2004年度は「高齢者の居住、暮らしの関する最新動向」をテーマに研究会を進めてきました。その最終回として、これまで田園都市沿線で様々な開発を手がけられた東急不動産(株)田苗創基氏を招き、高度成長期→成熟期→少子高齢期の移り変わりの中で、これまで、そしてこれからのシニア層向け住宅事業についてお話しを伺いました。

■主 催 高齢社会研究会
■日 時  平成17年2月24日(木)   18時00分〜20時30分
■会 場 住宅生産団体連合会 会議室
 
1.挨拶
園田眞理子(明治大学)・佐藤克志(日本女子大学)
2.第1部 講演「東急不動産のシニア住宅事業戦略−東急多摩田園都市の市場分析及び事例紹介−」
  講師 田苗創基氏  東急不動産(株)
3.第2部 座談会
  司会進行 佐藤克志(日本女子大学)
  メンバー 高齢社会研究会
    住宅生産団体連合会会員企業メンバー
 
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◆はじめに
 

東急多摩田園都市におけるまちづくりは2003年に50周年を迎えた。 
  50周年を迎えるにあたり、郊外の住宅街は、郊外からの都心回帰、地価の下落なと、転換期を迎えていた。そのような背景を受け、これからの半世紀、郊外住宅街はどのようになっていったら良いのか、また、それに対して東急グループがどのようなマネージメントを行っていくべきなのかをテーマとして調査研究を実施し、ビジネスモデルを検討してきた。それから3−4年経過し、具体的な事業として展開されてきたものもあるので、今日はそれらを基にして、仮説と実態評価に焦点をあてて話を進める。

◆東急多摩田園都市の概要
(1)地域概要
 
 ○計画区域人口:約54万人
 ○計画区域面積:約50.000ha
 ○都心距離帯 :15〜35km圏
(2)開発経緯
 


計画期(1953〜1959)

計画当初は長津田から中央林間までのエリアは含まれておらず、現在の港北ニュータウンの南部エリアが含まれていた。また、現在は交通体系として鉄道を主としているが、計画当初は鉄道と高速道路(東急ターンパイク:渋谷から箱根までを結ぶ高速道路として計画されていた)の両者による街づくりが考えられていた。当初計画と現状の相違は日本道路公団の設立、首都圏整備法の公布(グリーンベルト構想)など様々な社会環境の変化が深く係わっていた。


開拓期(1960〜1972):

当時はまだ馴染みの薄かった区画整理という手法を使って行われた。これは一民間企業が単独で事業を進めるのではなく、地元の方々との共同歩調による街づくりを実現させるとともに、保留地を一括取得することを条件に事業資金を提供する「業務一括代行方式」を創案し、計画を推進する意気込みと責任を明確したものであった。
1966年に田園都市線が開通。早期の資金回収、沿線人口の誘致が大きな課題であり、都市再生機構や企業の社宅などへの売却を積極的に展開していた。
当時のマスタープランは菊竹清訓が提唱したペアシティプラン(プラザ・ビレッジ・クロスポイントの三つの拠点と、交通・ショッピング・緑のネットワークによる都市づくりを目指したもの)。「プラーザ」「ビレッジ」といった名前はその名残である。


開発ラッシュ期(1973〜1986)

田園都市線は中央林間から渋谷まで直通運転となり半蔵門線と直結。ドラマ『金曜日の妻たちへ』によって多摩田園都市は全国ブランドになるなど、マイホームブームとあいまって活況を呈した時代。マスタープランをペアシティプランからアメニティプランへ変更。宅地分譲が中心であった開発手法から「街並みづくり」をコンセプトとして建売やマンション分譲を中心にマネージメントが行われた。
開発ラッシュが進む一方で、日照をめぐる中高層の建設反対など建築協定問題や学校不足などの問題が起こってくる。 


バブル経済・資産デフレ期(1987〜)


地価の高騰によって住宅供給が抑制された時代。田園都市線の全線開通、区画整理組合の相次ぐ解散など、多摩田園都市は完成期を迎えた。表面的には一つの節目を迎えたが、「次の田園都市へ」ということで東急ケーブルTVを開局したりした時代である。
それ以降、地価下落により区画整理事業が難しくなり、また、不景気・リストラなどを理由に企業に社宅用地として分譲したところが売却されマンション供給ラッシュがおこってくる。
 住宅地開発では土地区画整理事業が終焉を迎え、高齢化、老朽化の時代に入ってくるのがここ10年くらいの状況である。

◆東急多摩田園都市の市場分析
(1)居住者属性(川崎市宮前区、横浜市青葉区)
 
○年齢構成:
30歳代が最も多く、平均年齢は38.5歳。高齢者率も10%強。まだ、高齢化は進行していない街といえる。
○家族構成と住宅形態:
50代を含めて核家族が多い。60代になるとエンプティネスターズが増加し、その割合は戸建てよりマンションの方がその比率が高い

