講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


9.まとめ


大家さんが社会的使命感に目覚めた時、まちは動く

私が福岡に吉原さんを訪ねるのは、もう何度目かだ。山王マンションも冷泉荘も何度目かだが、いつ来ても面白いし、心動かされるものがある。吉原さんが、穏やかでにこやかな語り口の中に、確かな覚悟とゆるぎない自信を秘めている上、確信犯的に一見ハチャメチャに見える挑戦を続けているからそうなのだ。

今回の一番の収穫は、吉原さんの原動力が「社会的使命感」だということを明確に知られた点だ。貸し家や貸しビルのオーナーを指す「大家」という言葉には、元々まちの人たちから頼りにされる世話役的なニュアンスが含まれているし、以前は実際にそうだったろう。ところが、金融機関と不動産系企業や建設系企業に薦められるままに、あまり「大家」的な自覚がないまま貸し家や貸しビルを建てても問題のない市場環境が長く続いたためか、「大家」という言葉自体もあまり使われなくなっていたように思う。

状況が変わり始めたのは21世紀。ストックは以前より古くなり、それを建替えられるような市場環境でもなくなり、更にはだぶつき気味の市場で空室率が総じて上がってきた。オーナーたちもノホホンとしていたのではもたない時代になってきた。そこで、自己改革を目指す新しい世代のオーナーが全国各地に現れ始めたのだ。福岡の吉原さんはその代表格であり、私の知る限り、東京の青木純さんとともにトップランナーである。

吉原さんは「大家」であることを自任している。自分の貸し家、貸しビルだけでなくまちを、まちの人の暮らしを変えようとしている。「社会的使命感」という少々硬い言葉を使っていても、全く違和感がない。カッコいい。日本全国の賃貸オーナーが、吉原さんのような社会的使命感を持った大家さんになったらと想像すると、掛け値なしに希望が持てる。大家さんのライフスタイル、これはまちにとって相当に重要だ。

(松村秀一)



 きちんと拝見するのは初めてだった冷泉荘,その運営とアクティブな入居者さん達はさすがだと思った。最近,町に新しいタイプの店をつくることに関心があるので,清川リトル商店街の実践にもうならされた。さらに,最近の事業である,久留米,大牟田への事業の展開,各都市での拠点づくりとプレイヤー養成という説明には圧倒されてしまった。

 「僕らの先生は建物そのものと入居者さん」,「(町が)消滅するかしないかは国が決めることではない」「大学院みたいな会社」などなど,吉原さんの発言には,思わず書きとめてしまうフレーズに溢れていた。

 ファンドマネージャーの藤野英人さんが「ヤンキーの虎 −新・ジモト経済の支配者たち」(東洋経済新報社,2016)という本を書かれている。今年上半期で最も印象に残った一冊である。藤野さんは,投資先として全国の企業を訪問し,セミナーを開催する折に,地方に元気のよい企業家たちがいることに気づいた。枕詞のように「日本の失われた20年」などと言われるが,それは怠慢だった旧来型の企業の話であり,地方には時代を見据えた新しい事業主が登場し,きちんと利益をあげている。いわゆるマイルド・ヤンキーを雇っているのは彼らだという意味で「ヤンキーの虎」と名付けたのである。事業の内容,そして各都市でのプレイヤー養成という点で,吉原さんは「ヤンキーの虎の虎」といえるのではないか。

 とにかく,リノベーションによるまちづくりは,先駆者による実験の段階はとうに過ぎて,完全にビジネスの段階に入ったことを目の当たりにした感じがする。モノさえあれば何でも売れ,部屋さえあれば借りてもらえた高度成長期の商売に替わる,アイデアに溢れた新しい事業が既に動いているのである。

(鈴木毅)




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