総 評

住まい・まちづくりの絵本の秀作が今年も沢山寄せられ、私たち審査委員は悩みながら、かつ楽しみながら見せていただきました。
今年の作品の特徴は、次の5点をあげることができます。

第1に、まちのタンケン・ハッケン・ホットケンを通して、緑あふれる、人の笑いにひたされた住まいとまちを構想する想像力 の冒険過程が表現されていること。『のらりとくらり』には、見る者を引きこむ物語的展開が、全体的美しさと細部に驚きの宿るヴィジュアル表現を通して見事に示されています。

 第2に、日常の暮らしの現場としてのテーブル上でのやりとり、多様なコトのあらわれが、シンプルなわかりやすい表現として 描かれていること。『ぼくの家の大きな白いテーブル』には、ひとりで、そして家族みんなで使う時のリズム感と変化が生き生き と表されています。

第3に、常識をはるかにこえる子どもならではの自由な発想にもとづく暮らしの物語展開が、心愉しい絵とフリーハンドの動き のある文字によって示されていること。『ぼくのおなかの中』は、人間の良質なセンスとしてのユーモアやおかしさが、画面と文 章の両面ににじんでおり、わくわくドキドキの感覚にみちあふれています。

第4に、子育てしやすいまちとは、人々が赤ちゃんの視点に立って自らの心の扉をあけていく過程をさすこと。『まちのとびら』には、赤ちゃんが私とまちの間をつなぎとめてくれる開かれた発想とふるまいが、和らいだ絵とわかりやすい文によって表現されています。

第5に、身近なところに生命みちる環境があることへの讃歌が、『ぼくらのおうち』『まめくんのぼうけん』『四季のあるステキ ハウス』に誠にユニークに表されています。

以上のように、創造的な住まい・まちの絵本表現には、中味づくりのキーワードとして、想像力の冒険、自由な発想、日常生活 のリズム感、ユーモア、心の扉をあける、生命みちる環境、わくわくドキドキ感等があげられます。それらの表現手法面でのキーワードとしては、全体的美しさと細部に驚きの仕掛け、シンプルかつわかりやすさ、心愉しい動き、大胆さと緻密さ等があげられます。
来年も今年の成果を生かしたさらに感動を呼ぶ創作絵本に出会えることを期待しています。

2010 年 秋
第6 回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
愛知産業大学大学院造形学研究科 教授 延藤 安弘


審査委員 応募総数 : 921 作品
小澤 紀美子 (東京学芸大学 名誉教授 東海大学 教授) 子どもの部 417 作品
町田 万里子 (手作り絵本研究家) 中学生・高校生の部 369 作品
大道 博敏 (文京区立駒本小学校 主幹教論) 大人の部 38 作品
勝田 映子 (筑波大学附属小学校 教諭) 合作の部 97 作品
越海 興一 (前国土交通省住宅局 木造住宅振興室長)    
山品 一清 (住宅金融支援機構 CS推進部長)
佐々木 宏 (住宅生産団体連合会 専務理事)

国土交通大臣賞 受賞作品

のらり と くらり
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のらり と くらり

森生 徳 ― 東京都 ―
講評:
「のらり」と「くらり」の2匹のネコが住まいとまちのタンケンに。意表をつくタンケン・ハッケン・ホットケンの連続の後に木々と笑いにみちたまちになる展開に、みる者を引きつけてやまない各頁の驚くべき緻密で美しいビジュアル表現。貼絵の絶妙な構成に深い共感をおぼえる。

文部科学大臣奨励賞 受賞作品

ぼくの家の大きな白いテーブル
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ぼくの家の大きな白いテーブル

緑川 秋平ハリソン ― いわき市立中央台東小学校6年生(福島県) ―
講評:
家の中の大きなテーブルは、家族みんなの日々の暮らしの現場。そこに展開されるひと時・ふるまいがテーブル上にリアルに迫ってくる。ひとりで使う時、みんなで使う時のリズム感と変化を見事に表現しているテーブルを通しての住み方絵本。絵本ならではの見開きページの活かし方が心に響く。

