まちなみと名称 その6~タワーマンションの名称における地名の滲み出しとその傾向~

1.はじめに

都市において、住まいの「建物名」は単なる記号以上の意味を持っています。特に不動産市場においては、 建物名に含まれる地名が持つブランド価値や歴史的イメージが物件の資産価値に直結し得ます。マンションの分譲にあたり、デベロッパーがその名称を決定する際、実際の所在地よりも知名度やステータスの高い近隣の地名や最寄り駅名を採用するケースは珍しくありません。例えば、実際の住所は「〇〇区△△」であっても、名称には隣接するブランドエリアである「××」を冠するといった手法です。こうした命名には一定のルールが存在します。不動産公正取引協議会連合会が定める「不動産の表示に関する公正競争規約」第19条(物件の名称の使用基準)では、物件の名称として使用できる地名の範囲を制限しています。本分析に関わる主要な基準としては、「物件の所在地において慣例として使用されている地名または歴史上の地名がある場合は、その地名を用いることができる」点や、「物件の最寄り駅、停留場又は停留所の名称を用いることができる」点などが挙げられます。

ような現象は、一般的な中低層マンションでも見られますが、より投機的な側面が強く、広域から購入者が集まるタワーマンション(以下、タワマン)においては、さらに顕著に現れるのではないかと考えられます。タワマンは都市のランドマークとしての性質を持ち、その名称自体が強力な記号として機能するため、より一層ブランド価値を重視した地名選択が行われている可能性があります。

本コンテンツでは、東京都23区内に立地するタワマンを対象に、その名称に含まれる地名の分布を分析し、実際の立地地点と名称に含まれる地名の乖離、すなわち「地名の滲出現象」の傾向を明らかにすることを目的とします。大友ら(2007)は、建物に地名を付与するという行為は、建物の立地する地点を当該地名で表現してよいと命名者が判断した結果であり、たとえ行政区域外に立地していたとしても、その名称が用いられることは、その地名に対する人々の認識がそこまで広がっていることを示す指標になると指摘しました。本分析では、この「命名者による認識の広がり」という概念を、小池ら(2019)が定義した「滲出度」(しんしゅつど)という定量的指標を用いて援用し、タワマン特有の地名選択の力学を考察します。

2.分析方法

本分析では、まず東京建物不動産販売株式会社が運営する不動産仲介サイト(https://sumikae.ttfuhan.co.jp)から、東京都23区内に立地する20階建て以上の分譲マンションのデータを抽出しました。取得した426件の物件について、マンション名、所在地(大字・丁目)、分析の基礎データとしました。

マンション名の解析にあたっては、まず形態素解析を実施し、名称に含まれる地名要素の特定を試みました。この際、東京都23区内の全大字名称を網羅した独自の地名辞書を作成し、システムによる自動マッチングを行いました。さらに、「松濤」と「松涛」といった新旧漢字の混用や、「HARUMI」と「晴海」のようなアルファベット表記と漢字表記の対応など、機械的な処理では判別が困難な表記ゆれについては、目視による確認と手作業での修正を加え、精度の向上を図りました。

また、地名の抽出ルールについては、小池ら(2019)の手法を参考に、実態に即した柔軟な判定基準を設けています。具体的には、正式な大字名とマンション名における表記の差異を調整しました。例えば、「代官山町」や「相生町」のように末尾に「町」を伴う地名が、名称内で「町」を省いて使用されている場合でも、当該地名が採用されているものと判定しました。反対に、正式名称が「東陽」や「大井」のように「町」を含まない地名であっても、マンション名において「東陽町」や「大井町」のように末尾に「町」が付加されているケースについては、「町」を除いた部分が大字名と一致していれば、その地名が用いられているものと見なしました。このような処理を行うことで、公的な住所表記と社会的な呼称の乖離を吸収し、より実態に近い地名利用の状況を把握することを目指しました。

本分析では、分析の厳密性を期すため、地名を以下の通り定義し、使い分けます。

まず、狭義の地名として、最小の行政単位である「大字名」(計934名称)を定義します。これは小池ら(2019)が「統計的手法に耐えうる地域数と建物数を十分取得可能な名称」として採用した基準に準拠したものです。

次に、広義の地名として、上記の大字名リストには含まれないものの、建物名称に多用される呼称を「非大字地名」と定義します。これには、「文京」や「中央」といった行政区名(区名)、「曳舟」や「北千住」といった鉄道駅名、および「東京」や「湾岸」といった広域的な地理概念が含まれます。