○シニア世代(50〜70歳)の特徴:
4割は現役であり、首都圏の平均と比べるとリタイヤのタイミングが少し遅い。
60代で年収800万を超える人が5割以上おり、高所得者が多いのが特徴である。

(2)住宅ストック状況
 
○住宅ストック:
分譲地は約22,000戸、マンションは約7,000戸。戸建て分譲については1966年〜1979年に供給されたものが多く、新耐震以前のものが多いのが特徴。一方、マンションについては新耐震以降、特に昨今、供給戸数が増加している。

○シニア世代の築年数:
一戸建て 築19.4年、マンション 築16.7年

○居住年数:
新築の建売購入者の従前の居住歴を見ると、持ち家一戸建て16年、持ち家マンション8年、賃貸アパート6年、賃貸マンション4年となっており。住み替えが頻繁に行われている地域と言える。

(3)シニア世代の居住ニーズ
 
○居住志向
永住志向が67.1%、住み替え志向が27.1% となっており、約2/3が永住を希望している。
しかし、戸建て居住者とマンション居住者を比較するとマンション居住者の方が住み替え志向が高い。

○住み替えるとしたら、どのような形態を望むか
戸建て居住者の内、約半数の人が持ち家戸建てか二世代住宅と答えているが、比較的マンションへ住み替えると答えている人が多いのが特徴的である。 シニア住宅への住み替えは約20%強であった。

○住み替えるとしたら、その時期は

戸建に住んでいる人は約10年後、マンションに住んでいる人は約8年後というところがボリュームゾーンとなっている。60代のマンション居住者では「5年位まで」が2/3を占めている。
◆多摩田園都市における事業展開
(1)住宅街の生態系モデル(遺伝子組み換え)
 


 田園都市地域には社宅、官舎が多くあり、多摩田園都市を居住地として選んだのではなく、たまたま社宅があったから多摩田園都市に住み始めた人も多い。また、そのような若年層が定期的に入ってくるという特異な性質をもった地域であった。その人たちが多摩田園都市の良さを感ずると共にコミュニティの維持のために地域内での住み替えを志向し、街が循環してきたと言える。しかし、今現在、社宅・官舎が減少してきており、若年層の流入人口が減少することが1つの課題となっている。
 もう1つの課題として、資産デフレで買い換えがスムースにいかない、少子高齢化・DINKSなどの潮流の中で、必ずしも戸建て住宅を望まない世帯が増加し、マンション→戸建て という住み替えニーズも小さくなってきている。そのような状況にどう対応するか。また局地的に進んでいる高齢化にどう対応するかを考えなければならない時に来ている。
 戸建て住宅に住んでいるシニア層にもう1回住み替えてもらう受け皿をつくること、それが街の生態系の遺伝子組み換えそのものの
考え方である。

 
(2)事例紹介
 


デザイナーズ賃貸マンション
 社宅・官舎の減少による流入人口の減少を補うことも目的に、東急電鉄が事業展開している。魅力的な賃貸住宅をつくることによって、まずは多摩田園都市に住んで見たいと思わせるしかけづくりでもある。

郊外駅近接型大規模マンション
 団塊世代、団塊Jr. 世代をターゲットした郊外駅近マンション。比較的若い世代をターゲットとすることで、高齢化の進展を押さえ、街としての活力を確保することをコンセプトとして事業展開している。

まちなみ形成型建売住宅「ジュネヒルあざみ野」

 一戸建てについては、団塊Jr. 世代を中心に根強いニーズがあることもわかっている。郊外駅からバスでのアクセスとなるが、大規模で良好な街並み形成が可能であり、若い世代に受け入れられている。

リファービッシュ住宅「ア・ラ・イエ」

 築20年程度の比較的規模が大きい中古住宅は市場で流通しづらく、場合によっては敷地分割されてしまう可能性がある。良好な街並みを維持するために、東急電鉄が建物を買い取り、リフォームを行いファミリー世帯の住み替え対応物件として供給する(土地は居住者が仲介で新たな居住者に売却する)といった商品である。

エンプティネスターズ向けマンション
 エンプティネスターズ向けということで、大きなLDを南側に設け、北側に居室を2つ+DENという間取りを提案している。

○その他、プレシニア向け複合商業施設や防犯警備サービスの事業展開もはかっている。

 
◆東急不動産のシニア住宅事業概略
(1)事業概要

 
○グランクレールあざみ野:
  提携介護施設移行保証付終身利用型の健常型のシニア住宅。
  
  価格帯は4000万〜8000万。終身使用権を購入し15年で償還される。
  +500万円でグランケア(介護専用型高齢者住宅)に移れるというスキームになっている。


(グランクレール パンフレット より)

グランケアあざみ野:
  介護専用型高齢者住宅(介護付き有料老人ホーム)で、グランクレールと対をなす形で事業展開をしている。一時入居金は1700万程度。日々の費用は介護保険で対応。


