長万部・倶知安・小樽 –新幹線開業と並行在来線廃止を控えるまちの今–

◆はじめに

 北海道、とりわけ道南・道央地域は大きな転換点を迎えようとしている。2030年度末、新函館北斗~札幌間に新幹線の開業が予定されているのだ。
 新規開業区間は、2016年3月に開業した北海道新幹線(新青森~新函館北斗間)を札幌に延伸するもので、これにより道内や本州へのアクセス性が飛躍的に向上する。例えば、現状札幌駅~函館駅間は在来線で約3時間30分、飛行機で約2時間30分を要するところ、新幹線を利用することで約1時間13分と大幅に短縮される見込みだ。途中駅は、新八雲(八雲町)、長万部(長万部町)、倶知安(倶知安町)、新小樽(小樽市)(いずれも仮称)の4駅が設置される。沿線には小樽・余市・ニセコといった北海道を代表する観光地が隣接することから、観光客の増加に伴う地域の活性化も期待されている。
 一方、新幹線の開業に伴い、並行する在来線である函館本線の長万部~小樽間(通称「山線」)が廃止される。1904年以来、北海道の大動脈の1つとして地域の輸送を支えてきた同路線だが、沿線自治体の協議の結果、採算面から鉄道の維持は困難であると結論付けられた。2030年度以降、同区間のローカル輸送はバスに転換され、新幹線以外の鉄道でアクセスすることは不可能になる。
 2023年10月現在、新幹線事業の用地取得率は94%、土木工事着手率は98%であり、既に各地で新線・新駅の建設が進められている。明治時代の鉄道開業から約130年、地域の交通手段の大転換は沿線にどのような変革を及ぼすのであろうか。本記事では、北海道新幹線の延伸開業に伴って廃止が決定している山線の沿線のうち、新幹線駅が設置される長万部・倶知安・小樽の3つのまちを紹介する。

◆新駅が設置されるまちの今

1.長万部

 長万部町は噴火湾(内浦湾)の最奥部に面した人口約5000人の自治体である。室蘭本線・函館本線の分岐点にあって古くから鉄道交通の要衝であり、駅弁「かにめし」の町として有名である。また、町内に東京理科大学長万部キャンパスが位置する大学の街としても知られている。  長万部駅東(海)側には飲食店や個人商店が点在する商業地が広がっているが、筆者が訪れた平日昼間は駅自体の利用が少ないこともあって人影はまばらであり、まちの中心としては少し寂しい印象であった。また、スーパーマーケットやコンビニは駅から離れており、多くの人は自動車を利用して買い物に来ていると推測される。


写真1:長万部駅前。写真左の建物が長万部駅。写真右の看板には「ようこそ東京理科大学のある町へ」と書かれている。

 新幹線新駅は、長万部駅の西(山)側に併設される。長万部町は新幹線開業に向けて、駅前の市街地活性化や駅を中心とした市街地の再編を目指すまちづくり計画を策定しており、このうち駅周辺の市街地については、自由通路・滞留空間の整備、土地区画整理事業による駅前広場・「まちの駅」の整備などが計画されている。線路が市街地を南北約1kmにわたって分断している現状から、東西市街地間や市の観光資源である長万部温泉へのアクセス性を改善し、都市の回遊性を高める効果が期待される。著しい高齢化や人口減少による経済活動の停滞に直面している長万部にとって、新幹線開業は、駅周辺を都市の結節点として再整備する契機であると同時に、今後観光客の呼び込みや地域住民の移動を確保して都市そのものを維持する鍵であるといえるだろう。が、伝建地区内では市に寄贈された武家住宅4棟が一般公開されており、観光や地域振興の拠点として整備されている。


