ライフスタイル考現行


2.「都心居住」が抱えている問題

終の棲家を決める訳でなくても住む場所を探すことはかなり難しい。仕事の都合などで必然的に決まる事も多いだろうが,サラリーマン世帯で子どもがいる場合は,様々な条件をクリアしないと実際には住めない場所も多い。このことは,ライフスタイルHPの「子育てとライフスタイル」のインタビューを読んでもわかる。都心に新しい高層マンションが建設されるようになって久しいが,この様な子育てファミリー世帯の場合は「通勤に便利だから都心に住もう」という発想にはなかなか至らない様に思う。

一方,独身者や夫婦二人の場合はまだまだかなり気楽に住む場所を選べるだろう。実際,都心のマンション購入者に独身女性が多いことは同じくライフスタイルHPの「マンションの市場動向から見えるライフスタイル」のページを読めば明らかである。しかし,その理由が通勤時間の耐えられない時間の無駄をなくすことや会社帰りの友達を家に呼んで遊ぶことなど,あくまでも個人的な話であって,地域社会との関係性から生まれる話はほとんど見えてこない。もっとも地域社会と関係を持たず気楽に住めることも都心居住の価値の一つであるので非難するつもりはない。しかし,個人の好き勝手な住まい方の集合が豊かな地域社会をつくっていくとは到底思えない。

というのも,私たちが住む日本はこれから先確実に人口が減って行き,そんなに遠くない未来に日本中のあらゆる場所で過疎化の問題が起こりうる可能性が高い。残念ながらその兆候はすでに様々な場所で観察できる。たとえば少子高齢化が進んだ郊外住宅地では空き家や空き店舗が目立つようになってきており,同時に治安に対する不安や利便性の低下も無視できない状況である。今何らかの対策を高じないと手遅れになるかも知れない。

今回ヒアリング調査を行った場所は,大阪の都心部に位置する下町である(個人のプライバシー保護のために地名は伏せておきたいと思う)。都心であるのでオフィスビルやマンションが目につくが長屋も残っておりまだまだ人が多く住んでいる。しかし,一昔前なら路地で子どもが遊んでいたような風景の場所も,現在は昼間もひっそりとして寂しい。既存の商店街は不景気であることも関係あるだろうが,誰の目にも危機的状況である。



※写真は下町のイメージです。本文とは関係がありません。

大正のはじめから商売を営まれている喫茶店の3代目オーナーはこう話してくれた。「いつ潰れるか分からない。この辺で古いところは今まで頑張ってやられていたけどもうこの通りがダメ・・・(中略)・・・前からだけど年寄りが多い。もう若い子がこの辺に住み着かない。たとえば息子がいてもみんな他のところに行く。結局若い子が少なくなったから発展しない。これからも発展する様子はない。あと,一人暮らしが多いからこの辺も悪くなってきた。この辺は治安がいいところだった。それがワンルームマンションが増えたからどうにも悪くなってきた」。この話は単なるオーナーの主観的意見であって,そう悲観的になる必要はないかもしれない。しかし,都心居住が現実に抱えている問題の一つであることは確かである。



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