総 評

今年も「家やまちの絵本」コンクールに力作がタクサン沢山よせられました。私たち審査委員はいっぱい触発されながら話し合いの中から受賞作品を選びました。作品選考を通して「家やまちの絵本」づくりにとって大切なことは色々あることがわかりましたが、主なもの5点をあげて今後に備えたい。

本コンクールは「合作」部門があることが特徴です。その意義がいっそう鮮明となりました。幼い子どもはユニークな発想を毎日生み出す存在であり、周りの大人がそれを引き出し表現する支援者になることにより、子どもの自由なキモチが独創的なカタチにつながります。親と子の合作が、1+1=2ではなく、3にも10にもなることを「協働」といいますが、「合作」が「協働」になるための親の視点や姿勢が大切です。

2つめは、ハード(家やまちの空間面)とソフト(人のふるまいや生活面)をセットにして考え表現することで、何のための住まいづくりか、何のためのまちづくりかが明らかになることです。例えば木の家の組み立てをお菓子でかつポップアップ(開けると立ち上がる)として表現することで、何ともいえない遊び心を通して肝心なことが伝わってきます。

3つめは、ハード・ソフトだけでなくハート(心のはたらき)が加わる時、住まい・まちづくりとは、ヒト・モノ・コトの生き生きとした関係づくりであることがにじみ出してきます。なにげないあいさつや言葉のキャッチボールが、人と人の間に安心感を分かちあえるまちを育んでいきます。

4つめは、以上のような内容的に大切にしたいことをビジュアルに表すにあたり、多様で個性的な表現手法にこだわることです。
足型・手形や指紋でオバケの面白いキャラクターを表したり、ボールペンの線のみで構図も細部もリズミカルに表したり、等々。

5つめは、協働の育み方、ハード・ソフト・ハートのつながり、こだわりの表現手法を活かし、さらに地域において全世代参加、障がい者も健常者も多様な営み・活動に参加しながら、個人のライフヒストリーも地域の歴史も語り表現する「コミュニティ物語絵本」の可能性が示されたことです。

子ども・大人の単独、親子の協働、地域ぐるみの協働等による「家やまちの絵本」づくりが、これまでの経験・蓄積を生かし、さらに年々成長発展していくことを願っています。

来年も意表をつく驚きと感動を覚える「家やまちの絵本」にいっぱい出会えますように。

2015年 秋
第11回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
NPO法人まちの縁側育くみ隊 代表理事 延藤 安弘


審査委員 応募総数 : 1,331作品
小澤 紀美子 (東京学芸大学 名誉教授) 子どもの部 262 作品
町田 万里子 (手作り絵本研究家) 中学生・高校生の部 897 作品
大道 博敏 (江東区立越中島小学校 主幹教諭) 大人の部 29 作品
勝田 映子 (帝京大学教育学部初等教育学科 准教授) 合作の部 143 作品
北方 美穂 (あそびをせんとや生まれけむ研究会 代表)    
澁谷 浩一 (国土交通省住宅局 木造住宅振興室長)
小澤 敏成 (住宅金融支援機構 CS推進部長)
西本 和久 (都市再生機構 広報室長)
小田 広昭 (住宅生産団体連合会 専務理事)

国土交通大臣賞 受賞作品


絵本を読む

おばけのようちえん

立道 駿斗 ―れいんぼー幼稚園年長(福岡県)―
立道 都
講評:
おばけとあそぶ夢を通して、子どもの暮し方・住まい方がユニークに進行する。おばけの形は、親子の足型・手型、指紋が独特の文様を示し、面白おかしいキャラクター表現。5才の幼稚園児と母親が絶妙なコラボレーション。子どもの発想を引き出しているお母さんの役割はスゴイ。親と子の合作が、1+1=2ではなく、3にも10にもなる時、生涯心に焼きつく記憶となり、世界で1冊の傑作絵本が生まれる。

文部科学大臣奨励賞 受賞作品


絵本を読む

大きな声で

小林 真子 ―市川市立新井小学校5年(千葉県)―
講評:
大きな声であいさつすると、人と人の間柄はなめらかになる。毎朝の見守り隊のおじいちゃんが病気で寝込んでいる時も、元気にジャンケンしながら大声であいさつをしていたことを記憶している。刷り込まれた体験が子どもの中で生きている。日常、地域で子どもにしっかりとコミュニケーションをとる「社会的おじさん」の存在の大きさを、教科書っぽくなく絵本ならではのユーモアと笑いを添えて表現している。


絵本を読む

コトバのキャッチボール

丸尾 佳保 ―太子町立太子西中学校3年(兵庫県)―
講評:
言葉によって自分の心を開き、言葉のかけ方によって相手の心の窓は開かれる。
言葉のかけ合い、やりとり、コミュニケーション如何が、人と人、人とまちの間に笑いを引き起こす。笑いは人間を内面からやさしい気持ちでお互いをつつみこみあう。「なにげない言葉のキャッチボール」が力まず交わされる暮らし・まちを育もうのメッセージがシンプルに流れる。