写真2:長万部駅構内から北方向を望む。写真左奥に長万部温泉が位置する。

2.倶知安

 倶知安町は羊蹄山の北西部に位置する人口約1.5万人の自治体である。道内有数のじゃがいもの産地として知られており、町のマスコットキャラクターにもじゃがいもが採用されている。また、上質な雪質から世界有数のスキーリゾート地となっているニセコや、蝦夷富士とも呼ばれ日本百名山の一つにも数えられる羊蹄山など、豊かな自然を生かした数多くの観光地が立地する。
 後志総合振興局が置かれる倶知安町は、行政・医療など都市機能が集まる後志地方の中心都市となっている。筆者が訪れた平日の夕方は、倶知安駅前は学校からの帰路だと思われる中高生の集団でにぎわっていた。また駅周辺や駅の東約500mを南北に走る国道5号線沿いを中心に飲食店、大型スーパー、病院などが数多く立地しており、多くの人や車が出入りしていた。こうした光景は、建物すらほとんど見られないこともある近隣の駅周辺と全く異なり、地域の核となっていることが実感された。


写真3:倶知安駅前。駅構内では新幹線駅の建設が進む。

 倶知安町が策定した北海道新幹線倶知安駅新駅周辺整備計画によると、新駅周辺の目指すべき方向性として「国際リゾート地の玄関口にふさわしい駅と街並み」が掲げられており、ターミナルとしての情報発信・サービスの提供や、羊蹄山の眺望の確保のための建築物の高さ・意匠の制限など、観光客を強く意識した整備方針が定められている。
 近年、ニセコエリアは2020年の公示地価において上昇率が全国1位を記録するなど、国際的なスキーリゾート地として宿泊施設や別荘地などの開発が進行している。筆者が訪れた際も、工事中らしき建物が道路の両側に点在しており、その発展ぶりが窺えた。また、オフシーズンにもかかわらず外国人観光客の姿も目立った。
 新幹線開業によって、こうした観光地への来訪者のさらなる増加が期待される。倶知安駅周辺も、観光客を円滑に受け入れられるインフラ整備と同時に、その賑わいを駅周辺にもいきわたらせるような仕掛けが求められる。


写真4:ニセコの中心地、ニセコひらふ付近。建設工事中の建物が目立つ。

  3.小樽

小樽市は石狩湾に面した人口約10万人の自治体である。古くからニシン漁で栄え、明治時代になると、小樽港は道内の物資供給拠点として整備され、1880年に道内初の鉄道が札幌~手宮間に開業するなど、北海道を代表する港湾都市・経済都市として発展した。こうした歴史から、市内には小樽運河の倉庫群や日本銀行旧小樽支店など繁栄を物語るまちなみが数多く残っており、道内を代表する観光地となっている。筆者が訪れた際も、修学旅行あるいは社会見学らしき学生の集団が複数おり、人気の訪問先となっていることが窺えた。


写真5:小樽運河にかかる中央橋から小樽駅方向を望む。写真中央を奥に延びる道路(中央通り)の突き当りに小樽駅が見える。

 小樽市に整備される新駅が先に紹介した2つと最も大きく異なるのは、新駅が既存の在来線駅とは異なる新たな場所に整備される点である。新小樽駅(仮称)は、小樽駅から約4km南に位置する。小樽市が策定した駅周辺まちづくり計画では、新駅とその周辺を「新たな玄関口」として、バス・タクシー等の二次交通機能の強化を目指している。小樽駅は運河の同古郡や旧手宮線といった市街地の主要な観光スポットからおおむね徒歩10分圏内の位置にあることと比較すれば、市街地や観光スポットとのスムーズな移動や移動方法の周知は必要不可欠だといえる。

◆おわりに

 本記事では、北海道新幹線の開業に伴い、新駅が設置される3つの自治体を取り上げ、それぞれの現状や新駅周辺の整備計画について紹介した。どの自治体も新駅整備を契機として駅周辺のまちづくりに取り組んでいるものの、市街地再編の核、リゾートの玄関口、まちへの新たな玄関口と、それぞれ目指す方向性が少しずつ異なることが見て取れた。
 新幹線の整備によって、住民や観光客の移動時間短縮や、利便性向上に伴う来訪者の増加など、地域へもたらす恩恵は大きいといえる。沿線の各地に、写真6のような看板が見られ、開業への期待感を感じることができた。


