写真3:保存地区に隣接する敷地に立地する中層建築物
東山魁夷の「年暮る」を高山の古い家並みに見出す
このような家並みが連坦する様子を北山公園の高台から眺望してみよう.写真4は,北山公園の高台から保存地区を撮影したものである.撮影時期は2017年9月であり,降雪の季節ではない.保存地区に指定され,町家が面的に保存されている.このため,間口が狭く奥行が長い町家の集合,共通の屋根勾配,共通の意匠によって「年暮る」の規則性を見出すことができよう.その一方で,安川通り沿いや保存地区における中層の現代建築物が規則性のなかに入り交じっている様子もわかる.
歴史的な名画の舞台,あるいはそれに似た景観を形成する空間は,それだけで存在価値がある.前述したように,伝統的建造物群保存地区という制度は,地元住民と市町村との主体的な協力の上で実現しているものである.その結果としての存在価値であることを留意すべきであろう.今後,こうした主体的な協力が徐々に失われ,写真2や写真3のような中層の現代建築が徐々に立地すれば,「年暮る」の規則性は徐々に失われてしまうかもしれない.
写真4:北山公園の高台から撮影した保存地区
本稿では,高山の古い街並の景観を「鳥の目」で眺めるとともに,景観の構成要素である町家や現代建築を「人の目」で見てみた.景観を議論するうえで,両者の目線をもつことは互いに欠けている部分を補うことができる点において,重要であるといえよう.後者は意識せずとも実践できる反面,前者を実践することは難しい.「年暮る」のような名画の存在は,「鳥の目」を補うことができる点においても,貴重な作品であると思われる.
◆参考文献
・
高山都市計画図(平成27年3月時点)
URL:
http://www2.city.takayama.lg.jp/temp/10000toshikeikakuzu.pdf
(閲覧日:2017年9月18日)
(文責:薄井宏行)