雪がもたらす街のデザイン・石川県金沢市

 金沢市は日本海側、冬には大雪が降るなど厳しい気候風土の土地に位置する。この街の様々な場所には、その気候風土に適応するため、人々の創意工夫されたデザインを多く見ることができる。

(写真1)金沢市内の商店街:各商店の軒を大きく張り出すことで歩行者路に雪が積もることを防いでいる


 金沢の冬景色として有名な「雪つり」の風景は、大雪によって木が折れてしまったりすることから防ぐために施されている。雪から木を守るためには、ここで施されている方法以外にも、例えば木に屋根をかぶせたりすることでも解決できるだろう。だが、木の広がり部分の中心に支柱を立て、そのてっぺんから出された縄によって、木の枝をつり上げるこの方法は、一種のデザインであると言えよう。この「雪つり」によって作り出される風景は、単なるデザインではなく、その場所の気候風土によって作り出された、その場所固有のデザインの良い例であろう。

 「雪つり」の他にも金沢の街並みには様々なデザインが見受けられる。一つは建物一つ一つから突き出す軒である。商店街の建物一つ一つから突き出ている軒は、積雪時にできるだけ建物の入り口から遠くに雪を積もらせるためであると考えられる。その連続によって降雪時でも商店街を利用できるようにと工夫されたのだろう。非常に機能的にできているのだ。

 軒が張り出していることに共通することで、昔ながらの街並みでは入り口が必ずと言って良いほど中に入り込んでいる。これらの多くは昔ながらの木格子の立面を持つ茶屋街に見られる。これも同様に雪から入り口を守るためのデザイン的な工夫なのだろう。

(写真2)茶屋街:各建物の入り口が入り込んでいることがわかる。
(写真3)雪吊:写真は兼六園のもの。雪の多い地域ながらの工夫が作り出す意匠。兼六園のみならず街の至る所で見られる。


 他にも街の所々で見られる小さな溝、水路もすべて雪によって起こる生活の障害を少しでもなくすために施されたものである。これらが金沢の街を特徴的なものにし、他にはない魅力を醸し出しているのである。さて、我々の住む街はどうだろうか。ただ単に格好良く「デザイン」されただけだろうか。街に散在するデザインは一つ一つに意味があり、けしてただの装飾的な要素ではなく機能的なものなのである。自分の街の中でも、機能から導き出されたデザインを探してみてはどうだろうか。(文責:稲坂晃義)