住宅金融支援機構理事長賞 受賞作品


絵本を読む

おうちのたね

菅原 奈津子 (大阪府)
講評:
ボールペンの線のみで、輪郭も面的拡がりもふくらみも表現する独特の手法で、住まいが色々に育つ過程をリズミカルに描く秀作。「ぴゅーん」「ぽとん」等の擬態語が瞬間の動きを強調している。小さなおうちが大きな集まり住みあう家に成長していく過程が、ページをくるたびに意表をつく表現で読む者・見る者を引きつけていく完成度が高い。今後の作品が楽しみ。

都市再生機構理事長賞 受賞作品


絵本を読む

モエちゃんの おかしの おうち

安藤 邦雄 (岐阜県)
講評:
生活の楽しさと家づくりの面白さを見事にマッチングさせた力作。ページをあける度に、美しく立ち上がる住まいの骨組も屋根も扉もみんなお菓子にたとえられているワクワク感。「木造軸組構法」を「お菓子」でつくるオカしさ。起こし絵、ポップアップの精度の高さもスゴイ。

住生活月間中央イベント実行委員会委員長賞 受賞作品


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子供の部

おしろ

大澤 愛美 ―東京都立葛飾野高等学校3年(東京都)―
講評:
物語の流れを、絵の軽快さによって引っぱり、絵の心地よさが物語とマッチしている。絵と言葉の組合わせという絵本特性を生かしている。内にこもっていたのに、見開き頁を生かした表現により、外なる多様なまちとの出会いへの志と効果が滲みでている。

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合作の部

野辺地のめじゃーず

岡野 麻奈 ―青森県立野辺地高等学校3年(青森県)―
原田 遥 西堀 杏子 熊沢 千尋 浅野 奏
講評:
「わたしたちのまちはおいしーネ」のメッセージが印象的な地産地消を主題にした絵本としてユニーク。野菜たちのキャラクター化が楽しさ遊び心いっぱいで引きつけられる。それぞれの野菜や海産物の健康に効く理由もさりげなく記されていて、知識絵本と物語絵本の統合作品としても評価できる。

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合作の部

太田さんと家とまち

太田 利三 (静岡県)
狩野見 飛雅 石野 結希 光内 理沙 久保田 啓介
嶋崎 和馬  竹川 理羽 宮川 くらら 金指 晴椛 池田 里帆
鈴木 涼  加藤 愛波 重森 明歩 久保田 昊樹 上杉 春香
竹川 海璃 宮宅 うらら
講評:
子どもの頃から障がいをもつ高齢者が戦後70年を果敢に生きぬいてきた生活史を見事に描いた子ども・主婦16人との創造的合作。戦争体験、縁台夕涼み、商店街の成長、生涯記憶に残る先生との出会い、等々のリアルな感動の生活物語は圧巻。チェアウォーカーとしてまちと子どもと出会いの日々をおくってきた多彩なヒト・モノ・コトとの関係が、子どもの心のハーモニーとして表現されている。これからの夢を明るく描くことによって、この作品は未完であることを示唆している。人とまちのかかわりの歴史をこれ程の厚みと深さと感動をもって描かれた大作絵本は、日本はもちろん世界でもめずらしい。

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合作の部

すずめのおうち

荒 旬之輔 ―尾山台ナザレン幼稚園年中(東京都)―
荒 晴子
講評:
染めた和紙のちぎり絵効果が見る者を引きつける。ほほえましい物語内容も含めて、4才の男の子と母親のコラボレーション・合作ならではの出来栄え。いろいろな色合い・模様の和紙の組合せのコラージュ表現がみずみずしい。

子どもの部


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わたしの家と町

上田 海未 ―清須市立新川小学校5年(愛知県)―
講評:
自分の暮らす町を淡々と表現しています。しかし、一ページ毎に構図や構成に工夫を凝らし、一冊の本としてとてもまとまりのある作品になっています。日常生活のシンプルな紹介が、逆に奇をてらわない素直な表現として好感がもてました。

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ふしぎな家

香りん ―青葉区立榎が丘小学校3年(神奈川県)―
講評:
一ページ、一ページが色えんぴつで丹念に描かれ、なおかつ、全てのページがポップアップになるなど工夫の宝庫のような力作です。ストーリーも表題の通りなかなか不思議な展開で大人の私もついつい引き込まれてしまいました。色えんぴつの塗り重ねの美しさも相まって素晴らしい一冊になりました。

