ボールパークと共に栄える街、北広島

◆はじめに

 北広島市は北海道中部にあり札幌市の中心部と新千歳空港の間に位置する都市です。市の歴史としては道南より北の地域では米の栽培が不可能とされていた明治初期に、寒地稲作の父とも称される中山久蔵が暖水路の活用などによって明治6年に初めて米の収穫に成功したことが大きな転換期となりました(写真1)。また、北海道に農業技術を広めに来たクラーク博士の「少年よ大志を抱け」の言葉を残した地も北広島であることから農業と関わりの深い地域となっています。北広島という名前は明治中期に集落が発展した際の入植者の多くが広島出身であったため広島開墾と名付けられ、そこから広島村→広島町→北広島市と名前が変わりました。現代では1969年に札幌圏の過密化に対する措置として道営北広島団地が計画され人口が急増しましたが、2008年を境に減少傾向にあります。本稿ではそんな北広島市に新たな変革をもたらしているエスコンフィールドHOKKAIDOと、ボールパークと共に栄える周辺地域のまちなみについて紹介いたします。


写真1. 中山久蔵翁・寒地稲作成功150周年記念横断幕

  ◆ボールパーク誘致

 北海道には2004年より北海道日本ハムファイターズ(以下、日ハムと略記)が札幌ドームに本拠地を置いていました。しかし、チームが札幌ドームの運営管理の権利を有していなかったことから、金銭的な負担が大きかったため、2016年に新球場事業の計画を発表しました。そこで新しい球場の候補地として札幌市は真駒内公園、北海道大学のキャンパス敷地、学校法人が所有する土地の活用という3つの候補地を提示しました。問題点は、真駒内公園は生態系に対する悪影響の懸念点、残りの2案は拡張性でした。それに対して北広島市は、きたひろしま総合運動公園の敷地を提供することを提案したものの、敷地へのアクセスが課題となりました。特筆すべき点としては、きたひろしま総合運動公園は2004年に日ハムが北海道に移転してきた際に2軍本拠地用球場の整備が検討されて断念した経緯です。最終的には真駒内公園と北広島市の案が残り、北広島市が施設周辺の道路拡幅やJR千歳線の輸送力強化を支援することが決まり、北広島市の案が採用されました。こうして人口6万人の都市に年間で200万人以上動員するプロ野球のチームが来ることが決まりました。

◆北広島駅から球場まで

 札幌駅や新千歳空港からエスコンフィールドHOKKAIDOまでの所要時間は車で40分、公共交通機関では最寄りの北広島駅からシャトルバスで5分、徒歩で20分となっています。北広島駅から徒歩で行く場合、市のイメージマスコットであるエルフィン由来のエルフィンロードというサイクリングロードを通ることによって、自動車と歩行者が交差することがなく駅から球場まで行くことができます(写真2)。沿道には2017年に開庁した市役所新庁舎もあり、一体的な開発を感じることができました(写真3)。


写真2. 街灯のエルフィン(妖精)のデザインと日ハムのフラッグ


写真3. 北広島駅から球場に向かう途中にある市役所新庁舎

◆北海道ボールパークFビレッジ

 エスコンフィールドHOKKAIDOの所在地は、かつて共栄という町の一部であったFビレッジにあります。球場周辺にはFビレッジだけでなくBIGBOSS Bridgeなど日ハムにちなんだ地名を確認することができました(写真4)。本施設はスタジアムでなくボールパークと名付けられており、試合を行っていない日の来場も想定していて、サウナ、ドッグラン、BBQ、農業体験施設などがあり、様々な属性の客を呼び込むことを意識していることがわかります。ボールパーク内の飲食店も試合日以外に営業しており、完全キャッシュレスのため会計がスムーズでした。しかし、コインロッカーが荷物検査を行うゲート外には一か所しかなく、決済手段が現金のみであった点は不便に感じました。球場の隣にはネーミングライツを取得した日本エスコンが手掛けたレジデンスもあり、従来のスポーツ施設と異なり年中賑わいを見せる場となっています(写真5)。また、シニアレジデンスやメディカルモールも2024年に開業予定でさらなる開発が予定されています。


写真4. BIGBOSS Bridgeの説明


写真5. エスコンフィールドHOKKAIDO(左)とレジデンス(右)

◆新駅とこれからの北広島

 前述の誘致の段階であったように、球場は駅からのアクセス面で問題点を抱えているため、解決手段として千歳線新駅の計画が進んでいます。新駅は2027年度末にオープンが予定されており、立地としては球場から300mの場所で開業するとされています。しかし新駅がない現在ではシャトルバスの需要が高くなっている反面、乗務員不足によりバスの本数が足りておらず試合後は長蛇の列が発生していました。また、車での来場者に関しても、球場周辺にロードサイド店舗が多いため目的外の迷惑駐車などが多発しているという現状があります。駅では北広島市の地価上昇率が全国1位という結果が宣伝されていました。しかし、従前から居住の北広島市民にとっても真にメリットがあり、球団と地域社会が共に栄えるボールパークの整備を意識し続ける必要があると感じました(写真6)。


写真6. 北広島駅に掲示されていたFビレッジの豆知識の一例

◆おわりに

 本稿では北広島市の新しいボールパークと周辺のまちなみを紹介いたしました。入植者という形で明治時代に入ってきた広島の人々、札幌の過密化から逃れベッドタウンとして生まれ変わった60年代後半、そして今回ボールパーク構想と共にやってきた野球ファンをはじめとした様々な属性の人々と、北広島市は市外から来る人と共に栄える歴史を繰り返してきました。ボールパーク開業2年目以降もこの姿勢を続け、地域の課題を解決し、賑わいをもたらし続ける工夫が必要であると感じました。

◆参考文献
[1] きたひろ農学校:北広島市の歴史(2023年10月27日)
https://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/sightseeing/detail/00126100.html
[2] JR北海道:北海道ボールパークFビレッジ隣接地に設置する千歳線新駅計画について(2023年10月27日)
https://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/sightseeing/detail/00126100.html
[3] 北海道北広島市:2-1 東部・団地・南の里エリアの歴史(2023年10月27日)
https://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/hotnews/files/00125300/00125374/2018reki%202sho.pdf
[4] ボールパーク特設サイト:Fビレッジ内の施設や機能について(2023年10月27日)
https://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/ballpark/detail/00143268.html
[5] F VILLAGE:ホームページ(2023年10月27日)
https://www.hkdballpark.com/

(文責・写真:江端吾朗)