講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


地主さんの相続問題をきっかけに誕生したシェアード・ハウス「松蔭コモンズ」の住人である坂元さんと篠原さんに、コレクティブな生活の実情とその可能性について語っていただきました。

坂元良江さん&篠原靖弘さん
松蔭コモンズ:シェアード・ハウスで暮らして


木下 まず、「松蔭コモンズ」が生まれた経緯について聞かせてください。

篠原 この古民家を所有している地主の鈴木誠夫さんの相続問題が最初のきっかけです。相続税の支払いのために庭の一部を売ることになったのです。その際に、鈴木誠夫さんは一般の業者ではなく、世田谷区に相談しました。そこから、世田谷を中心に街づくりを行ってきた3つのグループが計画案を提案する機会が与えられました。そのひとつが「世田谷にコレクティブハウスを実現する会」と、そのメンバーが多く参加している「NPOコレクティブハウジング社」でした。残念ながら、コレクティブハウスの建設は実現しませんでしたが、空き家になっていたこの古民家を、5年間の期限付きでシェアードハウスとして借りる許可を地主さんにいただきました。一方、相続を契機に売却することになった庭には、もともとあった庭の樹木を活かした環境共生住宅が建設されることになりました。相続問題をきっかけに、現在地主さんが暮らしている家、古民家、環境共生住宅の3者がひとつの庭を共有していくことになったわけです。現在、ここに暮らす私たちだけでなく、この計画に当初から関わっている9つのグループで、月一回の会合を開いて交流を図りながら、ルールづくりを行っています。ひとりひとりがばらばらに生活しているだけでは限られた環境しか手に入りませんが、ひとつの庭を共有することで、ここに暮らす誰もが一人では得られない環境を手に入れることができています。

僕の暮らす「松陰コモンズ」では、自然環境だけでなく、キッチンや風呂などのスペースや一部の家事を共有することで、一人で暮らす以上の豊かな暮らしを実現しようとしています。それが、僕の考えるコレクティブハウスの考え方です。そうした考え方を共有する他人同士が集まり、実際にコレクティブハウスでの生活を体験するために、この家で生活することになりました。

現在、20代から60代までの男女6人が暮らしています。僕が働いている「チームネット」という会社は環境共生をテーマにしたコンサルタントで、同じ敷地内で進行中の環境共生型のコーポラティブハウス「松蔭エコビレッジ」プロジェクトを手がけています。僕たちの考える環境共生は、ソーラー発電などのパーツの組み合わせで完結するのではなく、ひとつの環境に集まって住むことによって、ひとりでは得られない生活環境をつくることを目指しています。自然環境を共有することで、入居者同士の相互関係が生まれ、時間が経つにつれて、自然環境が育っていくことを大切に考えています。今回のプロジェクトでは、その相互関係が入居者だけに留まりません。僕自身がここに住んでいるのも、一住まい手として、相互関係の輪に加わり、自分が関わったコーポラティブ住宅での生活がどのようなものかを実体験し、あらたな提案につなげていきたいと考えたこともひとつの理由です。
木下 コレクティブハウスとシェアードハウスの違いを教えてください。

篠原 この家の場合、北欧で実現しているコレクティブハウスのように個人のスペースにキッチンなどの機能がない部屋のみで、キッチン・風呂などは共有していることからシェアードハウスと呼んでいます。しかし、僕たちの意識としては、限られた範囲の中で、いかにしてコレクティブな暮らしを実践していけるのかが大きなテーマとなっています。そこが一般的なシェアルームとは異なるところかもしれません。

僕の周りにも友人同士で家をシェアして暮らしている人たちがいましたが、僕自身はあまり興味がありませんでした。ここの最大の特徴は、年齢も性別も職業も全く異なる他人同士が、ひとつの家に集まって暮らしているということだと思います。そうした、他人同士が集まって住むこともコレクティブの大きな特徴だと考えています。会話なども、家族や友人同士ではありえないような内容で、いろいろな考え方の人がいることを実感できることも分かりました。空間を共有し、時間をシェアすること以上に、一人暮らしでは得られない広がりのある人間関係があることは特徴的だと思っています。


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