住宅金融支援機構理事長賞 受賞作品

ぼくのおなかの中
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ぼくのおなかの中

山内 里菜 ― 神戸市立東垂水小学校2年生(兵庫県) ―
山内 晃生 ― 同5年生 ―
講評:
意表をつく物語の面白い展開。夜の間に、家のものたちの自由なすごし方・出来事を、兄と妹で自由奔放につづり描きこんでいく流れの中に、吸いこまれるように魅せられる。真夜中の事件に際して「号外・家の中」も発行され「ひっしのそうさく」が行われる等、おかしさ・ユーモアという人間的良質なセンスがにじんでいる。物語と絵の両面におけるオリジナリティにみちた傑作。

住生活月間中央イベント実行委員会委員長賞 受賞作品

まめくんのぼうけん
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子供の部

まめくんのぼうけん

中村 匠 ― 昭和幼稚園年長(佐賀県) ―
講評:
絵も文も5歳の旬(しゅん)が息づいている。冒頭の一行「あるだいどころのすみで、おやさいたちがでばんをまっていました」は、まるで映画のファーストシーンのように物語の展開を予感させる。まめの冒険のストーリーも素晴しい。構図の細部のユニークさ、線と面のバランス、色使いの楽しさ、そしてひらがな文字の1字1字に味わいとか几帳面さ・・・と、絵本全体が共感の世界に人々を誘っていく。
四季のあるステキハウス
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中学生・高校生の部

四季のあるステキハウス

松尾 康平 ― 倉敷高校2年生(岡山県) ―
講評:
春の桜の驚嘆にみちた生命への讃歌。夏の水辺での風を感じる涼やかさ。 等々、日本の四季の恵みと巡りの魅力を、しっかりとした構図の中にダ イナミックに描ききっている。季節感の変化へのセンスが失せつつある 今、それへの感受性の大切さをいとおしむように表している。
まちのとびら
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大人の部

まちのとびら

本間 章子 ― 神奈川県 ―
講評:
閉じられたまちの扉。赤ちゃんが私とまちの「まわり」をつなぎとめて くれる。“まちのとびら”がひとたび開けられると、私はまわりの人々や 出来事と、まことに自然につながっていく。子育てしやすいまちに向け ての私の想いと社会全体の願いが、実にシンプルな物語とやさしい絵に よって表されている。
ぼくらのおうち
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合作の部

ぼくらのおうち

大野 かりん ― 西尾市立西野町小学校2年生(愛知県) ―
大野 楓 ― 西野町保育園年長 ― 
大野 さくら ― 同年少 ― 
大野 りんご、 大野 誠 、 大野 伸子
講評:
1歳から7歳までの4人のこどもと両親が、家の内・外の生き物たちとの出会いに より、6人、1わ、2ひき、1ぴき、1000ひき・・・・と多くの虫たちとの連 鎖の中で、暮らしをいとなんでいる。「ぼくのうちはみんなのうちだね」と結ばれ る微笑ましいコラボレーション。「このか・ もうちのかぞくなの??」「かとりがからっ ぽ」の落ちもいい。生きとし生けるものみんなつながる家族の住み方・生き方に喝采。

子どもの部

お花畑になあれ
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お花畑になあれ

斉田 果歩 ― 横浜市立梅林小学校6年生(神奈川県) ― 
講評:
ページをめくる毎に場面が明るくなっていくような気がします。温もり のあるストーリーが絵を引き立てているからでしょう。家の庭を舞台に 命のつながりを感じさせる作品になりました。
わたしのたからもの えがおタワー
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わたしのたからもの えがおタワー

品田 琴子 ― 小千谷市立片貝小学校2年生(新潟県) ― 
講評:
自分の大好きなものばかりあつめたらやはりえがおになるでしょう。と ても上手に絵の具を使いながらも、細かい技法にとらわれることなく、 思いきり筆を走らせている様子がうかがえます。
やさしいともだち
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やさしいともだち

菊地 柚希 ― 草加市立清門小学校1年生(埼玉県) ― 
講評:
家の中の畳や壁をこすりだしの技法を用いて、絵の中にうまく生かして います。主人公のリンゴちゃんがびっくりして青リンゴになるなどお話 もおもしろく書かれています。絵の雰囲気もお話も題名どおりやさしさ にあふれています。
やさしいともだち
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おいしいサラダ

