写真2:福山城.チームラボのライトアップイベントの準備が行われていた
◆小さな仕掛けと混ざった通り
福山駅前の商店街を歩いて気づくのは
大量のストリートファニチャーの存在です.歩道の上に小型のベンチやテーブル,樽やパラソルが店舗ごとに置かれており,間に点在する民家や空き地にも休憩場所が提供されています(写真3・4).駅前ロータリーに接続する大通り沿いの歩道にはウッドデッキや木製屋台が設けられ,帰宅する人々の足を呼び止め,ゆったりとした時間を過ごせる空間となっています(写真5・6).
またメイン通りが存在せず10以上の商店会が共存していることもまちの特徴です.ステンレスワイヤーのアーケードの下に樹木や花が溢れる
本通りや,地中化された電線の跡にケヤキを植えた
本町一番街など,個性的な通りの混在はまちを歩き回る好奇心を高めます.(写真7)
写真3:植栽とセットで置かれた一人用ベンチ.
写真4:バレエ教室の前のベンチ.
写真5:ほこみち制度により安価で使える屋台.フィリップモリスver.
写真6:大通り沿いのデッキ
写真7:本通り.グッドデザイン賞を獲得した
◆寂れた百貨店からパブリックスペースへ
前述したそごう福山撤退後の建物では,地上階部の全面的なリノベーションが行われ,スーパーやコワーキングスペース,レンタルスペースなどが入る複合施設
iti SETOUCIとして生まれ変わっています.駅前の人流との連続性を意識してメイン出入り口だけでなく壁にも大きな開口部を設けることで自転車に乗ったまま施設内に入ることができ,フロアには同建物内の「デジタル工作室」で作られたベンチが多く設置され,中高生が勉強する場となっていました(写真8・9).一種の都市のような魅力を持つiti SETOUCIは,出発地・休憩地・目的地としてまちの回遊性を高めるポテンシャルを秘めています.
写真8:メイン出入り口.百貨店跡なので柱の重厚感がある
写真9:工作室で作られたベンチ
◆どこまでがウォーカブルエリア?
中心商業地以外にも魅力的な場所は他にもあります.イングリッシュパブや時計台を付けた眼科など煉瓦造りの洋館が立ち並ぶ
大黒町には,大正ロマンな情緒が漂っており,文化財として保存運動が行われています(写真10).またかつて陸軍軍人向けに置かれた「新町遊郭」が栄えた
住吉町・入船町では,今でもネオン煌めく風俗店が大人の社交場となっています(写真11).しかしこれらの異質で魅力的な商店街はいずれもウォーカブルエリアに含まれておらず,高架や大通りでエリアから分断されてしまっています.
ウォーカブルエリアの設定は,エリア内の税制優遇や施策支援を行うもので,エリア外の開発を規制するわけではありません.一方で,中心部に人々の注目が過剰に集まることは,縁辺部の衰退を引き起こし,結果的にまち全体の魅力を損ないかねません.「駅徒歩圏への魅力の集中」と「歴史と文化の尊重」.城下町として多彩な商店街に恵まれた福山駅前は,今後慎重な舵取りを迫られるかもしれません.
写真10:赤レンガ通り