絵本を読む

おうちにおいで

中川 一輝 ―滋賀大学教育学部附属幼稚園年長(滋賀県)―
講評:
山の木が減ってえさの樹液が足りないと嘆くカブトムシや外国産の大きな魚が怖いと逃げてくる魚たち。最後は動物園が無くなるというゾウまで来る始末。みんな一緒に住めるおうちを作ってみんなにおいで、という子どもの発想こそすべての命をたいせつにする持続可能な社会を切り開くように感じます。

絵本を読む

ひととき

砂金 諒 ―江東区立明治小学校4年(東京都)―
講評:
言葉が無く絵のみの表現にもかかわらず、とても豊かな物語として成立しています。一ページ毎に表される人物の表現や仕草もユーモアに溢れ楽しい一冊になりました。また、ページ毎の構図や構成、描画材の選択、大胆さと繊細さ等随所にセンスが光ります。

絵本を読む

あさがおのたんけん

森下 かの ―関西大学初等部1年(大阪府)―
講評:
いつもは、家の玄関の外で育てられている鉢植えの朝顔。台風が来て倒されてしまったらかわいそうだから、とお父さんが玄関の中へ入れました。ここから広がったのであろう作者の空想の世界。ピョーンと植木鉢を飛び出した朝顔は花と茎と葉っぱという単純なボディですが、表情豊かに表現されています。

中学生・高校生の部


絵本を読む

赤髪の少女

菊地 恵奈 ―沼津市立沼津高等学校3年(静岡県)―
講評:
髪の色が赤いためにつまはじきにされる少女。いじめに耐えられなくなり走って森の奥まで逃げていく場面の構図もよく考えられていて、感情も木々の緑を遣ってよく表現されています。全体の展開もよく考えられていて重いテーマにきちんと取り組んだ作品です。

絵本を読む

とこちゃんのプチぼうけん

梶田 愛莉 ―愛知県立一宮高等学校3年(愛知県)―
講評:
主人公のとこちゃんが畑で野菜をとって帰って来るまでの短いお話しの中にちょっとした自然の営みが何気なく紹介されています。小さい子どももこの絵本をよむと虫のことや野菜のことを知ることができるでしょう。全ての漢字にルビが打たれているのは、そのことを意識しての事だと思われます。読みやすい文字と美しい描画の線、サラリとしたセンスのよさも感じられます。

絵本を読む

竹林マンション

宮尾 澪香 ―下関短期大学付属高等学校3年(山口県)―
講評:
透明水彩絵具を効果的に使い、美しい画面を作り出しています。また、吹き出し内の文字を誇張する等、細部にも工夫が見られます。配色や文字の配置もさることながらストーリーにも夢があり、完成度の高い作品です。しかし、何と言っても色彩の美しさに心ひかれました。

絵本を読む

ツバメと家

佐々木 明日香 ―太子町立太子西中学校3年(兵庫県)―
講評:
ツバメの巣作りから環境問題に目を向ける作者の視点の確かさは、未来のまちづくりにきっと生かされるでしょう。最後のページに大きく描いたツバメの目は、まっすぐ未来を見ているようです。それは、人間にもツバメにも優しい家に住むという夢を実現しようとする作者の澄んだ瞳でもあります。

絵本を読む

がんばれ こうちゃん

三木 咲良 ―太子町立太子西中学校3年(兵庫県)―
講評:
トイレトレーニングに悩んでいるいとことおばさんの姿を目の前にしている作者。
だからこそ描けるリアルな表現が評価されました。はり絵という手法を選ぶことでトイレのイラストも楽しく見せることに成功しています。バックがすべて白地の展開も好感が持てます。

大人の部


絵本を読む

満月の日はぼくの家

秋谷 正夫 (千葉県)
講評:
古くから、子どもから大人まで三日月や満月をみていろんなことをイメージしてきています。この絵本は意表をつく発想の物語です。山がみえる家に引越ししてきたぼくが三日月と仲良くなり、雨の日や山に沈んで月の姿がみえない日にあえない寂しさをファンタジーの世界に引きこんでいきます。満月になると太りすぎてお風呂に入れないから君の家にとめてという月の願いを受け入れ、一緒のお布団で一緒に話をしたり、寝るという幸せを感じている男の子の気持ちは月の満ち欠けをロマンチックに表現している物語は忙しさに追われている大人へ夜空の月や星を眺めてご覧なさいという小さなメッセージといえます。

絵本を読む

月に恋した太陽

渡辺 昭子 (東京都)
講評:
地球の成り立ちと地球上の生き物の誕生をファンタステイックな物語としている作品です。難しい地球と太陽、月の関係性を的確にかつ夢のある作品として表現されていて幼児期のお子さんにもお母さん、お父さんからお話して、ご一緒に生命の不思議に迫っていって欲しい物語です。