徳原 れい ― 府中市立府中第十小学校1年生(東京都) ― 
講評:
大きな森に住んでいる動物達。おなかがすいたので、それぞれ家を少し ずつ出し合っておいしいサラダを作ることになりました。あらいぐまさ んはじゃがいも。うさぎさんはにんじん。・・・・。迫力のあるのびのび とした絵。元気あふれる1年生の作品です。
夜の通学路
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夜の通学路

伊藤 雪乃 ― 横浜市立矢部小学校6年生(神奈川県) ― 
講評:
無駄のない美しい線、夜と昼の対比、詩のように語られる言葉。どの要 素もとても完成度の高い、美しい絵本に仕上がっています。

絵本を読む

白い町

倉知 志舞 ― 名古屋市立ほのか小学校6年生(愛知県) ― 
講評:
美しい線で描かれたイラストと色えんぴつの色づかいが、少しの切なさ と相まって素晴しい作品になっています。絵、お話どちらも高いレベル で仕上げられています。
こんな家が夢なんだ
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こんな家が夢なんだ

本橋 珠里 ― 入間市立扇小学校3年生(埼玉県) ― 
講評:
クレヨンのよさを生かしてのびのびと描かれています。食べても食べてもなくならないお菓子や、水道の蛇口から狭山茶が出てきたり、大好きなおじいちゃんが住んでいる鳥取県まで連れて行ってくれる雲など、子どもらしい夢と思いにあふれた作品です。

中学生・高校生の部

かみさまのなるき
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かみさまのなるき

鈴木 絵里香 ― 静岡県立浜松工業高等学校2年生(静岡県) ― 
講評:
雲の上に住んでいた神様は、ある日足を踏みはずして小さな町の大きな 木の上に落ちてしまいます。実は、じっと見ていたのには訳があったの です。大きな木をめぐる神様と子どもたちのやりとりのスケールの大き さと、パステル色のやさしい絵が魅力的な作品です。
タロのおさんぽ
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タロのおさんぽ

豊島 紗都美 ― 愛知県立吉良高等学校2年生(愛知県) ― 
講評:
5歳のひいくんは犬のタロのおさんぽをママに頼まれます。初めてのひ とりでのおさんぽ。ところが・・・・・。水彩の淡い色合いで描かれる 美しい情景とひいくんやタロの豊かで愛らしい表情が心に残る作品です。
トボトルくんの大冒険
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トボトルくんの大冒険

佐藤 佳蓮 ― 松島町立松島中学校3年生(宮城県) ― 
講評:
主人公のエコくんが友達のトボトルくんと一緒に、ペットボトルのリサ イクルの旅をたどるお話です。1ページから順番に○の付いた文字を並べると・・・。リサイクルの循環のことやその大切さを親しみやすく伝 えてくれる作品です。

大人の部

なにをまってる?
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なにをまってる?

松本 美寿々 ― 神奈川県 ― 
講評:
「待つ」ことって「素敵」という感動を描いている絵本です。親ツバメを 待つヒナ鳥、春を待つクマ、仲間を待つハチ、ごちそうを待つクモ、ヒ ヨコを待つメンドリ、「ただいま」の声を待つケイタイメール。シンプル な描き方にも現代人の忘れているほのぼの、ゆったりした大切な気持を 伝えてくれる絵本です。
〜どんなおうちに住みたいか〜
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〜どんなおうちに住みたいか〜
ご意見ちょうだい会

藤井 典代 ― 東京都 ― 
講評:
柿の木住宅主催の住まいへの希望をうかがうストーリー。意見を述べるのはネコ、アヒル、 リスなど。肩もみしてくれたり、まくらをとってくれるロボットのある住まい、自動的に 時間で動くらくちんな住まい、みんなが入れる大きなお風呂のある住まい、学校のような 住まいなどなど、参加者の皆さんの意見はマチマチ。実際に子どもたちにインタビューし て創っており、住まいや暮らし方には多様な考え方があることを示してくれる絵本です。
ママのひみつのへや
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ママのひみつのへや

安 希庭 ― 京都府 ― 
講評:
“ひみつ”という言葉はイメージをふくらませてくれる。ママには一人ですごすへやがあって、一 人息子がそのへやに入ることを許してくれない。いつもかぎをかけてしまう。ある日、息子が学 校から帰るとママは不在。こっそりとドアを開けてみるとカギがかかっていない。納戸のように いろいろなモノが置かれているへやに一脚のハシゴが天井の穴にかけられている。息をひそめて 登ってみると、何とそこにはファンタジーの世界が。ママの描いた絵が夢の世界を創っていた。
きみのいえ、ぼくのいえ
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きみのいえ、ぼくのいえ

