青森県弘前市~城下町の街並みとノスタルジックな建造物〜

◆はじめに

 弘前市は青森県津軽地方の中心都市であり、約16万人の人口を有する都市である。りんごの名産地として知られており、弘前公園の弘前城や弘前さくらまつり、弘前ねぷたまつりも全国に知られている。


写真1. 弘前ねぷたまつりの様子

 歴史的には、江戸時代までは弘前藩の城下町として栄え、明治に弘前駅と青森駅を結ぶ鉄道が開通してからは、第八師団司令部が設置され軍都として栄えた。弘前市中心市街地活性化ビジョンでは、中心市街地は駅前エリア・土手町エリア・文化交流エリア・公園エリアに分類されている(図1参照)。土手町エリア・文化交流エリアは弘南鉄道の中央弘前駅付近のエリアで、明治時代から商店街化した土手町商店街が残るなど、歴史ある商業エリアとなっている。弘前駅前エリアは開発が行われ、規模の大きい小売店舗やホテルが立地する、比較的新しいエリアである。公園エリアは弘前公園を中心に市役所や市民会館等の市民が利用する機能も集積していることが特徴である。
 本稿ではこのような歴史を持つ弘前市の中心市街地の特徴的な街並みである、伝統的建造物群保存地区と洋風建築を中心に紹介する。


図1. 中心市街地対象区域図(弘前市中心市街地活性化ビジョンより)

◆弘前城下の街並み・仲町伝統的建造物群保存地区

 江戸時代まで弘前城を取り囲むように城下町が形成されており、弘前公園の北側の仲町エリアは伝統的建造物群保存地区(以降、「伝建地区」と記す)として指定されている(図2)。伝建地区では当時の町割りを踏襲しており、道路沿いの生垣や門・板塀、前庭を持つ屋敷が伝統的な街並みを形成している。他の建物も伝統様式に配慮した外観になっており、他にも電線地中化、道路のタイル舗装などの景観への配慮が見られた。筆者が訪れた時は時間外で中には入れなかったが、伝建地区内では市に寄贈された武家住宅4棟が一般公開されており、観光や地域振興の拠点として整備されている。


図2. 仲町伝統的建造物群保存地区の所在地(弘前市HPより引用)


写真2. 仲町伝統的建造物群保存地区:生垣や板塀・建物外観など景観への配慮が見られる.


写真3. 道路がタイル舗装となっている.

◆点在する洋風建築

 弘前の街を歩くと、数多くの洋風建築を目にする。明治以降弘前は学都を目指し、外国人教師を招いたことで早くからキリスト教が伝わった。そうした経緯もあり、文明開花の波にのり独特の洋館が作られたという背景がある。洋館は特に土手町エリアや公園エリア周辺の古くから市街地の中心だったエリアに多く位置している。
 写真4の青森銀行記念館は建築家・堀江佐吉によって設計された木造2階建ての左右対称のルネサンス建築で、弘前公園の近くに位置する。昭和40年に取り壊される予定であったが、地元住民から保存を強く求められた経緯がある。昭和47年に国の重要文化財に指定され、現在は西洋建築や堀江佐吉についての展示をしている。また、建物の前は芝生広場となっており、歩いていて自然と目に留まるようになっていた。広場はねぷた祭りの際にイベントスペースとして利用されており、多くの人の注目を集める建物であった。


写真4. 青森銀行記念館(旧第五十九銀行)

 写真5に示す旧弘前市立図書館も、堀江佐吉によって設計された八角形の塔が特徴の洋風建築である。現在は市が所有しており、郷土文学館の施設として一般公開されている。また、青森県重宝にも指定されている。同一区画内には弘前市立観光館や弘前図書館が位置し、また弘前公園にも近く、多くの人が訪れるスポットとなっている。区画内には弘前市の洋館のミニチュア建造物群(写真6)が展示されており、点在する洋館の魅力を発信する拠点としての役割も果たしている。


写真5. 旧弘前市立図書館


写真6. ミニチュア建造物群

 写真7の一戸時計店は土手町商店街に位置しており、目を引くデザインとなっている。2018年に店主が逝去されて以来、中土手町商店街振興組合が建物取得・改修・維持管理を行っている。現在は同組合の組合事務所として利用されており、地域住民の力で文化的価値のある建物が保全されている。
 写真8の旧第八師団長官舎は、その外観を残したまま現在はスターバックスコーヒーの店舗となっており、内装も洋館の趣を残したものとなっている。そのほかにも、洋館を利用したカフェがあり、人気スポットとして賑わっていた。


写真7. 一戸時計店


写真8. 旧第八師団長官舎:現在はスターバックスコーヒーが利用.

