図6 煉瓦造り独居房 著者撮影
デザインに関して、入口の門が堅固な造りであるために内部も同様の建物が多いのかと予想していましたが、明るい色彩の建物も多かったことに驚きました。旧網走監獄舎房は監獄らしい場所ではありましたが、木が味わいを出していてコンクリート造の現代らしい刑務所に比べあたたかい印象を抱きました。旧網走監獄教誨堂の外観と内観の違いには非常に驚かされました。白と淡い水色を基調とした内観は非常に美しく著者もとても気に入りました。網走監獄のデザインは全体的に和洋折衷の建築が目立ちますが、これは網走監獄が建設されたのが1891年だということからも、建築家の意向を取り入れたというよりも時代の変遷とともに変わる行刑思想についていこうとした監獄建築の努力と言うべきなのかなと感じました。
また博物館としても内容が充実していて素晴らしかったです。建物の中には人形など展示用に仕掛けが多数用意されていましたが、これに助けられて当時の風景を想像することができました。
博物館には鏡橋の展示もありました。網走監獄の被収容者は収容される時も出所の時も刑務所の外堀に沿って流れる網走川にかかる橋(鏡橋)を渡ることが決まりとなっていました。鏡橋という名前の由来は、収容または出所予定の者が川面に映った自身を見て、襟を正し心の垢をぬぐい落とす目的で岸に渡るようにしていたところから来たそうです。網走刑務所鏡橋は現在までに4回掛け替えが行われていますが、橋と橋に対する想いが引き継がれています。
◆まとめ
「行刑が建築する」という言葉があるように処遇・行刑と監獄建築は互いに不可分の関係にあります。3つの行刑建築が盛衰する期間はわずか20年ほどと短いですが、背景には行刑思想の模索と成熟がうかがえます。
同時に、この期間は建築や都市は時間の経過とともに変化するものゆえ、動的プランニングが必要という示唆を我々に与えているのではないでしょうか。どのような建築においても社会の変化に「しなやかに対応できる建築」であることが重要です。
刑務所の建築も幅広い用途や時間の変化にも対応できる「クロノデザイン」であるべきでしょう。
◆参考文献
・内藤廣,浅見泰司ほか(2020),クロノデザイン 空間価値から時間価値へ,彰国社
・長谷川堯(2007),神殿か獄舎か(SD選書),鹿島出版会
・堀切沙由美(2021),昭和初期の刑務所建築に反映された新しい行刑のあり方,日本建築学会計画系論文集,86,781,1096-1101
・南一誠(2014), 時と共に変化する建築 使い続ける技術と文化,UNIBOOK
・南一誠(2021),しなやかな建築,総合資格
・山井翔太(2012),近代日本における監獄建築の処罰・更生空間に関する研究 既決監獄(刑務所)を対象として,平成24年度日本大学理工学部学術講演会論文集
・博物館網走監獄ホームページ(2022年11月1日閲覧)
URL:
https://www.kangoku.jp/
(文責 間宮竜大)