高層住宅における居住者の緑環境の認識は居住階によってどのように異なるのか

はじめに

 近年のコロナ禍で、人々は家で過ごす時間が増え、住宅の環境がますます重要になってきています。内閣府の調査によると、テレワーク実施率の割合は増えており、特に都会においてその傾向は顕著となっています[1]。また住宅地において、周辺の緑環境は、住民にとって身体的健康や精神的健康においてプラスの影響があることが知られています。しかし近年、特に都市において、高層建築物の増加により、緑環境との物理的距離が遠くなり、人々が緑に触れる時間は減少しています[2]。そこで、高層住宅における住民の緑環境の認識を、住戸の階と住戸から見える緑環境の違いに着目して明らかにし、今後の高層住宅における緑環境の整備に資する方策を考えました。

UR高島平団地

 今回は、東京都板橋区にあるUR高島平団地を対象として考えます。UR高島平団地は、板橋区が2015年に定めた「板橋区基本構想」において緑環境の中心として重視している高島平プロムナードの一部である高島平緑地に面しており、団地内にも公園が点在し、緑道が貫くなど、様々な種類の緑環境が見られます[3]。団地は最高階数14階建ての高層住宅で、8000戸以上の住戸から成ります。住棟は、面している緑環境に応じて、以下の4つのタイプに分類することができます。

タイプA. 駐車場向き
 バルコニーが住棟南側の駐車場を向いています。植栽は、駐車場の目隠しとなっている高さ約3mの低木の生垣が中心です。高木も所々に見られますが、植栽は間隔を空けて植えられているため、緑は断続的です。


【図1 駐車場の植栽の例】

タイプB. プロムナード向き
 住棟の共用廊下が、高島平通りの北側を走る都営三田線の線路沿いの並木と、高島平通りの南側の緑道を向いています。高さ15mほどのケヤキ並木が立ち並び、高島平通り沿いの低木の緑、高島平緑地の中低木と高木など、様々な高さの植栽が密集していることから、緑が連続して目に映りやすいエリアです。


【図2 プロムナードの植栽の例】

タイプC. 緑道向き
 バルコニーが向いている前谷津川緑道は、団地を西北から東南にかけて斜めに貫く桜並木で、その高さは約11mです。桜並木自体は間隔を空けて植えられているものの、低木がこれらの桜を囲み、さらに隣の桜と繋がるように植えられています。


【図3 緑道の植栽の例】

タイプD. 公園向き
 バルコニーが住棟南側の公園を向いており、高さ8〜12mほどの木が公園の外周に植えられています。公園の中心部には遊具やパーゴラなどが配置されているところもあります。また、一部が芝生のエリアになっています。高層階からはパーゴラの屋根の緑も望むことができます。


【図4 公園の植栽の例】

アンケート調査

 2022年12月に、UR高島平団地の11の住棟、計2671戸を対象として、UR都市機構と板橋区の協力によりアンケート調査を行いました。主な目的は緑の印象評価です。住棟ごとに、回答の対象となる緑環境を指定し、ここでの緑環境には、樹木だけでなく草花や芝生など、植物全般を広く含んでいることも明記しました。それぞれの住棟ごとに、こちらで指定した緑環境について、①自宅のバルコニーあるいは玄関前の共用廊下から眺める時と、②緑の近くを通る時の2つの状況を想定してもらいました。回答の際にイメージを掴みやすくするため、アンケート用紙に参考として図5を載せました。


【図5 緑環境の見方】

 質問事項は以下の3つです。 

 まず初めに、自宅の高さから緑環境を眺める時に、緑の量についてどのように感じるか尋ねました。「かなり豊か」「豊か」「どちらかといえば豊か」「どちらともいえない」「どちらかといえば乏しい」「乏しい」「かなり乏しい」の7つの選択肢を用意しました。

 続いて、緑の印象評価の一番目として、同じく自宅の高さから緑環境を眺める時に、緑の印象についてどのように感じるか尋ねました。10個の形容詞(快適だ・美しい・楽しい・安全だ・変化が多い・自然だ・暖かい・安らぐ・潤いがある・好きだ)を用意し、それぞれについて「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」の4つの選択肢を用意しました。

 最後に、緑の印象評価の二番目として、地上から緑環境を眺める時に、緑の印象についてどのように感じるか尋ねました。用意した形容詞と選択肢は、印象評価の一番目と同じですが、緑環境を眺める状況を変え、どのように回答が変化するか分析することを目的としました。

調査結果の分析

 緑の印象評価について、住棟タイプごとにアンケート結果の分析を行いました。有効回答数は449で、回収率は16.8%です。

 まずは、住戸のバルコニーあるいは玄関前の共用廊下から緑環境を眺めた際に感じる緑の量についてです。数字が小さいほど量が乏しく、数字が大きいほど量が豊かであると感じていることを示しています。また、濃い緑の円は、その階における最頻値です。


