写真6:現代建築(筆者撮影)
また、よいまちづくりにおいてはハード面を整えるだけでなくソフト面の充実が肝要である。1984年に区分所有法が改正され、団地管理組合規定・法人の規定が設けられたことに則って、1985年に披露山庭園住宅団地組合法人が設立された。管理組合法人規約ができたことで、会費を徴収し環境の整備や防犯・防火管理といった活動を安定的にできるようになり、安全で安心な美しいまちが維持されている。
セキュリティが頑健であることは特筆すべきであろう。塀がなく死角を作らない街並みは防犯環境設計の優れた構築例として挙げられる。さらに警備員の防犯パトロールや、各戸のセキュリティ導入はゲーテッドコミュニティの性質を強めることとなっている。
◆おわりに
披露山庭園住宅地は、建築協定と独自の規約を住民が遵守することで、住民主体のまちづくりが実現されている一例である。しかし個々の建築物に対しては明確な規制を設けていないため、建材やスタイルもまちまちな家が集まる「おもちゃ箱のような景観」と批判する見方もある。
「良い街並み」の定義は百人百様だが、著者は披露山庭園住宅地のまちなみは多様な個性が集ってできあがった一つの作品のようだと感じた。建築ファサードの統一性は高くなくても、軒の高さを揃え壁面を後退させることによって地区全体としてはまとまりのあるスカイラインや景観の形成が図れており、むしろ正面性を持たせる造形意匠を採用することで均質空間の中にヴァナキュラーのエッセンスを取り入れて、「場」の体験価値を高めている。この地のまちづくりは生活景のデザインに関して大きな示唆を与えているのではないか。
◆参考文献
・披露山庭園住宅団地管理組合法人,「ご紹介」
https://hiroyama.jp/introductions(2022年3月15日閲覧)
・齋藤広子(1999), 披露山庭園住宅ー管理組織と建築協定を考えるー,検証/有名住宅地その後1,家とまちなみ39
https://www.machinami.or.jp/pdf/machinami/machinami039_4.pdf(2022年3月15日閲覧)
・伊東孝(2002),住宅地について考える 披露山庭園住宅地の体験から,まちなみ・まちづくりエッセイ24,家とまちなみ46
https://www.machinami.or.jp/pdf/machinami/machinami046_10.pdf (2022年3月15日閲覧)
・披露山庭園住宅団地管理組合法人,「建築協定書」
https://hiroyama.jp/co-agreement(2022年3月15日閲覧)
・逗子披露山庭園住宅地区建築協定運用規定「建築に際して守るべき事」
https://www.hiroyama.jp/wp-content/uploads/2012/03/unyo2017a.pdf(2022年3月15日閲覧)
(文責:中島)