まちなみと名称 その5 コンパクトシティにはどのようなものがあるのか?―自然言語処理を用いた立地適正化計画の類型化―

1.はじめに

近年、コンパクトシティという言葉がよく聞かれます。コンパクトシティは一般的には「市町村の中心部への居住と各種機能の集約により,人口集積が高密度なまち」(内閣府HPより)と定義されます。しかし、コンパクトシティと言っても色々な都市構造が考えられます。例えば富山市は「お団子と串」の都市構造を目指していることで有名です。

2.立地適正化計画とは?

日本では立地適正化計画がコンパクトシティを目指すための計画として位置づけられていて、多くの自治体が計画を策定しています。立地適正化計画では様々なことを定めるのですが、その中に都市機能誘導区域と居住誘導区域というものがあります。都市機能誘導区域は病院やスーパーなどの都市に不可欠な機能を持つ施設を誘導する区域で、居住誘導区域はその名の通り住宅を誘導する区域です。図1にこの2つの区域の指定のイメージを示します。多くの自治体の計画にはどのように都市をコンパクトにしていくかという誘導の方針が示されていて、その方針に沿って先ほど述べた2つの区域を設定しています。では、誘導の方針が似ている自治体は、区域の設定の仕方も似ているのでは?という仮説を立て、それを検証していきます。


図1 居住誘導区域と都市機能誘導区域の設定イメージ(国土交通省資料より)

3.分析方法と用いたデータ

今回は分析に自然言語処理というものを用います。これは、文章をコンピュータによって分析する手法の一つです。立地適正化計画の誘導の方針の部分を自然言語処理を用いて分類します。その分類ごとに実際の都市機能誘導区域と居住誘導区域(以降、都市機能誘導区域と居住誘導区域を総称して「誘導区域」と記す。)の設定に特徴が見られるのかということを確かめます。

対象は関東の立地適正化計画が策定済みの自治体で、表1に示す条件を満たす記載がある計65自治体です。その中で、表1の条件を満たす部分を抜粋して分析を行いました。

さらに、その中で誘導区域を表すポリゴンデータが入手可能であった41自治体に対して、誘導区域の設定に関する分析を行いました。分析の流れは図1のようになっています。

表1 立地適正化計画文書の抜粋条件


図2 分析の流れ

4.自然言語処理を用いた立地適正化計画の分類

自然言語処理といっても様々な分析方法があります。今回はその中でもDoc2Vecという手法を用いました。Doc2Vecは文章に含まれる単語の出現頻度やその語順を考慮して、文章を任意の長さの数ベクトルで表現するという手法です。Doc2Vecを用いて各自治体の文章データを100次元の数ベクトルに変換し、その数ベクトルに対しk-means法を用いたクラスタ分析を行いました。クラスタ数はエルボー法という基準を用いて3としました。

クラスタ分析の結果は表2のようになりました。各クラスタの出現割合が高い単語の上位30個は表3のようになっています。

表2 クラスタ分析の結果

表3 各クラスタの出現割合が高い上位30単語

クラスタ1では、「駅」「中心」「鉄道」という単語の出現割合が高くなっているので、各拠点を鉄道で結び、駅を中心とした市街地を形成することを目指した誘導の方針が多く含まれていると推測し、「駅中心型」名付けました。クラスタ2では、「駅」「鉄道」の出現割合は低い一方で、「ネットワーク」の出現割合が高くなっています。鉄道を用いずに市街地をネットワークで結びつける誘導方針が多く含まれていると推測し、「非鉄道ネットワーク型」と名付けました。クラスタ3では、他のクラスタと比較した際に、「都市」「拠点」「維持」など、クラスタ1やクラスタ2において高頻度で用いられる単語の出現割合が低い。そこで、他の多くの自治体とは異なる独自の誘導方針が多く含まれていると推測し、「特異型」 と名付けました。

各類型と誘導区域設定の関係

誘導区域設定に関する指標は「誘導の強さ」と「誘導の分散度合い」という2つの視点から計4つの指標を用いました。表4にそれぞれの指標の概要を示します。誘導区域の分散度合いの指標に関しては算出方法がわかりにくいので、図2で詳しく説明します。国土数値情報ダウンロードサービスから居住誘導区域・都市機能誘導区域と、市街化区域を表すポリゴンデータを入手、e-Statから2020年の国勢調査の人口のデータを入手し、各指標を計算しました。

