まちなみとトイレその1 トイレは適切に配置されている?

1 はじめに

 公共トイレは、屋外での活動中に利用される重要な基盤インフラです。近年は渋谷区の「THE TOKYO TOILET」のように意匠を凝らした公共トイレも多く、高齢化の進行に対応してバリアフリー化・多機能化も進んでいます。まちに点在する公共空間として、公共トイレ誰にとっても使いやすいように計画的に整備される必要があります。
 一方で大半の公共トイレは常に雨風に晒されているため老朽化の進行が早く、3K「汚い・臭い・暗い」という言葉に代表されるように、積極的には使いがたいものも多いです。さらに、各トイレの設備内容については環境省が作成した技術指針が存在する一方で、地域全体の配置計画については一般的なマニュアルが存在しません。「使いたいときに限って近くで公共トイレが見つからない…」という経験が皆さんにもあるのではないでしょうか?
 今回は板橋区が管理する公共トイレを対象に、外観・設備・位置に関する悉皆調査を行いました。この調査データをもとに、どのような公共トイレが存在するか、人々からの需要と比較してどの場所で公共トイレが不足しているかという二点を分析します。

2 公共トイレの類型化

 公共トイレは、公園内に存在する公園トイレ・歩道上や駅前広場に存在する公衆トイレの二つに大きく分かれます。ここでは二つを合わせた上で、設備内容をもとにクラスター分析によってABCの3種類に分類し、外観をもとにさらに5種類に分類しました。

A1 男女共用ボックス型

 男女共用の和式トイレが一つ設置された電話ボックスのような小さなトイレで、児童遊園などの小さな公園に存在します。手洗い場がトイレ内部になく公園内の水飲み場で代用しなくてはならない場合もあります。

A2 男女共用直方体型

 主に男性用小便器と男女共用トイレが一つずつ設置されたトイレです。二つの便器と手洗い場が直列しドアはない開放型のトイレや、ステンレス製のトイレが多く、特に前者の開放型トイレでは、植栽やアートを組み合わせて外観への工夫がされたものもあります。


B1 男女独立小規模型

 男性用と女性用が分かれたトイレで、主に中規模・大規模の公園に存在します。外観は様々で、タイル製のトイレや、町内会館などの建物に付随したトイレもあります。バリアフリー設備が充実した「誰でもトイレ」が併設された比較的新しいものが多いです。


B2 男女独立大規模型

 男性用と女性用が分かれ便器数も3個以上ある大規模なトイレで、主に都立公園などの大規模な公園に存在します。大半が小屋のような建物で、倉庫や詰所などの複合機能を有しています。

C 特殊型

 男性用と女性用が分かれ、主に主要駅の駅前や公共施設の近くに存在します。外部からの視線や景観との調和に配慮した設計がなされた場合が多いです。

 トイレの配置を見ると、区全体で満遍なく分布しており、局所的にトイレが不足した場所はありません。一方で「はじめに」でも述べたように全てのトイレが利用しやすいとは言えません。
 男女独立型や特殊型のトイレは男女のトイレが分かれており、手洗い場や鏡もあり、清掃回数も多く保存状態が比較的良好です。一方で男女共用型のトイレは、便器数も少なく、清掃回数は主に週に4回でゴミが散らばっていることもあり、バリアフリー設備も不足し利用に抵抗を感じるものも多いです。そこで男女独立型・特殊型を質の高いトイレとし、需要と配置の比較分析を行います。

図1 公共トイレの配置図

3 需要と実際の配置の比較

 公共トイレの利用には、公園で長時間活動しているときにその公園のトイレを利用する場合と、移動中に最寄りのトイレを利用する場合の2パターンが存在すると考えられます。ここでは前者を近接需要、後者をフロー需要と名づけ、各トイレについて需要数を推計します。
 近接需要は公園トイレに限定し各公園の誘致圏人口に基づく公園利用者数、フロー需要は疑似人流データ用いたコンビニトイレも考慮したシミュレーションによりそれぞれ推計しました。ただし、移動時にはコンビニのトイレも利用可能と考えられるため、フロー需要はコンビニトイレも考慮しました。


図2 近接需要の分布

 図1と図2を見比べると、近接需要が大きいトイレと男女独立型トイレはおおよそ一致しています。これは都市公園の規模に応じて計画的にトイレが設計されていることによると考えられます。
 ただし、赤塚植物園や郷土資料館が含まれる赤塚溜池公園、中央図書館跡地の常盤台公園のような別の公共施設が含まれる公園トイレでは、近接需要は小さいですが、質の高いトイレが立地しています。このような場所ではトイレの改修に対する優先度合いを下げても良いかもしれません。


図3 フロー需要の分布

 図1と図3を見比べると、フロー需要は幹線道路沿い(特に国道17号線)と商店や公共施設が多い南東部で大きい傾向があります。一方で図1と比較すると、それらの場所では質の高いトイレは多くありません。したがって今後の改修・新規設置計画においては、幹線道路沿いや南東部において男女独立型のトイレを増やしていく必要があると考えられます。

4 まとめ

本記事では公共トイレの分類と配置分析を行いました。分析の結果、板橋区では公共トイレは大きく5種類に分かれ、さらに幹線道路沿いや商店が多いエリアで利用しやすい男女独立型のトイレが不足していることがわかりました。今回は自治体が管理する公共トイレに限定して分析を行いましたが、今後鉄道駅のトイレや商業施設のトイレを対象にした分析も検討しています。

5 参考文献

・国土交通省、平成26年度都市公園利用実態調査報告書、最終閲覧日2022.03.19 https://www.mlit.go.jp/common/001115452.pdf
・東京都、公園別マネジメントプラン、最終閲覧日2022.03.19 https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/park/tokyo_kouen/kbetumanagementplan/index.html
・株式会社ナイトレイ、東京大学CSISとの研究活動成果としてSNS解析データを元とした「疑似人流データ」を無料公開、最終閲覧日2022.03.19 https://nightley.jp/archives/1954/
・板橋区、令和元年板橋区の統計
・国土交通省、国土数値情報ダウンロードサービス

文責:塩崎洸 杉浦完征
写真撮影:塩崎洸