◆歴史ある商店街と喫茶の街ひろさき

 弘前市の商業の中心地と言えるのが、土手町エリアの土手町商店街である。その歴史は弘前城築城まで遡り、古くから商業地域として栄えている。ねぷた祭りの際はねぷたの運行コースとなっており、祭りの際には多くの地域住民・観光客が訪れる(写真9)。商店街には喫茶店をはじめとした飲食店や小売店が並んでいる。その中でも特徴として、弘前市の中心市街地にはレトロな喫茶店が多く見られる。弘前市でも、「珈琲の街ひろさきガイドマップ」を作成するなど、喫茶の街として観光客向けに魅力を発信している(写真10)。
 一方で、商店街には老朽化した建物や青空駐車場も少なからず見られた。また、写真9のように商店街の中に大型マンションもあり、古き良き商店街の趣と、時代の変化の影響の両面を感じた。


写真9. 土手町商店街の様子:ねぷた祭りの運行コースになっている.


写真10. 珈琲の街ひろさき加盟店のポスター

◆おわりに

 本稿は弘前市の特徴的な街並みである、仲町伝統的建造物群保存地区と点在する洋館、商店街とレトロ喫茶について紹介した。実際に弘前の中心市街地を歩いてみると、それらの特徴を発見する楽しさがあった。また、公園エリアを中心に観光拠点や商業機能・公共施設が集積しており、生活者目線でも暮らしやすそうな街だと感じた。
 一方で、駅前エリアと公園エリアの観光面での接続に課題があると感じた。両エリアの距離が徒歩で30分程度と中心市街地の範囲が広い。そのため、地域外の観光客の玄関口となる駅前エリアの魅力向上や、観光の中心となる公園エリアとの回遊性向上が期待される。また、商店街をはじめとした商業地の老朽化など時代の変化の影響を受けた課題もある。現在弘前市は、中心市街地活性化基本計画において回遊性の向上・商業機能の強化・観光機能の充実に取り組んでいる。人口減少下で今後弘前がどのように発展していくか、今後の動向を注視したい。

◆参考文献(閲覧日:2023/09/25)

•弘前市, 弘前市のあゆみ.
https://www.city.hirosaki.aomori.jp/gaiyou/rekishi/rekisi-ayumi.html
•弘前市, 弘前市中心市街地活性化ビジョン.
https://www.city.hirosaki.aomori.jp/jouhou/keikaku/2022-0318-1830-39.html
•弘前市, 弘前市仲町伝統的建造物群保存地区.
https://www.city.hirosaki.aomori.jp/gaiyou/bunkazai/kuni/kuni31.html
•弘前市仲町地区伝統的建造物群保存会, 弘前市仲町伝統的建造物群保存地区.
https://nakachou.main.jp/
•弘前市, 洋館.
https://www.hirosaki-kanko.or.jp/edit.html?id=cat01_building
•弘前市, 旧第五十九銀行本店本館.
https://www.city.hirosaki.aomori.jp/gaiyou/bunkazai/kuni/kuni16.html
•弘前市, 旧弘前市立図書館.
https://www.city.hirosaki.aomori.jp/gaiyou/bunkazai/ken/ken11.html
•中土手町商店街振興組合, 一戸時計店について.
https://nakadote.com/about-ichinohe-tokeiten/
•弘前市, 珈琲の街.
https://www.hirosaki-kanko.or.jp/edit.html?id=cat03_food15
•弘前市, 珈琲の街ひろさき ガイドマップ.
https://www.hirosaki-kanko.or.jp/individual/coffee/leaflet.pdf
•弘前市, 弘前市中心市街地活性化基本計画.
https://www.city.hirosaki.aomori.jp/jouhou/keikaku/2015-0218-1837-395.html

(文責・図・写真:宮岸凌也)