絵本を読む

かなへびねえさん

三島 由美 (愛知県)
講評:
表題から住まいやまちの絵本なのと疑問符がつきますが、著者の方の経験から編み出された物語でしょうか。
都会でバリバリ働いていたかなへびが体をこわして亀仙人に「ゆっくりと呼吸すること、自分の体の声をきくことと体操を教わり」、亀仙人のふるさと「じぱんぐ村」でゆっくり丁寧に暮らすために村に入り、いろいろな虫で構成されている村のコミュニテイの人々に各人がもつ能力を活かしながら暮らしていく物語です。
ある意味で近代化が行き過ぎた人間社会を皮肉っている視点がベースにあります。

絵本を読む

いたずらな風の吹く街

恵美 (神奈川県)
講評:
風はすてきな物語を運んできます。子どもの頃のこと、母のこと、母が猫のコウと楽しんでいた夜風のこと、母がこの街の風たちは気まぐれだけどとても素敵と言っていた母の言葉を。猫のコウと街をぬける風が織りなす素敵な物語を色鉛筆画で繊細かつ広がりを表現したファンタジックな絵本です。風の動きの表現から音も聞こえてきたり、夜から朝にかけての光や明るさの表現からも素敵なイメージを膨らませることのできる物語です。

絵本を読む

このいえだれのいえ

塩見 尚路 (静岡県)
講評:
表紙をひらくと、まず、ボクの家が飛び出す。次は誰の家かなとページをあけるのが楽しみになる飛び出す絵本です。ポチの家、さかなさんの家、ありさんの家、とりさんの家と続く。アリさんの家は地面の下に、とりさんの家は木の上に、紙を上手に使って精巧に組み立ててあり、最後はまちの中の緑も含めて「まち」が皆の誰かの家であることを表現した温もりのある絵本となっています。
合作の部

絵本を読む

ぼくは まちの えほんやさん

住吉 諒 ―三好市立池田小学校2年(徳島県)―
住吉 直子 ―池田幼稚園年少―
講評:
本当にあったお話しということで、住んでいるまちに一つの本屋が閉店してしまうという悲しい出だしです。
でも、ぼくと妹とお母さんは、本のリサイクルイベントに応募することにし、赤ちゃんのときによく読んだ本をきれいにふいて、値段を考え、お店に出します。初めてのお客さんが来て買ってくれたときの緊張感と安堵感。お客さんとやりとりする楽しさが満面の笑顔に描かれています。そして、ますます本に興味を持つようになった「ぼく」の願いは、「絵本をつくりたーい!」に変わります。

絵本を読む

どんなおうちにすんでるの?

永井 奏音 ―大里東幼稚園年少(静岡県)―
永井 志穂 永井 詩花
講評:
だんご虫、ちょう、アリ、バッタ、セミにクワガタ、それにヘビも。身近な生き物のおうちの想像の翼を広げ、4才と1才の子どもたちとお母さんが作りあげた作品は、顔を寄せ合って描いている光景が目に浮かぶようです。クレヨンや絵の具、色紙や折り紙を組み合わせた大胆な表現は色彩豊かで。楽しさあふれ、目をうばわれます。子どもたちは、ますます生き物に興味をもつようになるでしょう。

絵本を読む

すてきな おうち

大岡 陽麻里 ―幼稚園年少(神奈川県)―
大岡 早苗
講評:
三角のお家に住んでいるのは?まるいお家に住んでいるのは?4才のひまりちゃんのシンプルな絵で描かれるすてきなお家。まずは、すてきなかたちとその住まい手に目をとめてみましょう。ブルーノ・ムナーリの絵本を思い起こすようなトレーシングぺーパーの使い方も魅力的で「頁をめくる楽しみ」という絵本の個性を上手に生かしています。

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ちゅうたとつみきのいえ

澤邉 勇太 ―いづみ幼稚園年中(千葉県)―
澤邉 貴子
講評:
すっきりとのびやかな線とシンプルな積み木の形が見事に調和して表現されている。ねずみのちゅうたの、ちょっぴりあぶない冒険物語です。
リズミカルで心地よい文章、ユーモラスで美しい絵。5才の勇太くんが楽しみながら描いたであろう愉快な絵も、ページのところどころに登場し、読み手の遊び心を誘います。

絵本を読む

カドヤ食堂の四季

星野 英俊 (神奈川県)
青山 恵子
講評:
なつきのおじいちゃんが始めたカドヤ食堂はドリーム一番街にあります。行列のできる人気のお店ですが、ドリーム街の衰退の中で、周囲のお店とのかかわりも難しい問題です。とうとうお店は休業することに。ところが「やめないで」「町のほこりです。つづけてください!」町の人の声に励まされ再び店を開くことになりました。町を元気にするのは、やはり人であることが示唆され、元気をたくさんもらえる作品です。