を経て屋外空間の価値が見直される現在、こうした空き地等を利用してまちづくりに寄与する場所の創出が進むことが期待される。
この他にもさまざまな取り組みが、中心市街地活性化を目的に行われている。今後もさらに既存の空間が活用され、形を変える中で、銀天街・大街道は魅力的で地域の方に愛されるようなまちの中心であり続けて欲しい。

◆現在の中心市街地

2021年11月に、現地を歩いてみると下記のような発見があった。

【花園町通り】
花園町通りでは歩道が広く取られ、歩きやすい空間になっていた。歩道上には植栽や芝生、また駐輪場やベンチが設置されていた。(写真6)
11月に訪問したため、ベンチを利用している人は見られなかったが、暖かい季節には利用者が多くなると思われる。

花園町通りの歩道空間(写真6, 筆者撮影)

また花園町通りを挟んで左右の歩行空間ではアーケードの有無やファサードの設えが異なっていた。写真6の左側の歩道には店舗から庇が伸びているのに対して、写真6の右手に見える通りを挟んだアーケードについては地元商店街からの要望で意図的に残しているとのことであった。このような非対称的な景観の中に、地域の方の想いが表れていると感じられた。

【銀天街・大街道】
銀天街・大街道は平日の昼間にもかかわらずシャッターが閉まっている店舗が多く、空店舗率の上昇を現地で実感した。現地をご案内いただいた地元の方のお話では、昔からの店舗が閉店していっているとのことだった。L字型に続く銀天街と大街道とはアーケードで一体的になっているものの(写真7)、銀天街は小規模店舗が多く、大街道は大型の店舗で全国的なチェーン店が多い印象を受けた。訪問した当日は大街道ではアーケードの下で花を売っていたり、テーブルと椅子を設置しており、広い空間を有効活用していた。(写真8)

銀天街の様子(写真7, 筆者撮影)


アーケードの下の空間を活用する大街道の様子(写真8, 筆者撮影)

◆おわりに

人口減少と高齢化の進む地方都市においては中心市街地の衰退は不可避な課題である。中心市街地は人々が行き交う空間であるが、人々を通過させるだけではなく、その空間に滞在すること、にぎわいを創出することは、中心市街地活性化の一つの解決策ではないか。地方都市ではコンパクトシティ化に向けて積極的な施策も取られている松山市のように大通りを人が集まる場所にリニューアルする試み、既存の商店街の空いたスペースを活用する取り組みなどは参考になるだろう。

◆謝辞

現地を案内していただいた丹下様、アーバンデザインセンター松山の皆様に感謝申し上げます。

◆参考文献

1.愛媛県松山市「松山市の人口動態(令和3年版)」
http://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/tokei/data/jinnkoudoutai.html<閲覧日:2022/02/27>
2.愛媛県松山市「松山市中心市街地活性化基本計画(第3期計画)」(令和2年10月30日認定)
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/tyuukatu/201030chukatsunintei.html<閲覧日:2022/02/27>
3.愛媛県松山市「松山店舗状況変化調査(銀天街)」
http://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/opendata/metadata/tenpozyoukyouginteng.html<閲覧日:2022/02/27>
4.愛媛県松山市「松山店舗状況変化調査(大街道)」
http://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/opendata/metadata/tenpozyoukyouookaido.html<閲覧日:2022/02/27>
5.愛媛県松山市「松山中央商店街における通行量調査(平日)」
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/opendata/metadata/tsuukouryouheizitsu.htmla <閲覧日:2022/02/27>
6.愛媛県松山市「松山中央商店街における通行量調査(休日)」
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/opendata/metadata/tsuukouryoukyuuzitsu.htmla <閲覧日:2022/02/27>
7.愛媛県松山市「花園町通り リニューアル」
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/kakukaichiran/tosiseibibu/dourokensetuka.files/300305hanazono_A3panfu.pdf
<閲覧日:2022/02/27>
8.アーバンデザインセンター松山「UDCMとは」https://udcm.jp/about/<閲覧日:2022/02/27>
9.ソトノバ「まちなかに憩いの空間を!松山「みんなのひろば」約1年半の社会実験から見えてきたもの」
https://sotonoba.place/matsuyamaminnanohiroba <閲覧日:2022/02/27>

(文責:岡澤 由季,森田 洋史)