【図6 感じる緑の量と階の関係】

 駐車場向き・プロムナード向き・緑道向きの3つの住棟においては、階数の増加に従って、感じる量の最頻値が徐々に減少していることが分かります。このことは、高層階に住んでいる人ほど、緑の量が乏しいと感じていることを示しています。一方で、公園向きの住棟においては、感じる量の最頻値が階数の影響を受けず、一定の値を保っています。つまり、高層階に住んでいる人であっても、低層階に住んでいる人と緑の量の感じ方はあまり変わらないことを示しています。

 続いて緑の印象評価について、緑環境を住戸の高さから眺めた時と地上から眺めた時の差を分析しました。数字が正であると、住戸の高さからの評価が地上からの評価を上回ることを示しています。

【図7 緑の印象評価と階の関係】

 駐車場向きの住棟では、特に住戸の高さからの評価が低いことが影響し、地上からの評価との差が大きくなっています。プロムナード向きの住棟では、差が小さく、住戸の高さと地上で感じ方にあまり違いがないことが分かります。一方で、どの形容詞も住戸の高さからの評価が地上からの評価を上回っており、住戸の高さからの方が評価は高くなっています。緑道向きの住棟では、差の大きさの絶対値は平均的である一方で、他のタイプと異なり、「快適だ」「暖かい」「潤いがある」などの形容詞で差が大きくなっています。公園向きの住棟では、全ての形容詞において差が小さく、一部では住戸の高さからの評価が地上からの評価を上回る形容詞も存在しています。また、住戸の高さからの評価と地上からの評価、共に平均値や四分位範囲が高くなっています。従って印象評価の面でも、階による差が少ないのは公園向きの住棟と言うことができるでしょう。

 最後にそれぞれの住棟タイプにおいて、「緑視率」に応じて印象評価がそれぞれどのように変化するか分析しました。今回、緑視率は以下のように計算しています。各住棟の共用部分から、アンケート調査で回答対象としてもらう緑環境の方向を向き、筆者の目の高さである約155cmの高さで写真を撮りました。これらの写真について、Adobe Photoshopを用いて、植栽が写真上で占める面積の割合を求めました。この際、植栽は各住棟において指定したもののみを選択し、団地外の植栽や、団地内ではあっても異なる場所の植物は除外しました。この面積の割合を緑視率として扱っています。階の増加に伴い、緑視率は減少する傾向があります。


【図8 駐車場向きの住棟の印象評価と緑視率の関係】


【図9 プロムナード向きの住棟の印象評価と緑視率の関係】


【図10 緑道向きの住棟の印象評価と緑視率の関係】


【図11 公園向きの住棟の印象評価と緑視率の関係】

 駐車場向きの住棟においては、データの少なさゆえに明確な傾向は読み取ることができませんが、緑視率0から0.7までは、印象評価は1〜4までに回答が分散しており、緑視率の値としては最も高い0.786においては、印象評価は2〜4もしくは3〜4に回答が収まっています。また、プロムナード向き・緑道向きの住棟においては、10個の形容詞を、緑視率の増加に伴い印象評価の最小値が増加する形容詞と最小値が変化しない形容詞の2つに分類することができます。前者が階によって印象の変化しやすい形容詞、後者が階によって印象の変化しない形容詞と言うことができるでしょう。各形容詞がどちらに振り分けられるかはプロムナード向きと緑道向きで異なっており、植栽の種類などに影響を受けることが分かります。一方で公園向きの住棟においては、全ての形容詞において、印象評価の値が分散し、緑視率の減少、つまり階の増加の影響をあまり受けないという結果になりました。特に「快適だ」「美しい」「楽しい」の3つの形容詞については、全ての回答が2〜4の範囲に収まっています。

おわりに

 以上の分析結果から、公園向きの住棟において、低層階と高層階の緑の印象評価の差が最も小さくなり、緑の量の感じ方にも差が出ないことが分かりました。緑が密集し過ぎておらず、道の明るさが程よく保たれること、ベンチなど、その場所に留まるためのストリートファーニチャがあり、ただ通り過ぎるのみである緑道などと印象が異なることなどが影響しているのではないかと考えられます。緑道にベンチなどのストリートファーニチャを配置することや、定期的にイベントを開催することなどが解決策として考えられます。また今後の調査においては、季節による違いや、時間帯による違いなどについても考えることができるでしょう。この結果をもとに、今後高層住宅の緑環境を整備する際に、効果的な緑の配置やデザインを考えることができるのではないでしょうか。

参考文献

[1] 内閣府, 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査, 最終閲覧日:2023年1月25日
https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/index.html
[2] 東京都, 東京都統計年鑑 令和2年/建設・住居, 最終閲覧日:2023年1月25日
https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp/tnenkan/2020/tn20q3i003.htm
[3] 板橋区公式ホームページ, 高島平プロムナード基本構想について, 最終閲覧日:2023年1月25日
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/bousai/machidukuri/chiiki/1031335/1006268.html

文責:岩田万里奈