大佛ら(2004)が「町名(大字名)と駅名を地域名称として考える」とした視点を踏まえ、本コンテンツでは「大字名」を基軸とした定量的な滲出度分析を行い、その補完として「非大字地名」の利用傾向を考察します。

分析の主要な指標として、前述の小池ら(2019)に基づき「滲出度」を算出しました。滲出度とは、ある地名がマンション名に使用されている総数のうち、その地名が指し示す実際の大字の範囲外に立地している物件が占める割合を指します。数式で表すと以下のようになります。

滲出度 =(名称に地名iを含む物件のうち、大字iの外に立地する数)/(名称に地名iを含む物件の総数)

この値が0であれば、その地名を冠するマンションはすべてその大字内に立地していることを意味し、1に近づくほど、その地名が本来の境界を越えて「滲み出している」ことを示します。

3.分析結果

(1)タワーマンションの立地分布と名称の全体傾向

まず、東京都23区におけるタワマンの立地分布を確認します。タワマンは、港区、中央区、江東区の湾岸エリア、および新宿区、豊島区などの副都心エリアに集中しています。特に中央区の勝どき・晴海エリアや江東区の豊洲・有明エリア、港区の芝浦・港南エリアは、大規模な再開発に伴いタワマンが林立する集積地となっています。


図1:23区タワーマンション立地数

これらの物件名称を概観すると、多くの物件で立地する大字名が採用されていますが、一方で広域地名や駅名、さらには抽象的な英語名称のみを冠する物件も散見されます。データセット全体において、名称に何らかの地名(大字名、広域地名、駅名を含む)を含んでいる物件は全体の約8割(全426件中359件)に達しており、マンション命名において地名がいかに重要な要素であるかが裏付けられました。

(2)地名の滲出現象と滲出度の分析

次に、本分析の核心である「滲出度」について詳しく見ていきます(図2:大字別地名滲出度マップ)。この地図は、各大字の名称がどの程度「外側」のマンションに使われているかを示したものです。


図2:大字別地名滲出度

表1:滲出大字名

大字名 大字内立地
タワマン数
大字名を冠する
タワマン数
滲出度
千代田071
月島421
愛宕121
麻布十番121
大塚121
錦糸021
清澄061
東陽021
目黒071
王子031
新宿2120.9167
上野150.8
渋谷250.8
池袋280.75
神楽坂130.6667
赤羽130.6667
飯田橋420.5
銀座120.5
四谷340.5
三軒茶屋120.5
千住220.5
大島550.4
亀戸230.3333
板橋330.3333
金町230.3333
大井340.25
恵比寿340.25
大崎890.2222
三田750.2
白河660.1667
虎ノ門770.1429
白金670.1429

分析の結果、非常に高い滲出度を示すエリアがいくつか特定されました。例えば「千代田」が挙げられます。千代田区千代田(皇居周辺)には当然ながら民間マンションは立地しませんが、近隣の富士見、飯田橋、岩本町などに立地するタワマンが「パークコート千代田富士見ザタワー」や「ウェリスタワー千代田岩本町」のように「千代田」を名称に取り入れています。この場合、行政区名としての「千代田」を冠することで、山手線内側かつ都心中央部という高いステータスを表現していると考えられます。このように滲出度の高い大字名のうち、 「千代田」「新宿」「渋谷」「目黒」「板橋」などは、行政区名(区名)であると同時に、その区内に存在する特定の大字名でもあります。本分析では小池ら(2019)の手法に準じ、これらを最小の行政単位である「大字名」として扱っています。例えば、千代田区富士見に立地する物件が「千代田」を冠する場合、大字としての「千代田(皇居周辺)」から名称が滲出していると判定されます。これらの名称は、大字としての場所性以上に、区名が持つ広域的なブランドイメージを援用するために選択されている可能性が高いと考えられます。一方で、区名にも大字名にも採用されているものの「江戸川」や「足立」といった地名は、本分析の対象としたタワーマンションの名称において、広域的な滲出を示す傾向は見られませんでした。これは、地名から想起される具体的な場所の認知度や、ブランドとしての象徴性の強弱が影響していると考えられます。「新宿」や「渋谷」が特定の拠点(ターミナル駅周辺など)を強く連想させるのに対し、行政区名が広域なエリアを指すに留まる場合、差が生じている可能性が示唆されます。

