講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2.家族の社会的な構造と住宅のプランの関係

小泉
私が『変わる家族と変わる住まい』という本を執筆するにあたり考えたことは、あくまでも設計者の立場から空間を作っていくときに、ライフスタイルや家族がどのように関わってくるのかということです。 設計にどう活かすかという視点を持っていますので、家族社会学の研究者のような目新しいライフスタイルの紹介をしようとしているわけではありません。 家族と住宅のあり方には関連があるだろうということです。 社会学で言われているような「家族は変化しつつある」ということと、建築の分野での「提案されたプランの変化」ということを対比的に並べると面白いのではないか、ということなのです。 それについて簡単に歴史を追ってみたいと思います。

戦前の家父長制では「個々人の自立性は軽視」されていました。これは当時の住宅の「間仕切りの薄さ」とパラレルだと思います。
近代家族では、父は労働、母は家事、子供は勉強、というように「家族の役割がはっきりしてきた」のですが、これは住宅に見られるnLDK型住戸のように「部屋の機能を固定する」ということとパラレルだといえるでしょう。
そして、核家族化がすすみ、みな同じような家族構成になり「家族のバリエーションが狭まった」ことと、バリエーションのない同じ間取りが連続する「団地の供給」ということもパラレルです。

そして今後を考えるにあたって、様々な家族の形が出てきたという現状があります。 まず、単身という形態も含めて家族の規模が小さくなってきたことがあげられます。 それによって血縁によらない個人の集団も出てきました。このことは住宅が色々なバリエーションを持つようになるということとパラレルでしょう。 企画化された住宅では自分たちの生活に十分に対応できないと考える人たちが増えています。 一般雑誌に住宅の記事がよくとりあげられ、第一次取得層である30代で建築家に住宅を頼むのがブームのようになっています。

かつて少ない品種で安価に大量に供給されてきた「住宅」に対して、現在では多品種で少量という需要が出てきているように思います。 住宅メーカーが年間1000戸の建設をターゲットとしていたのに対し、一方で年間10戸程度の半規格化された住宅を作っている建築家がクローズアップされてきました。 ライフスタイルということからみれば、私は年間20〜30戸の需要をターゲットにした個別性の強い住宅のあり方が求められているのではないか、と感じています。

松村 建築家が年間数10戸を設計するとしたら、その数10人が同じものを求めていないから品揃えを持っている必要があるわけで、個人の建築家ならブランドイメージを作るのが大変でしょう。 工務店にはそれぞれ得意な分野があって、ある工務店が坪80万円以上の和風を得意にしているとしましょう。 それでも、実際に来るのは例えば30代の人の「坪30万円で家を建てて欲しい」という注文だったりします。 それを断っていると仕事がなくなってしまうので、色々と品揃えの努力をせざるを得ないところがある。

鈴木 年間数10戸というのが成立しそうなのは、インターネットを通じて情報が得やすい状況になったからではないでしょうか。

松村 ある建築家が10年程前に自分の設計した建物の単価を公開したところ、単に安いということだけでたくさんの問い合わせがあり、本来意図した設計ができないというエピソードを聞いたこともあます。

小泉 以前、私も「プラモデル住宅」という、安く早く住宅ができるというような規格住宅を設計しましたが、それを見てきた人と話していると予算が少ないけれど何とかしてくれと、まるで人生相談のようでした。しかし、10年前に比べると住宅に関する情報は圧倒的に増えました。その結果受け手側、つまり発注者側のもっている情報量が多くなってきている印象があります。建築家と発注者の嗜好が合致する場合も多くなってきています。

鈴木 最近は建築家による安価な住宅が成立しつつあるのでしょうか?
小泉 徐々にですが成立しつつあると思います。
松村 建築家がビジネスとして成立させようと考え始めると、企業の論理になってしまいます。そうなるとまた別のものになってしまいますね。

例えば最近「この建築家が設計してくれますよ」的な住宅供給スタイルが話題になっていますが、ああいったものは一時的な現象じゃないかと思います。 工務店や住宅メーカーはずっと住宅を作り続けるわけですが、建築家にとって住宅はあまたあるビルディングタイプの一つ、 その後のステップアップの前段階という印象がどうしても拭いきれません。 別にそれが悪いことではないけれど、建築家によるそのような不安定な住宅供給と需要の関係を考えると、継続的な市場の現象として回っていくことは難しいと思います。
鈴木 ステップアップと捉えている建築家もいる一方で、地元で住宅を作りつづけている建築家も存在しているでしょう。
小泉 残念ながら、ステップアップしていくことに対してかつてほど「夢」あるいは可能性がなくなったということもあるでしょう。
松村 そうだとすると、ライフスタイルと住宅の関係に今まで関わってきていない人がコミットする機会が増えてくるということですか。


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