銚子市外川〜坂のある風景〜

銚子

銚子半島の南端の傾斜地に、碁盤目状に町割がされた外川(とかわ)はあります。かつてイワシ漁が繁栄した町では、今は現代的な生活の風景と昔ながらの港町の風景が入り混じった光景を見つけることができます。 外川の碁盤目状の市街地計画は、1658年に外川港が築港された際に、紀州和歌山から移住してきた碕山治郎右衛門によって設計されました。300年以上経った今でも、碁盤目状の市街地計画は、見通しのきく坂道や天日干し台のある路地裏の風景に反映されています。

(写真1)見通しの利く坂道


銚子電鉄に揺られて、終着駅の外川駅を出ると、味のある鉄道車両や駅舎内の様子とは対照的に素っ気ない駅前の風景に物足りなさを感じるかもしれません。しかし、駅から真っ直ぐに続く坂道を下ると開けてくる港町の街並みに、どこか不思議な感情が湧いてきます。

外川の町の坂道を昇っては降り、路地裏を抜けては海を眺める散策を続けると、外川の街並みは、坂道と瓦屋根に特徴付けられていることに気付きます。

(写真2)外川の坂道


傾斜地にあるために軒の高さが連続していない外川の街並みは、様々な屋根形式が混在していることも相まって、荒々しいという印象を与えるかもしれませんが、地元の魚料理店のランチシートに描かれるように、力強い瓦屋根の風景は伝統的に地域に根付いた街並みであったことが窺い知れます。

(図1)銚子の地魚専門店のランチシートに描かれた、かつての銚子を思わせる街並み

(写真3)外川の瓦屋根


海風から家屋を守る必要性がある地域では、堅牢な造りの瓦屋根は家屋や屋根を砂塵や潮風から守るために伝統的に用いられています。安定した風があり、風力発電所の立地としても注目を浴びる銚子では、一見乱雑な印象を受ける瓦屋根の街並みも合理的な理由から生まれています。スレート葺や洋瓦の街並みに見慣れてしまった都市部や郊外の住宅地では味わうことのできない、どこか懐かしさを残す瓦葺の街並みが外川にはありました。

(写真4)屋根の向こうに見える漁港


外川の町では、坂道を登るときは、視線は足元に、坂道を降るときは、視線は屋根の高さにくることもあって、目の高さにくる屋根、路面の魅力を高めることが街並みを良くする手掛かりになると感じました。 例えば、坂を上るときに目の高さにくる、鉢植えや石垣も街の緑を演出するのに大きな役割を果しています。普段何気なく目に留める植え込みや路面の状態、屋根の形式も、坂のある町では、より一層街の魅力を引き立てる役割を担うことができます。

(写真5)石垣

(写真6)鉢植え


かつて石畳に覆われていた外川の坂道も、今では玉石の混じる成型コンクリートとアスファルトが多くを占めています。外川の町でも例外なく、自動車は生活に欠かせないものであり、自動車走行時の騒音やすべりやすさ、手入れの負担を考慮して、現在のような路面になったのかもしれません。

(写真7) Compact City needs Compact Car.


外川の町に見られるように、人間の活動や自然の影響は、それぞれ路面や屋根を始めとする建物のカタチの中に、街並みの中に反映されます。 たまには、足元や空ばかり眺めて歩いてみることで、あなたのお気に入りの街並みの良さの理由が分かるかもしれません。

(文責:引田有人)