また、主要な駅名と一致する大字名は滲出度が高くなる傾向があります。大佛ら(2004)が指摘するように、駅名は日常生活において空間的な広がりを指し示す際に多用されるため、駅周辺の都市活動の活発さが地名のブランド力を高め、結果として周辺の大字へと名称が滲出する要因となっていると考えられます。具体的には「王子」や「錦糸(町)」、「東陽(町)」なども高い滲出度を示しています。例えば「王子」について、北区豊島に立地する「パークタワー王子リバーグレイス」などがその典型です。豊島は王子駅から見て隅田川寄りに位置するエリアですが、名称に「王子」を冠することで、JRと地下鉄の乗換駅である王子駅への近接性を強調し、物件のイメージアップを図っていることが伺えます。

一方で、湾岸エリアの「豊洲」や「有明」などは、滲出度が比較的低い傾向にあります。これは、これらのエリアが広大な埋立地であり、大字自体の範囲が広いこと、また「豊洲」や「有明」という地名自体が既にタワマン街としての独自のブランドを確立しており、あえて他の地名を借りる必要性が薄いためと考えられます。

(3)「非大字地名」のランキングと広域ブランド

建物名称に含まれる地名要素のうち、前述の「大字名」リストに該当しない呼称(非大字地名)の出現頻度を分析しました。これらは、特定の大字(町字)の境界に縛られない広域的なブランドイメージとして利用されていると考えられます。

表2:非大字地名出現頻度ランキング(2件以上)

文字列 出現頻度 属性
東京33その他
品川12駅名
青山4その他
曳舟4駅名
品川シーサイド4駅名
大森3駅名
文京3区名
浜離宮2その他
小岩2駅名
高輪台2駅名
石神井公園2駅名
大泉学園2駅名
乃木坂2駅名
中央2区名
二子玉川2駅名
北千住2駅名

ランキング上位には、多様な属性の呼称が含まれています。

第一に、「曳舟」「北千住」「二子玉川」といった駅名です。これらは鉄道の利便性や駅周辺の商業集積を象徴する地名として、行政上の町字境界を越えて広く認識されていることを示しています。

第二に、「文京」や「中央」といった区名です。これらは特定の大字名(例:文京区小石川)を指すのではなく、行政区全体が持つ「文教地区」や「都心」という広域的なブランドイメージを援用するために採用されています。

第三に、「青山」や「浜離宮」といった特定の高級住宅地や名勝を指す言葉です。これらは、実際の立地が大字としての「南青山」や「浜離宮庭園」の外であっても、その近接性や格付けを物件に付加するために戦略的に選択されています。

具体的に見ていくと、最も多く出現したのは「東京」で、33件にのぼりました。具体例としては「ザ・東京タワーズ」(中央区勝どき)や「ブリリアタワー東京」(江東区太平)などがあります。これらは特定の大字のイメージに依存するのではなく、日本の中心である「東京」というマクロな視点での利便性や象徴性を訴求していると言えます。

次いで多かったのが「品川」の12件です。ここで興味深いのは、品川区ではなく港区港南に立地する物件(例:「品川Vタワー」)や、品川区東品川に立地する物件が「品川」を多用している点です。これはJR品川駅の圧倒的な交通利便性と、リニア中央新幹線の始発駅予定地としての将来性が、行政区の境界を越えてブランドとして機能していることを示しています。

また、名称に含まれる地名の表記方法に着目すると、漢字以外の表記(ひらがな、カタカナ、アルファベット)が採用されるケースが見られます。例えば、「センターまちや」(町屋)や「ザ・トヨスタワー」(豊洲)のように、ひらがなやカタカナを用いることで親しみやすさや現代性を演出する事例があります。さらに、「タワーレジデンストーキョー」、「グランヒルズTOKYOイースト」、「HARUMI FLAG」(晴海)のように、国際的な認知度や先進性を意識してアルファベットやカタカナ表記を用いる事例も確認されました。

ただし、地名「東京」が名称に含まれる事例を詳細に見ると、漢字のまま採用されているマンションが 33件中31件と多数を占めており、「TOKYO」や「トーキョー」といった表記は極めて少数に留まっています。このほか、例外的な事例として、月島に立地する「ムーンアイランドタワー」のように、地名の意味(月=Moon、島=Island)を英語に翻訳して冠する、より抽象度の高い命名も行われています。

(4)地名を含まないマンションの分布

一方で、名称に一切の地名を含まないタワマンも一定数存在します。これらは「ワールドシティタワーズ」(港区港南)や「グローバルフロントタワー」(港区芝浦)のように、英語の一般名詞を組み合わせた名称を持つことが多いのが特徴です。なお、地図には範囲内に2件以上タワマンが立地している大字のみ描画しています。


図3:地名不使用マンション立地

これらの物件の立地は、港区や江東区の湾岸エリアに多く分布しています。これらのエリアは、かつての工業用地や倉庫街が大規模に再開発された場所であり、既存の地名が持つ歴史的な文脈が希薄であるケースが多いです。

