ライフスタイル考現行


4.空き家と住宅市場
岡部:  空き家の活用は、所有に基づいた市場より、占有原理を基盤としたほうが適切に進む可能性がある。つまり、市場の〈外〉に出した方が実質的に使えるのに使えない状態は減る。もちろん色々なコンフリクトがあると思いますが、現行の枠組みをラディカルに変えなくても、所有権を顕在化させず、使い方を工夫していく意味はあると思います。
松村:  空き家のオーナーは稼ぎたいと思っていないので、市場が形成されないんですよね。所有権があって市場が家賃を決めていくという前提は全く変わっていないけれど、実態としてはタダみたいな極端に安い値段で貸されている。所有権はあるけれどその権利が発現してない状態、市場と呼べるかどうか分からない状態が空き家の世界では起きている。そうした状態には、産官ともにあまり関心がない。空き家などのリノベーションを紹介すると、よく聞かれるんですよ。「それって家賃が上がりますか?」って。でも「家賃が安いから起きていることなんです」と言うと、「じゃあ我々とは関係ありませんね」で終わってしまう。

岡部:  産官が関心を示さないということは、空き家を一人前の市場と認めていないということです。だったら、頑張って市場化しなくてもいいんじゃないですかね。安い家賃でも市場に出したら、排他的な利用権を発現させたことになります。それは誰でもアクセスできて、排除されない状態とは違う。
それに空き家の家賃が安いって言うけれど、むしろ高いんじゃないですかね。例えば菊池くんは、空き家バンクから紹介された家を2万円で借りています。東京のワンルームマンションよりも安い家賃で、しかも自由に手を加えられる家が手に入って非常に喜んでいる。でも隣に住んでいるおばさんは、それを聞いて怒っている。「あんなボロ家を使ってもらったら、お金出さなきゃいけないくらいでしょ」って。確かに占有原理に基づけば、適切に管理して占有の質が高い状態を作ってくれているわけですよ。ですから、ボロい家を市場化するんだったら、むしろお金の流れが今とは逆向きになるのかもしれません。



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