講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


3.輪島塗と土蔵
大崎:  私どものように土蔵を利用している塗師屋はとても少なくなりました。冷房などで容易に環境調節ができるようになりましたから。特に大きく変わったのはバブル景気の頃ですね。多くの塗師屋が、儲けた金で近代的な建物に建て替えていきました。塗師屋がプロデュースし、町全体で分業するという仕組みも大きく崩れてきています。時代とともに、木地屋さんなどが自分たちで制作・販売するようにもなっています。まぁ、こうして新しいことを始めた人たちが、古い塗師屋に代わって新しい塗師屋となっていくのかもしれません。
鈴木:  続けていくためにはどのような能力が必要なのでしょうか。
大崎:  先代は意識が高く、良いものを作っていました。それが輪島だけでなく築地などで高い評価を受けてきたのを私は見ています。私もそうした質の良い漆器づくりを守っていきたい。今、そういった哲学を持って作る人が減ってきていると感じます。
自慢ではありませんが、当店ほど漆にこだわっているところは全国でも他にいないと思います。漆は奈良時代から採れてきましたが、今は100%近く中国からの輸入に頼っています。日本産の漆は岩手北部で高齢の方が細々と採取しているのみです。私は国産の漆を20、30年と寝かせて使っています。作ったばかりの漆器では分かりませんが、何十年も経つと、中国産の漆を使った場合に比べて、寝かせた日本産の漆を使った漆器はやはり表面のふっくらとした輝きが保たれている。
西田:  酒づくりでも、酒蔵に酵母菌が棲みついているらしく、蔵を建て替えると味が全然違ってしまうという話がありますね。
大崎:  何の根拠もありませんが、この蔵で寝かせた漆は私の土蔵の中でしか反応しない。他の土蔵ではダメなのです。こうした文化を背景に輪島塗があるということを知ってもらいたいですね。



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