写真6:新幹線の開業を周知する看板(倶知安駅付近)

 一方で、在来線の廃止に伴うバス輸送への切り替えが地域の交通に与える影響は大きい。こうした公共交通機関は、高齢者や学生など自動車移動の選択肢がない人々の移動や、新幹線で来訪した観光客の二次交通の手段として、依然大きな役割を果たしており、地域にとって欠かせないものである。地域のニーズに対応できるバス路線を適切に整備できるか否かが、住民や観光客に対して魅力ある都市・観光地を維持するうえで重要となるだろう。また今後、沿線の多くの自治体で人口の減少が加速する中、長期的にサービス水準を維持できるどうかも大きな課題となると考えられる。
 また観光の面では、短期的には交通利便性の改善によって多数の観光客の来訪が見込まれるものの、観光地の陳腐化を防ぐためには常に新たな魅力を創造する努力が必要なことは言うまでもない。
 北海道、とりわけ道南・道央地域は、新幹線整備によって大きな転換点を迎えようとしている。しかし、「作って終わり」とせず、長期的な視点に立ったまちづくりが求められる。

◆参考文献
・安島博幸. (2020). 【研究ノート】観光地の発展に係わる「被差異化」の影響について ―熱海温泉におけるケーススタディを中心に―. 跡見学園女子大学観光コミュニティ学部紀要(5), 107-114.
・倶知安町. じゃがいもの花. 参照日: 2023年11月15日, 参照先: https://www.town.kutchan.hokkaido.jp/tourism/midokoro/jaga_hana/
・倶知安町. 新幹線・まちづくりに関する検討. 参照日: 2023年11月15日, 参照先: https://www.town.kutchan.hokkaido.jp/town_administration/shinkansen/shinkansenmatidukurikentou/
・倶知安町. 北海道新幹線倶知安駅新駅整備計画. 参照先: https://www.town.kutchan.hokkaido.jp/file/contents/2196/43654/seibikeikaku.pdf
・産経新聞. (2020年3月19日). 北海道・ニセコが全国トップの上昇率 公示地価、2年連続. 参照日: 2023年11月15日, 参照先: https://www.sankei.com/article/20200319-JOAM7EOHVVLNVP4CBIY2HTZA7I/
・小樽の歴史. 参照日: 2023年11月15日, 参照先: https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2021050700021/file_contents/1_rekisi.pdf
・小樽市. 北海道新幹線新小樽(仮称)駅周辺まちづくり計画について. 参照日: 2023年11月15日, 参照先: https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2021031000089/
・小樽市. 小樽市のプロフィル. 参照日: 2023年11月15日, 参照先: https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020120700879/#jinko
・長万部町. 新幹線駅周辺整備計画. 参照先: https://www.town.oshamambe.lg.jp/soshiki/4/332.html
・長万部町. 長万部まちづくりアクションプラン. 参照先: https://www.town.oshamambe.lg.jp/soshiki/4/336.html
・長万部町. 長万部都市計画マスタープラン. 参照先: https://www.town.oshamambe.lg.jp/soshiki/4/2461.html
・長万部町. 北海道新幹線駅周辺整備について. 参照先: https://www.town.oshamambe.lg.jp/soshiki/4/4803.html
・長万部町. 町の人口. 参照日: 2023年11月15日, 参照先: https://www.town.oshamambe.lg.jp/life/7/26/125/
・鉄道・運輸機構. 北海道新幹線. 参照日: 2023年11月15日, 参照先: https://www.jrtt.go.jp/project/hokkaido.html

(文責・図・写真:稲垣遥大)