阿佐ヶ谷住宅

阿佐ヶ谷住宅

杉並区阿佐ヶ谷にあります「阿佐ヶ谷住宅」に行ってきました。こちらは住宅公団と建築家前川國男の合作で築50年になる団地です。 前川國男と言えば、近代建築の父ル・コルビュジェの弟子であった人物です。前川國男の作品では上野にある東京文化会館が有名かと 思います。こちらはコルビュジェ設計の国立西洋美術館の前に建っており、コルビュジェの影響を強く感じさせる建築です。また、 東京たてもの園で鑑賞することができる、前川國男の自邸にもよくよく見るとコルビュジェの影響を垣間見ることができます。ドア や窓などディテールはオマージュとも取れる設計となっています。前川國男の自邸は勾配のきいた三角屋根が印象的ですが、こちら の阿佐ヶ谷団地でもかわいらしい三角屋根を見ることができます。

(写真1)前川國男設計の低層棟


赤と白を基調とし、三角屋根の低層棟と陸屋根の高層棟が比較的高密度で建ち並んでいます。団地内には環状の車道が通っており、 そこには杉並区のコミュニティバス「すぎ丸」が走っています。環状の車道以外は歩道しかありません。中央に位置する公園に向かって 放射線状に幅1mほどのくねくねした路地が延びています。路地沿道には緑が生い茂り、「となりのトトロ」気分を味わうことができます。 建物配置は比較的密度が高いように感じました。しかし、いたるところに小さなスケールが用いられており、窮屈さを感じさせません。 とてもやさしい空間でした。

(写真2)団地内を巡る歩道1


(写真3)団地内を巡る歩道2


三角屋根の低層棟が前川國男の設計です。米軍ハウスを思わせる佇まいです。しかしよく見ると、窓からは障子が見えます。 内部は日本的なのです。
高層棟は公団の設計で、団地ではよく見られる階段室型です。おそらく、高層棟だけでは阿佐ヶ谷団地の魅力は半減したと思います。 低層棟と高層棟が混在することで、おもしろみに富んだ団地が形成されたのだと思います。

(写真4)公団設計の高層棟


日本人の美意識に「色熟れ」というものがあります。色熟れ−「何でもつくられたばかりの時には生々しくて本当の美しさを発揮で きないが、それが日光や大気にさらされ、人々に使い込まれているうちに自然に古びてしっとりとした味わいが生まれる」この阿佐 ヶ谷団地はまさに「色熟れ」現象が起きている味わい深い団地です。塗り替えられたドアや生い茂った緑、日光にさらされ退色した 赤い屋根。長い年月をかけて人工物が人間の生活と自然に侵食されています。古くて汚い団地に見える人もいるかもしれません。 でも、ここには生活の歴史を感じさせる趣き深い空間が形成されていると私は思います。

(写真5)塗り替えられた玄関のドア


(写真6)緑に覆われた低層棟


残念ながらこちらの阿佐ヶ谷住宅は老朽化に伴い、再開発が決定しています。皆さんもまちなみが変わってしまう前に、 一度訪れてみては如何でしょうか。(文責:平松彩奈)