江戸時代のまちなみを残す街、角館

◆はじめに

角館は秋田県東部に存する観光名所です。自治体としては、2005年に田沢湖町・西木村と合併し、仙北市に属しています。角館を代表する観光資源として桧木内川川堤のソメイヨシノと武家屋敷のシダレザクラがあります。ソメイヨシノは国指定名勝、シダレザクラは天然記念物にそれぞれ指定されており、春に行われる桜まつりには毎年多くの人が訪れます。それに加え、角館は江戸時代のまちなみを今も残す街として歴史的意義を持ち、特に武家屋敷通りは重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。本稿では角館のまちなみの特徴及びまちなみ保全の取り組みを紹介いたします。

◆角館の歴史と町割

角館は1620年(元和6年)に角館地方を治めていた秋田藩客将芦名義勝によって造られた街です。地理的には、羽州街道の宿駅である大曲まで広がる仙北平野の北部に位置し、北・西・東の三方を山に囲まれ、西に桧木内川、南に玉川が流れており、流通・防衛面において城下町の形成に適した場所だったと言えます。 角館の城下のまちなみの特徴的な点の一つが、武家居住区の「内町」と町人居住区の「外町(とまち)」が分断された町割です。内町と外町の間には高さ約3mの土塁と夜に閉められる木戸門からなる火除けが設けられ、外町の火災が内町まで延焼することを防ぐ役割を果たしていました。

◆まちなみの保全

江戸時代のまちなみを現代まで残してきた角館の中でも、特に武家屋敷通りは1976年に重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建)に指定され、地方城下町の特徴と歴史的環境を伝える貴重な文化財となっています。ここでは武家屋敷通りにおけるまちなみ保全の具体的取り組みを紹介します。

(1)ファサードの保全
武家屋敷通りの最も目を引く特徴と言えるのが、立ち並ぶ武家屋敷の黒板塀(写真1)ですが、この風景は重伝建指定後のファサード修景の成果です。重伝建指定当時のまちなみはコンクリートブロック塀や貧弱な生垣が目立つ状態でした。更に塀が高く、道から屋敷の屋根しか見えない部分も多くありました。そこでファサード修景作業が行われ、塀の色、材質、高さの統一感の取れたまちなみが復元されました。

写真1 武家屋敷の風景

(2)道の保全
角館におけるまちなみ保全の取り組みは建物のみならず、道にも及びました。武家屋敷通りを歩く過程においても江戸時代の風情を感じられるよう、以下のような復元事業が行われました。
@マウンドアップ歩道の撤去。
A道路脇の側溝は石積み水路に復元し、水のせせらぎが聞こえる空間を確保(写真2)。
B舗装は自然色(淡いグレー)にして歴史的景観に配慮。
C交差点部の隅切りを除去し、枡形を復元(写真3)。

写真2 黒板塀と石積み水路


写真3 桝形道路

(3)桜の保全
筆者が訪れた十月には開花した様子を見られませんでしたが、桜も角館のまちなみを形成する重要な要素の一つです。重伝建指定後の武家屋敷の修理、道路改良等の事業の影響で、武家屋敷通りの一部のシダレザクラは根に損傷を受け、樹勢が衰弱していました。そこで1999年度から2000年度にかけて国と秋田県の補助事業としてシダレザクラの緊急調査事業が行われました。更にそれを受けて策定された保存管理計画を基に、2002年度から2007年度にかけて保存修理作業が実施されました。

写真4 十月のシダレザクラ

◆おわりに

本稿では角館のまちなみの特徴及びまちなみ保全の取り組みを紹介いたしました。現在も多くの人に愉しまれる、桜と武家屋敷の調和した角館のまちなみは、修景・修理事業等の取り組みの成果であることがわかります。一方で、角館のまちなみ保全の取り組みの多くが重伝建指定後に行われたものであることから、重伝建のような「箔」がない限り、重点的なまちなみ保全が難しいこともうかがい知れます。今後は、そうした箔を持たずとも歴史的意義を持つまちなみの保全についても考える必要があるのではないかと感じました。

◆参考文献

[1]仙北市ホームページ: 角館の町並み(2022/10/23閲覧) https://www.city.semboku.akita.jp/sightseeing/spot/07_matinami.html
[2]小林勇: 地域の観光資源を生かす 「みちのくの小京都」角館の歴みち事業, 日本交通計画協会, 都市と交通, No. 105, pp. 13-14.
[3]和泉浩: 伝統の維持と創造 --秋田県角館の歴史的環境に関する考察--, 秋田大学教育文化学部研究紀要 人文科学・社会科学, No. 62, pp. 71-84.
[4]文化庁: 「重要伝統的建造物群保存地区一覧」と「各地区の保存・活用の取組み」 仙北市角館(2022/10/23閲覧) https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/93738601_07.pdf
[5]仙北市教育委員会: 桧木内川堤(サクラ)及び角館のシダレザクラ保存・管理ついて(2022/10/23閲覧) https://www.city.semboku.akita.jp/sightseeing/spot/documents/tsutsumishidarehozon.pdf

(文責・写真:福島渓太)