(グランケア パンフレット より)

(2)購入者分析


・健常型のシニア住宅は自分の老後を安心したい施設であり、選ぶのは本人であることが多い。一方、介護専用型高齢者住宅は介護が必要になった高齢者のための施設であり、家族が入れてあげたいと思う施設、すなわち決定権者として入居者の子供をターゲットとしている。

・実際に物件を知ってから契約に至るまでの期間が長いことが特徴的。その理由として、ライフスタイル提案型のものであり、実際を見てみないとと判断がつかない、共同生活をすることになるので、そのコミュニティの雰囲気が自分に合うかどうか判断がつかない、等が考えられる。その結果、開業してから申し込まれる人が多くなっている。このような形態のものは物を見せて、そこでの生活をイメージしてもらうことが重要と感じている。


◆今後の事業戦略

シニア住宅(健常型、介護専用型)に関してはさらに5〜10施設を計画する予定。
シニア住宅を含め、多様な世代に田園都市に住んでもらえるよう多様な受け皿を仕掛けていくこと、新陳代謝のある街づくり、そのようなタウンマネージメントをしていきたいと考えている。
 
  1.グランクレールをシニア住宅と呼ぶ意図とかかる費用は? 
あと、グランクレール比較的駅から遠く、グランケアは駅近の位置関係や立地に戦略はあるのか?
 グランクレールは高齢者住宅財団よりシニア住宅の認定を受けた事業となっていて、終身利用権なのであくまで賃貸となっている。
 立地を分けている狙いは土地が東急の土地ではなく同じ大地主の土地を事業定借で借りているということから結果こういう形となった。グランケアを駅近にしたのは、家族が頻繁に介護にやってくるから。夜遅く、朝早く、会社帰りとか。今までこうした施設は山奥が多かったが、多少高くても駅近の方が良いというニーズからこのような立地とした。
  2.グランクレール(健常型のシニア住宅)とグランケア(介護専用型)を単独で展開することはしないのか? 単独展開しない場合、その理由は?
 介護専用型だけならできるが、シニア住宅のみでは将来的に考えて展開できない。今後も基本的にセットでやっていく。
+500万円のオプション(シニア住宅から介護専用型へ移れる権利)はほぼ全員が利用した。
  3.かなりの金額を払っている事になるが、その金額はどこから?
 持ち家の売却資金が主となっている。
   
  4.月々の支払いは?

 どういう収入があるのかまではわからない。実は、現在の持ち家を貸して収入を得て、その収入でランニングコストを支払うという方法を示したがあまり反応がなかった。

 
 

5.住み替えるかどうか、という居住ニーズで50代〜60代は動きやすい年代というデータがあった。
住み替えのニーズをどう評価するかは難しいが、動きたいと思っているシニア層を捉える時にどう考えているのか?

 住み替えの受け皿としては3つ用意している。2つはグランクレールとグランケア、そしてエンプティネスターズを狙ったマンション。大規模マンションをシニアは望んでいない。
 
子供と住むことは好まず、むしろ少し小振りで同種の人たちの住むマンションを望んでいる。
マンションからマンションに買い換える人たちが実需として多い。耐震性、セキュリティなど、今住み替えれば死ぬまでここで過ごせるだろうと考えているようである。
  一戸建てからマンションという方では、スケルトンインフィル型のスケルトンのまま売れるような形を考えているが、税制的な部分で足踏みしている。その辺を整備していければ可能性はある。人生最後に自分の思うとおりの物をつくりたいというニーズにどう答えていくかが鍵となる。

  6.田園都市線から住み替える人はもっと都心に住みたいと考えているか?
 奥様方は、本当は二子玉に住みたい。だけど高いし、今までのコミュニティも大切にしたい。人気としてはたまプラーザ、あざみ野。男性の方が都心回帰したい。
  7.田苗さん自体は宮前区出身だが、親子の関係と居住地選択も含めて、団塊世代と団塊ジュニアそれぞれの世代の居住ニーズとしてはどうか?また1世代ではなく世代を連関させて考えた時どんな結びつきになるのか?
 田園都市は、規制として二世帯住宅が建てられない地域が多い。しかし、近居の割合は高い。両世代共に住みやすい、近居しやすい環境なのだなと思う。沿線からは離れなくても、その場にずっと住んでいるという人は少ない。息子や娘は意外に戻ってきて、親は動いていたりする。
  8.沿線によるキャラクターの違いはあるのか? 東横線沿いには二世帯が多く、土着性が強いように感じる。田園都市線には感じないのだが?
 確かに、東横沿線は変わった街と言える。一番最初の田園都市であり、既に3世代目が住んでいるという面もある。
  たまたま地価が高かったり容積率があったり二世帯住宅が建てやすい環境であったりと色々な要素がある。東横線の都心部はそういった理由で住み着いていると推測される。