コンパクトな町、甲府

◆コンパクトな町は歩ける町

甲府市の人口は約19万人で、2020年の国勢調査によると県庁所在地として2番目に少ない。2番目と言っても、最少の鳥取市との差はわずか千人なので、最小水準と言っていい。きっとこの人口の少なさもあって、甲府市の中心部はコンパクトである(図1)。流行り言葉で言えばウォーカブルな町という印象を受けた。まず、甲府駅に面して(と言って過言でない位置に)甲府城(舞鶴城公園、写真1)があって、早朝から多くの人が散歩で出入りしていた。駅から南に延びる平和通り沿いには、県庁、市役所、県警、裁判所などの公共施設が立ち並ぶ(写真2,3)。公共施設が多いと事業所も多くなり、小売店や飲食店も集まるので、それらを目指して歩く人が増える。探訪したのは主に駅の南側だが、駅北口にも県立図書館がある。そういえば、健康寿命を扱ったNHKスペシャルで、この図書館を利用する80歳の方が歩数を自慢していた*1。歩いて暮らせることもコンパクトな町の長所だろう。


図1 甲府駅南側の略図


写真1 甲府城の城跡の一部を整備した舞鶴城公園


写真2 北に向かって緩やかに上るケヤキ並木の平和通り


写真3 1930年竣工の山梨県庁別館と「楓の庭」

◆ふたつの城跡

さて、先に出てきた甲府城は、武田氏の滅亡後に豊臣秀吉の命により1583年に築城された。明治維新を経て1873年に廃城された後は、主要な建物が取り壊され、現在では内城の部分のみが城跡として残っている(1964年に都市公園として都市計画決定)*2。公共施設が立ち並ぶ平和通りも二の堀を埋め立てて造られたものである。一方、武田氏の本拠だった躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)の跡地は、甲府駅から武田通りを2.5kmほど北進した突き当りに位置し、現在は武田神社となっている。現在の鉄道を挟んで北側に中世城下町(古府中)があったのは武田時代の60年ほどで、江戸時代の近世城下町(新府中)から現在に至るまで、甲府の中心は鉄道の南側にある。

◆縦横に走る商店街はかつての・・・

官庁街には店舗も集積すると上に書いたが、ご多分に漏れず甲府の中心商店街も衰退傾向にある。下は、甲府市周辺の出身のA先生(都市計画)のコメントである。

銀座通りは、私が子供のころには大変な賑わいでした。両親に連れられて,七夕祭りや歳末大売出しに行った思い出がありますが、とにかく人が多くてぎゅうぎゅうになりながら歩きました。

銀座通りとは、舞鶴城公園から500mほど南に位置する東西約200mの全蓋式アーケード商店街(写真4)で、A先生が生まれた1977年より前に繁栄のピークを迎えたようだ。この他にも、錦通り、ベルメ桜町、裏春日通りといった商店街が東西あるいは南北に入り交じる(順に写真5〜7)。衰退した商店街の一部が再開発で高層マンションに変わり、まちなみは損なわれつつあるが、皮肉にも歩いて暮らせる住民は増えている。商店街復権の兆しが見えたのは、オリオンスクエア(これも全蓋式アーケード、写真8)の東側にあるオリオンイーストだ(写真9)。レンガ調の建築にカフェや雑貨屋、ジュエリーショップなどが立ち並ぶ(水晶が多く産出された甲府は宝飾産業が盛ん)。舗装はかつて石畳だったようだが、ライフライン工事で掘り返した時に安価なアスファルトに替えたのだろうか、それも裏路地のレトロ感を醸し出している。これらの商店街の多くは、なんと新府中の武家地であり、狭い道を縦横に通して造られたものだそうだ*3(写真10)。都市保全計画を専門とする西村幸夫先生ですら「どこがかつての武家地でどこがかつての町人地か判然としない」「これだけ旧武家地の見分けがつかない都市も少ない」と言っている*3。


写真4 全蓋式アーケードの銀座通り商店街


写真5 錦通り商店街


写真6 両側アーケードのベルメ桜町


写真7 裏春日通り


写真8 ガラス張りのアーケードが特徴のオリオンスクエア


写真9 小さな店が立ち並ぶ裏路地的なオリオンイースト


写真10 甲府城跡から南側の市街地を望む(左奥には富士山)

◆甲府のまちの将来は?

近い将来、甲府に大きなインパクトを与えそうなのがリニア中央新幹線の開業である。山梨県駅の建設予定地は甲府市内にあるが、甲府駅からは南に約10kmも離れている。県は、リニア開業後も都市機能の中心は甲府駅周辺に残ることを想定しているが、品川と25分で結ばれる新駅周辺にその一部(官公庁を含め)が移るのは必至だろう*4。約450年以上の時を経て再び甲府の中心が移るのか、あるいは甲府市に人口が流入して二拠点とも成立するのか。コンパクトな町、甲府の変容を今後も見届けていきたい。

◆参考文献

*1 NHKスペシャル「AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン 第3回 健康寿命」 https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/p9Zvyrw829/ (2018/10/13放送、2022/10/09閲覧)
*2 甲府市ホームページ https://www.city.kofu.yamanashi.jp/welcome/rekishi/kofujyou.html (2022/10/09閲覧)
*3西村幸夫、県都物語:47都心空間の近代をあるく、有斐閣、2018年
*4山梨県、公共交通によるリニア駅と既存駅等とのアクセス向上、2021年 https://www.pref.yamanashi.jp/linear-kt/documents/arikata2.pdf (2022/10/09閲覧)

(文章・写真・図:樋野公宏)