総 評
「家やまちの絵本」コンクールは、2005 年に第1 回が開催され、コロナ禍でも中断することなく毎年実施され続け、今回で20 回目となります。審査委員長は、これまで長年に渡り尽力された小澤紀美子先生から仲綾子に引き継ぎましたが、審査の方針は一貫しています。つまり、家やまちに対する作者の想いや愛着が伝わってくる作品であること、その想いを皆で共有したくなるような展開であることなどを大まかな基準としながら、基本的には応募作品を一つひとつじっくりと読ませていただき、審査委員全員でていねいに意見をかわして選びました。
4つの部門(子どもの部、中学生・高校生の部、大人の部、子どもと大人の合作の部)での受賞作品を通して大切なことをすくいあげますと、以下の通りです。
1つめは、さまざまな視点に立ったみずみずしい発想の絵本は、この世界の多様さや豊かさを改めて教えてくれるということです。虫や動物は定番ですが、妖怪や鬼やカビまで登場しました。人間中心主義という視点では捉えられない世界が見事に表現されています。国土交通大臣賞の作品は、ちょうちょに着目することで、一見ありふれているように見える団地が、みどり豊かで人々の思いやりに満ちた環境であることに気づかせてくれました。
2つめは、絵の力です。あたりまえのようですが、魅力的な絵はシンプルに人を惹きつけます。今回、生成AI を利用したと思われる作品も見られましたが、現段階では、手描きの作品に圧倒的な魅力がありました。また、工夫を凝らした精緻な加工の飛び出す絵本は、多くの時間と労力がかけられたことがうかがわれ、その姿勢に頭が下がるばかりです。審査委員一同、ページをめくり、しかけを動かすたびに驚きの声を上げていました。
3つめは、今の状況を捉えた作品には強いメッセージがあります。能登半島地震をテーマとした作品はその典型といえます。地球環境問題に関する作品もその一端を捉えているといえるでしょう。振り返ると、東日本大震災やコロナ渦では、そのときどきの状況を捉えた作品がありました。「家やまちの絵本」コンクールが社会状況を反映するものとなっており、私たちは絵本を通してこの経験をずっと忘れずにいることができます。
最後に、本コンクールには複数回受賞している常連作者がいます。大人の部に多いですが、今回、中学生・高校生の部の受賞者は4年前に子どもの部で受賞されました。作品を並べて拝見すると、着実に成長していることがわかります。このような場面に立ち会えるのも、本コンクールが継続して開催されているおかげです。来年も素晴らしい作品に出会えることを、審査委員一同、心よりお待ちしています。
2024年10月
第20回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
東洋大学 教授 仲 綾子
審査委員 | 応募総数 : 743作品 | ||
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仲 綾子 | (東洋大学 福祉社会デザイン学部 人間環境デザイン学科 教授) |
子どもの部 | 237 作品 |
志村 優子 | (まちづくりプランナー) | 中学生・高校生の部 | 851 作品 |
北方 美穂 | (出版社 編集) | 大人の部 | 23 作品 |
鮫島 良一 | (鶴見大学短期大学部 保育科 准教授) | 合作の部 | 36 作品 |
志村 直愛 | (東北芸術工科大学 芸術学部 歴史遺産学科 教授) |
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小澤 紀美子 | (東京学芸大学 名誉教授) | ||
中澤 篤志 | (国土交通省 住宅局 住宅生産課 木造住宅振興室長) |
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相原 康生 | (住宅金融支援機構 マンション ・まちづくり支援部 技術統括室長) |
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松尾 知香 | (都市再生機構 総務部 広報室長) | ||
平松 幹朗 | (住宅生産団体連合会 専務理事) | ||
審査協力 | |||
槇 英子 | (淑徳大学 総合福祉学部 教授) |
どこに にげるの? |
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柳田 夏穂 ―兵庫教育大学附属小学校2年(兵庫県)― | |
講評: 防災をテーマにした仕掛け絵本です。台風・地震・津波・洪水の順に「こんな時どうする」が描かれ、仕掛けを使うことで、そのことを体験しているように感じることが出来ます。仕掛けの動きもページ毎に異なり、少しずつ大胆になるように工夫されていて、とっても感心しました。絵もとってもチャーミング! |
こおにの ツノは どこですか? |
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今西 真琴 ―川崎市立東小倉小学校5年(神奈川県)― | |
講評: てつろう君の家族が家でくつろいでいるところに、次々“こおに”が訪れます。どうやら てつろう君とこおに達は今日の昼間に家でかくれんぼをしていたらしい。それから家のあちこちで こおに達のツノ探しが始まります。こおに達とてつろうファミリーの間でおこるファンタジーをお楽しみ下さい。 |
あるくと みえること |
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小野 茉咲 ―東大阪市立石切小学校1年(大阪府)― | |
講評: 丸いフレームが印象的な美しい絵本です。この丸は作者の視線の焦点であり、読者の視線を引き込み、ぐっと世界に入りこませます。今日はどこに出かけようか、何と出会うか、歩こうか、かけようか、作者と一緒に街歩きをしているかのようです。 |
みどり は ともだち |
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村垣 壮亮 ―市川市立妙典小学校4年(千葉県)― | |
講評: 子ども達が毎日遊ぶ公園の中の魅力的な自然が細やかに描かれていて、ページをめくるたびにその美しさを再認識することができます。ある日その公園がリニューアル工事となることから、子ども達はより深く草や虫の声に耳をすまし、大人達にかけあいます。こども参画のまちづくりが始まる素敵な絵本です。 |
星の街 |
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小林 椛 ―芳賀町立芳賀中学校2年(栃木県)― | |
講評: 自分の住む町についての作文が宿題だったのでしょうか。町を探検すると、町の灯りには、その数だけ人がいて、その数だけ夢があることに気づくシーンの描き方がファンタジーに満ちています。水彩と色鉛筆を巧みに組み合わせているところもすばらしく、自分も町に輝く一つの星のような存在であることに気づく終わり方もホッとさせられます。 |
ぼくは ポスト |
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八代 環 ―松戸市立第一中学校3年(千葉県)― | |
講評: 利用者が減って撤去されそうになったまちのポストを救うべく、たくさんの人が手紙を書き始めるお話。擬人化されたポストは、みんなが手紙を書いてくれるようになって涙を流して喜び、撤去は見直されることに……。まちに立っているポストは、スマートフォンとは違う方法で、人と人をつないでくれていたんですね。 |
音戸おおはしくん |
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福本 展大 ―広島県立呉宮原高等学校1年(広島県)― | |
講評: たくさんの良いところがある呉市。誰が一番かを競ってけんかが始まります。「いちばんなんてきめられないよ」と真っ赤になって怒る音戸おおはしくん。音戸おおはしくんの擬人化にも呉のスターたちの擬人化にも成功した楽しい絵本ができました。表紙を裏表で1枚の大きな絵にして、音戸おおはしを描いた点も高評価です。 |
海、街 |
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大久保 瑠南 ―福島県立福島西高等学校1年(福島県)― | |
講評: 「ぼくの街、海が無いし何も楽しくないもん」と言うそうたに、おじさんは周りをよく見て散歩することを提案します。おじさんとの釣りのシーンは、見開きでおじさんの大きな手や優しくておおらかな笑顔が、画面いっぱいに、そうたの喜びを表現しています。浮かない顔で話すそうたが、自分の街の魅力に目を輝かす表情に説得力があります。 |