さらに、特定のエリアにタワーマンションが極めて高密度に集積している場合、周辺物件との差別化を図るためにあえて地名を冠さない戦略が取られている可能性も考えられます。表2は、タワーマンションが2棟以上立地する大字のうち、地名不使用マンションの割合が高い地域を抽出したものです

表3:地名不使用マンションが存在する地域(立地2件以上の大字限定)

大字名 立地
マンション数
地名不使用
マンション数
地名不使用
マンション割合
月島441
大橋221
640.6667
下丸子320.6667
南千住630.5
新川210.5
浜松町210.5
北新宿210.5
後楽210.5
北大塚210.5
東雲730.4286
新砂310.3333
南池袋310.3333
荒川310.3333
東日暮里310.3333
板橋310.3333
東大泉310.3333
有明720.2857
東品川720.2857
東池袋720.2857
飯田橋410.25
蒲田410.25
豊洲1330.2308
芝浦920.2222
港南1020.2
大島510.2
東五反田510.2
赤坂710.1429
西五反田710.1429
大崎810.125
晴海910.1111
六本木910.1111
西新宿1310.0769

特に中央区の「月島」や「佃」といったエリアでは、地名不使用の割合が非常に高くなっています。これらの地域は既に「タワマンの街」としてのブランドが確立されており、地名を冠することが必ずしも希少性の担保に繋がらないため、抽象的な名称を用いることで、周辺の類似物件との差別化や独自の世界観の構築を優先していると推察されます。

中央区の月島・佃周辺においては、実際に月島に立地する「ミッドタワーグランド」や「キャピタルゲートプレイス」、「アイマークタワー」、「ムーンアイランドタワー」といった物件は、いずれも名称に「月島」を含んでいません。その一方で、隣接する佃に立地する「ライオンズタワー月島」や「ファミール月島グランスイートタワー」が、本来の所在地ではない「月島」をあえて冠している、一種の逆転現象とも言える実態が観測されました。これは、当該エリアにおいて「月島」という地名が強力なブランドとして周辺へ滲出している一方で、その中心地においては、もはや地名を名乗る必要がないほど場所性が自明のものとなり、むしろ固有のプロジェクト名による差別化が優先されている可能性が示唆されます。

4.おわりに

本コンテンツでは、東京都23区内のタワーマンションを対象に、その名称に含まれる地名の分布と滲出現象を分析しました。

分析を通じて明らかになったのは、タワーマンションの命名が、実際の地理的境界に必ずしも忠実ではない実態です。

第一に、都心中央部や主要ターミナル駅周辺のブランド地名は、周辺の町字へと強く滲み出しており、特に「千代田」や「新宿」「渋谷」といった名称は、実際の立地を越えた広域的なステータスシンボルとして消費されています。

第二に、「東京」や「品川」といった広域的な知名度を持つ言葉が、行政区の枠を超えて強力なブランドとして利用されており、都市のグローバル化や広域ネットワーク化が命名に反映されています。

今後、さらにタワーマンションの開発が進み、都市の風景が更新されていく中で、地名と立地の関係はどのように変化していくのでしょうか。特に、本分析で言及した「周辺物件との差別化」という戦略的命名については、建設年代による変遷を考慮した時系列分析が不可欠です。月島や佃のように開発が長期にわたるエリアでは、供給時期によって命名のトレンドが変化している可能性が高く、立地時期と名称選択の相関を明らかにすることが今後の研究課題となります。デジタル地図やSNSでの言及など、仮想空間における地名の扱われ方も含め、都市のアイデンティティがどのように変容していくのか、今後も多角的な視点からの継続的な観察が求められます。

本分析が、都市計画や不動産学、あるいは都市社会学の視点から、現代の都市における「地名」の役割と、その背後にある社会の力学を再考する一助となれば幸いです。

参考文献

大友佑介・笠原知子・斎藤潮(2007)「自由が丘周辺を対象とした同一地名付建物名称の空間分布に関する研究」日本都市計画学会論文集、第42巻、第3号、pp.61-66.
小池拓紗・貞広幸雄・對間昌宏(2019)「東京都区部における建物名称に用いられる地名の滲出現象」GIS-理論と応用、第27巻、第1号、pp.25-31.
大佛俊泰・小川健一(2004)「建物名称の空間分布からみた地域イメージの魅力度分析」日本建築学会計画系論文集、第576号、pp.101-107.
不動産公正取引協議会連合会「不動産の表示に関する公正競争規約」

文責:小谷木英資