マンハッタン 古建築と水辺空間の活用

◆はじめに

ニューヨーク・マンハッタン島はタイムズスクエアやウォール街に代表される、世界で最も栄えている都市の一つです。中心部では超高層ビルが密集する摩天楼が形成されており、マンハッタンの象徴的な景観となっています。世界の中心として発展し続けるニューヨークですが、その中には交通渋滞や廃線といった課題を解決し、魅力的な街並みを形成している例も存在しています。
本稿では現在も世界中から多くの人々を惹きつけているニューヨークの街並みを紹介いたします。


図1. ニューヨーク・マンハッタン島の位置(OpenStreetMapを用いて作成)

◆ハイライン〜廃線活用と周辺への波及〜

ハイラインはマンハッタン島西部に位置する全長2.3kmの線形公園です。その特徴は, 廃線跡地をリノベーションした空中緑道として、魅力的な景観を形成したことにあります。訪問した当日は雨だったにも拘らず、ランニングなどで訪れている人が見られました。


図2. ハイラインの位置(OpenStreetMapを用いて作成)


図3. ハイライン 廃線を残して緑化され、特徴的なベンチが設置されている(筆者撮影)

ハイラインは、ロウアー・ウエストサイドの鉄道の廃止区間に位置しています。線路は主に食品輸送に使われていましたが、トラック輸送の発達によって廃線に至りました。以前、この周辺は食品工場を中心とした工業エリアであり、高層の建物は多くありませんでした。
しかし、2009年にハイラインができて以降、魅力的な公園に多く人が訪れるようになります。その結果、周辺のチェルシー地帯の価値が上昇し、近年で大きく発展しました。現在もハイラインの周辺では、新しい高層の建物と、古く低層の住宅や食品工場が混在している様子が見られます。比較的新しい建築物はハイライン側に窓が向いているなど、ハイラインのコンテクストを汲んだものが見られます。また、路上アートや特徴的なベンチが多く設置されており、歩いていて楽しい空間が形成されていました。


図4. ハイライン沿いの街並み 新しい高層建築と年季の入った中低層建築が混在している(筆者撮影)

また、周辺の観光スポットの一つにチェルシー・マーケットがあります。チェルシー・マーケットは工場跡地をコンバージョンした建物です。元々は食品工場でしたが、再開発の際に工場の外壁を残し、用途を店舗やオフィスに変更したことが特徴です。この特徴は、配線を残して活用したハイラインと類似しています。内装には独特の雰囲気があり、多くの観光客が訪れています。


図5. チェルシー・マーケットの内部(筆者撮影)

煌びやかな摩天楼の街並みだけでなく、ハイラインやチェルシー・マーケットのように、古くからあったものを上手く活用した魅力的な街並みが広がっていました。

◆水辺空間の活用

マンハッタン島付近のマップを見てみると、川沿いの大部分が公園として活用されていることが分かります。本稿では、水際の空間活用の例として、リトル・アイランドとブルックリン島のハンターズ・ポイント・サウス・パークについて紹介します。


図6. リトル・アイランド周辺の地図(OpenStreetMapを用いて作成)

リトル・アイランドはハドソン川上に突き出すように位置する水上公園です。柱で支えられた小さい島が多数集まっているようなデザインが特徴的です。公園内は起伏に富む地形となっており、ハドソン川を背にしたステージや豊かな植栽、屋外ファニチャーなどが設けられています。公園からは対岸のニュージャージーを望むことができ、ランニングコースとしても利用されていました。
このエリアは、従来はLGBTQコミュニティのコミュニティスペースとして機能していた埠頭でした。しかし、2012年のハリケーンにより甚大な被害を受け、その翌年から新たに公園を建設するプランが立てられました。この公園はコミュニティスペースの復旧とともに、自然や芸術に触れられる公園としての役割を果たしています。


図7. 外から見たリトル・アイランド(撮影:衣笠)


図8. 内から見たリトル・アイランド 起伏に富んでおり空間が広く感じられる(筆者撮影)

ハンターズ・ポイント・サウス・パークは、マンハッタンの対岸のブルックリンに位置する公園です。川に沿ってゆったりとしたスペースが展開されています。近年ブルックリンでは都心からの人口流入が増加し、高層建築の開発が現在もいくつか進行中です。この公園のプロジェクトは隣接する5000戸を超える公営住宅の開発に対応するもので、周辺住民に緑地を提供し、水害への耐性を高める設計がなされています。


図9. ハンターズ・ポイント・サウス・パークの位置(OpenStreetMapを用いて作成)

公園からのマンハッタンの展望は壮観で、多くの人が休日をゆっくりと過ごしていました。このような水辺のオープンスペースもニューヨークの特徴の一つとなっています。広大な土地を生かした水辺空間の公園利用が積極的になされており、日本と比較して特徴的な要素であるといえます。また、ハイラインのように鉄道の廃線跡を活用した花壇があり、土地の歴史への配慮が見られました。


図10. ハンターズ・ポイント・サウス・パークの展望 川の対岸にマンハッタンの街が見える(撮影:衣笠)


図11. 公園内の廃線を活用した花壇(撮影:衣笠)

◆おわりに
本稿では、マンハッタンの街並みを、空間活用という点に着目して紹介しました。高層ビルが特徴的な街ですが、その街並みは無機質ではなく、むしろ歩いていて楽しい街並みの工夫がなされているように感じました。本稿で紹介したのはほんの一部ですが、街を豊かにする意欲的な取り組みの跡を見ることができました。

◆参考文献

•The High Line, “History”. https://www.thehighline.org/history/ (2023/06/13閲覧)
•Chelsea Market, “Our Story”. https://www.chelseamarket.com/our-story (2023/06/13閲覧)
•Little Island, “Pier History”. https://littleisland.org/history/ (2023/06/13閲覧)
•SWA Group, “Hunter’s Point South Waterfront Park”. https://www.swagroup.com/projects/hunters-point-south-waterfront-park/ (2023/06/13閲覧)

写真撮影:宮岸凌也、衣笠匠斗
文責:宮岸凌也