ライフスタイル考現行


5.古本屋の主として過ごす時間
中尾:  私自身、ひなた文庫で過ごす時間がとても気に入っています。稲刈りや紅葉が見えたりするので、季節の変化に敏感になったように思います。土足で入れることも関係しているかもしれませんが、古民家の土間のような気軽に立ち寄れるちょっと離れたリビングルームといった感じがしています。ここの場所性なんでしょうね、お客さんとは結構会話が生まれるんですよ。大体はお会計が終わった後ですが、お客さんから様々な話を聞いていると、何かエッセイを読んでいるような気持ちになったりします。
松村:  面白い感覚ですね、駅舎という公共的な場をリビングルームのように感じるというのは。ふと思い出しましたが、社会哲学者のハーバマスは公共性の始まりを住宅のサロンに求めていました。いずれにせよ、共通の目的を持って夫婦で行動に移すというのは、世代的な特徴かもしれません。
中尾:  夫婦間の発言権は均等に持ちたいと意識しています。妻は本に関することを担当して、僕は広報的な内容を担っています。デザインに興味を持っているので、お店のショップカードやイベントのポスターなどを制作していたところ、それがきっかけになって、南阿蘇鉄道に関するイベントのチラシ等のデザインのお仕事を頂くようになりました。自分だけの考えで行動していたら、こうした展開はなかったと思います。
松村:  これからのひなた文庫は、どのように運営する予定でしょうか。
中尾:  この場所は村から借りているので、いつまで利用できるのか分かりませんが、場所が変わったとしても名前は変えずに続けたいと思っています。熊本地震後に本屋を続ける決意を込めて、ツイッターに「生きている限り潰れない本屋」とつぶやいたことがあるんです。それをたまたま『新潮』の編集長が見て下さって、妻がその思いを2016年8月号に書くことになりました。ですから、もう辞められない感じなんですよ。




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