[講演] 超高齢社会の住まい

- 住宅相談から見えてくること -

NPO法人 高齢社会の住まいをつくる会 理事長 吉田紗栄子

(1)NPO法人高齢社会の住まいをつくる会(以下、高住会)とは?

 高住会は2001年(平成13年)、介護保険法が施行の翌年に設立された団体です。 設立の目的は全国のバリアフリーの専門家が集まって、現場から声を上げることで、社会的な貢献も進めて行こうということでした。 当時はバリアフリーの専門家が各地にいましたが、今はバリアフリーのことを考えて設計する人が増えた一方で、専門家が少なくなってきました。 高齢になっても、障がいがあっても住み続けられる家づくりを進めるために、2004年(平成16年)にNPO法人となりました。

(2)ハウスメーカーの高齢者対応

 住宅相談は40年近く行ってきました。 住宅相談に見える方は、大きく二通りに分けられます。1つは、家を建てたいがどんなところに配慮すればずっと住んでいられる家を建てられるかについて相談にこられる方々、 もう1つは実際に車椅子生活者になられたとか、片麻痺になられたといった切実な問題から相談に来られる方々です。 家族構成は、昔とは異なり、両親が80代で子どもが50代ということも普通になっています。 住宅相談での私の立場は、私が設計しますと申し出るものではありませんが、今まで設計したところをキャンセルした上で、どうしても私に設計して欲しいということで、お引き受けするケースが多いですね。
住宅相談は大体1時間で、30分で話を聞いて、あとの30分でどうしたらいいかをアドバイスするということが一般的です。 そして、あえて辛口で言わせていただきますが、その最初の30分の間にハウスメーカーが描かれたプランを見て、首をかしげることがあります。
 ハウスメーカーの皆さんは日本の住文化をつくってこられ、強力な影響力をもっておられます。しかし、ハウスメーカーに何回設計図を書いてもらっても、どうも納得いかない、不安であるということで住宅相談に来られる方が多くおられます。 私が相談を伺っていて想像するのですが、ハウスメーカーの会社のシステムが、営業の方がインテークでお話を聞いて、それを設計者に渡し、設計者が建築工事担当に渡し、建築工事が終わったら外構工事に渡しというように、 担当者がぷつんぷつんと切れてしまっているのではないでしょうか。しかし、バリアフリーは家の中のことだけ考えてもだめで、家から外の出入りを外構においてしっかり考えておくことが必要です。
これまで相談に来られた方の例ですが、ハウスメーカーが5回設計図を書き直したものを見ても、あまり代わり映えしないものになっていました。 相談者に「なぜ私のところに相談に来たのですか」と尋ねると、どうもこれでは納得いかない、例えば外気に面するスペースがこれだけあるのに、キッチンが外気に触れないプランになっているところが嫌だというお話でした。 「そういうことを設計者に相談されましたか?」と尋ねると、どうも相談はできていないようでした。
 他にも、数社のハウスメーカーに図面を描いてもらったけど、納得いかないという方もいます。どうして住宅建築の専門の方がこういうプランを提案するのか、私も疑問に思うことがあります。 ところが、あるハウスメーカーの方にそのお話をすると、僕でもこんな設計図を描くだろうとのことでした。 クライアントからあれが欲しい、これが欲しいといった要求を全て満たそうとするとこんなプランになるし、クライアントの要求に基づくものだから「これで良し」としますということでした。
 つまり一級建築士でさえ、いい提案を行っていません。“聞き取る力”が不足しているのではないかと、本当に思います。
 ハウスメーカーの皆さんは月に何十件ももっていて、なかなか聞き取りができないということはあるかと思いますが、住まいは人生に大きな力を持っています。 吉村順三氏は「建築家は夫婦を仲良くさせることも離婚させることもできる」という言葉を残しました。非行少年ができやすい家の間取りもあります。 大切な住まいのプランをぱっぱと決めてしまって、大事なところを見落としてしまうのではないかと危惧しています。
私は住居学科を出ていますが、大学の建築学科では住まいのことはあまり教育していないようで、ハウスメーカーに就職した後の教育で、考えていただきたいところです。