福山駅前―城下に広がるウォーカブルなまち―

◆はじめに

福山市は広島県と岡山県の境界に位置する人口約46万人の中核都市です.「瀬戸内の豊かな自然に育まれた歴史と文化の街」を謳っており,江戸時代に潮待ちの港として栄えた鞆の浦や,1945年の空襲で荒廃した町に大量に植えられ今でも春と秋には町中に咲き誇るバラが市のシンボルとして有名です(写真1). 新幹線のぞみが停車し1日あたり約4万人の乗降客数を誇る福山駅及びその駅前は,市の賑わいの中心で,駅北部に建つ福山城の城下町として古くから栄えていました(写真2).しかし近年,自動車利用率の増加などライフスタイルの変化に伴い来訪客数が減少しており,福山そごうの閉店に代表されるように空き店舗の増加が問題となっています.
これに対し福山市は,「駅周辺に徒歩で楽しめる空間が少ない」「未利用の道路や公園が多い」ことを解決すべき課題として挙げ,2020年に福山駅周辺デザイン計画の策定を行いました.さらに駅前の一部の区域をウォーカブルエリアとし,居心地がよく歩きたくなる区域としてエリア内で様々な施策を官民連携で進めています.


写真1:市役所前で咲くバラ


写真2:福山城.チームラボのライトアップイベントの準備が行われていた

◆小さな仕掛けと混ざった通り

福山駅前の商店街を歩いて気づくのは大量のストリートファニチャーの存在です.歩道の上に小型のベンチやテーブル,樽やパラソルが店舗ごとに置かれており,間に点在する民家や空き地にも休憩場所が提供されています(写真3・4).駅前ロータリーに接続する大通り沿いの歩道にはウッドデッキや木製屋台が設けられ,帰宅する人々の足を呼び止め,ゆったりとした時間を過ごせる空間となっています(写真5・6).
またメイン通りが存在せず10以上の商店会が共存していることもまちの特徴です.ステンレスワイヤーのアーケードの下に樹木や花が溢れる本通りや,地中化された電線の跡にケヤキを植えた本町一番街など,個性的な通りの混在はまちを歩き回る好奇心を高めます.(写真7)


写真3:植栽とセットで置かれた一人用ベンチ.


写真4:バレエ教室の前のベンチ.


写真5:ほこみち制度により安価で使える屋台.フィリップモリスver.


写真6:大通り沿いのデッキ


写真7:本通り.グッドデザイン賞を獲得した

◆寂れた百貨店からパブリックスペースへ

前述したそごう福山撤退後の建物では,地上階部の全面的なリノベーションが行われ,スーパーやコワーキングスペース,レンタルスペースなどが入る複合施設iti SETOUCIとして生まれ変わっています.駅前の人流との連続性を意識してメイン出入り口だけでなく壁にも大きな開口部を設けることで自転車に乗ったまま施設内に入ることができ,フロアには同建物内の「デジタル工作室」で作られたベンチが多く設置され,中高生が勉強する場となっていました(写真8・9).一種の都市のような魅力を持つiti SETOUCIは,出発地・休憩地・目的地としてまちの回遊性を高めるポテンシャルを秘めています.


写真8:メイン出入り口.百貨店跡なので柱の重厚感がある


写真9:工作室で作られたベンチ

◆どこまでがウォーカブルエリア?

中心商業地以外にも魅力的な場所は他にもあります.イングリッシュパブや時計台を付けた眼科など煉瓦造りの洋館が立ち並ぶ大黒町には,大正ロマンな情緒が漂っており,文化財として保存運動が行われています(写真10).またかつて陸軍軍人向けに置かれた「新町遊郭」が栄えた住吉町・入船町では,今でもネオン煌めく風俗店が大人の社交場となっています(写真11).しかしこれらの異質で魅力的な商店街はいずれもウォーカブルエリアに含まれておらず,高架や大通りでエリアから分断されてしまっています.
ウォーカブルエリアの設定は,エリア内の税制優遇や施策支援を行うもので,エリア外の開発を規制するわけではありません.一方で,中心部に人々の注目が過剰に集まることは,縁辺部の衰退を引き起こし,結果的にまち全体の魅力を損ないかねません.「駅徒歩圏への魅力の集中」と「歴史と文化の尊重」.城下町として多彩な商店街に恵まれた福山駅前は,今後慎重な舵取りを迫られるかもしれません.


写真10:赤レンガ通り


写真11:住吉町

◆参考文献
・福山市,福山駅周辺デザイン計画2022,最終閲覧日2022.12.14
https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/uploaded/attachment/215104.pdf

(写真撮影・文責:塩崎洸)