岩脇 薫 ― 北海道 ― 
講評:
いつもイエを背おっているヤドカリがネズミと出会いイエを交換します。ネズミの木のイエは広くて いろんなモノがあり、ヤドカリは気持ちよく眠りにつきます。ネズミはヤドカリのイエの中で浜辺で たくさんの星の輝きの下で眠りにつきます。でも、ヤドカリは海辺でネズミは森の中で試練に出会い、 やっと各々のイエに戻り、我が家が一番良いことを実感します。誰でも「隣の芝生」は良く見えるけ れど、長年かけて創りあげた住まいと暮らしのカタチには妥当性があるという物語です。
月の家
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月の家

東海林 紘 ― 福島県 ― 
講評:
ある日、月のまちに住むウサキチの家から、ニョキニョキと家が生えて きました!立体絵本の中から飛び出してくる家は迫力いっぱいです。鮮 やかな色彩とくっきりした絵が立体絵本を引き立てています。ストーリー の温かさも心に残る作品です。
ハナちゃんの大きな木のおへや
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ハナちゃんの大きな木のおへや

東田 優 ― 長野県 ― 
講評:
兄ちゃんのヘヤはとてもりっぱですてきなヘヤなのに、ハナちゃんのヘヤは押入の下の段。ハナちゃんは自分のヘヤをさがす旅に出かけます。みのむしのヘヤでは今のと同じ大きさ、古いクツではくさい。大きなジャムのビンではあつすぎるし、なかなかいいヘヤは見つかりません。とうとう大きな木の穴を見つけました。早速リフォームを開始。マドを開け、ネズミに手伝ってもらって材料を集め、しばり方をクモに教えてもらい、とてもりっぱですてきな木のヘヤができました。でも夜になると、木のヘヤは真っ暗。外では風や葉っぱの音がウナリ声をたてています。がまんできずハナちゃんは木のヘヤをとび出し、大きな我が家の前に。小さな女の子のヘヤさがしの夢のお話ですが、住まいの温もりの大切さに気づき、温もりのあるタッチで描かれた絵本です。

合作の部

ぼくのうちにあそびにきてね
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ぼくのうちにあそびにきてね

廣世 紫 ― 富山県 ― 
廣世 真麻 ―城南もなみ学園年長― 
廣世 凌真
講評:
引越してきたひとりぼっちのライオンくん。近所の動物たちと友だちになりたくて、あの手、この手。シンプルでユーモラスなお母さんの絵と子どもの作った押し花や背景のクレヨンのなぐり書きが調和して、明るく楽しいお話の世界を創出している。親子の会話や笑い声が聞こえてきそうな作品である。
おうちでかくれんぼ
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おうちでかくれんぼ

石川 茉弥 ― 武蔵野大学4年生(東京都) ― 
一澤 綾香 ― 武蔵野大学4年生(東京都) ― 
講評:
完成度の高い「住まいのしかけ絵本」で、ページをめくりながら玄関やトイレ、お風呂やキッチンと、住空間を巡っていく。隠れているのを見つけられた動物たちを確かめながら読み進めることができ、絵本での遊びを通して住まいへの関心を深めることができるだろう。
かえるのおうちたんけん
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かえるのおうちたんけん

芳賀 環 ― 品川区立第一日野幼稚園年長(東京都) ― 
芳賀 美奈子
講評:
お母さんと5歳のたまきちゃんの合作です。かえるくんはみんなのお家がうらやましくてたまりません。でも実際にお家に入ってみると・・・。 さまざまなお家のそこここに布や銀紙を貼った温かい絵がすてきです。かえるくんといっしょに探検しているうちに、大切なことは何かを気づ かせてくれる作品です。
虫くんのミラクルな1日
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虫くんのミラクルな1日

澤田 幸子 ― 東京都 ― 
沖本 礼子
講評:
何より大胆な色と筆づかい、動きのある構図、力強い絵に魅了される。森に住む虫くんの時空を超えた不思議な体験旅行。終わりに「おなかが すいた」と「ぼくの森」「ぼくの家」に帰る虫くんと、「おかえり!」と迎える家族の笑顔があたたかい。