その結果、各類型の指標の平均値は表5のようになりました。

表4 誘導区域設定の指標

図3 誘導区域の分散度合いに関する指標の算出方法

表5 各類型の指標の平均値

各類型の考察

・駅中心型

誘導の強さの視点からは、現状、市街化区域内に人口が拡散しているため、居住誘導区域を広く設定した自治体が多いと読み取れます。分散度合いの視点からは、自治体の最大の拠点となる地域に都市機能の大部分を集中させるが,周辺地域にも都市機能を持たせる傾向があると読み取れます。「鉄道」や「駅」という単語の出現割合が高いことから, 駅が最大の拠点となっている可能性が高いと思われます。

・非鉄道ネットワーク型

誘導の強さの視点では、居住誘導区域設定比率の平均が駅中心型より低くなっています。市街化区域内でも比較的集約した人口分布になっていて、居住誘導区域を狭く設定している傾向があると考えられます。分散度合いの視点からは、多核分散型の都市構造を目指す傾向があると読み取れます。

・特異型

誘導が強く、都市機能が分散していると指標からは読み取ることができ、一極集中の傾向を持つと考えられます。しかし、誘導区域のデータが入手可能だった自治体は4自治体のみであり、必ずしも一極集中型の都市構造を持つとは言い切れません。

6 各類型の立地的特徴

類型ごとに立地にも特徴が見られました。駅中心型は東京近郊の自治体や栃木県の宇都宮線沿線、茨城県の常磐線沿線など比較的鉄道利便性が良い自治体が多くなっています。一方、クラスタ2は鉄道沿線でも、幹線ではない路線沿いの自治体が多くなっています。人口にも特徴が見られました。駅中心型は人口密度20人/ha 以上の自治体のほとんどが属し、人口密度が高い傾向にあります。一方、非鉄道ネットワーク型は10 人/ha 未満の自治体が約7 割を占めています。これらをまとめると、中心市街地をもつ駅中心型の自治体は、駅の周辺に比較的高密な市街地が形成されるため、自治体全体としても人口密度が高い一方で、鉄道が中心ではない非鉄道ネットワーク型は低密な市街地が広がっていると考えられます。


図4 各類型の地理的分布


図5 各類型の人口密度(人口データは2020年国勢調査より)

7 まとめ

今回の分析では立地適正化計画の誘導の方針を自然言語処理とクラスタ分析を用いて分類し、分類ごとに都市機能誘導区域と居住誘導区域の設定に関して特徴があるのか確認しました。その結果、「駅中心型」「非鉄道ネットワーク型」「特殊型」の3つに分かれ、それぞれの型に対応する区域設定を行っていることがわかりました。誘導の方針や区域の設定に当たっては自治体の立地や現在の都市構造、人口分布などが影響している可能性が示唆されます。

今後はより多くの自治体を対象に分析を行うことや、個々の自治体にフォーカスして実際にどのような背景で誘導の方針を決定し、区域を設定しているのかを確かめていくことが求められます。

◆出典

[1] 各自治体の立地適正化計画文書(各自治体のwebサイトから入手)
[2] 国土数値情報ダウンロードサービス
https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/
[3]e-Stat 政府統計の総合窓口
https://www.e-stat.go.jp/

◆参考文献

[1] 国土交通省都市局都市計画課(2020),「立地適正化計画作成の手引き」,最終閲覧日2023.01.11
https://www.mlit.go.jp/toshi/city_plan/content/001379331.pdf
[2] 国土交通省都市局都市計画課(2020), 「都市計画運用指針における立地適正化計画に係る概要」, 最終閲覧日2023.01.15
https://www.mlit.go.jp/common/001148083.pdf
[3]佐々木邦明,丸石浩一(2011),「テキストマイニングを用いたワークショップの討議内容の特徴把握と可視化に関する研究」,都市計画論文集, Vol. 46, No. 3, pp. 1039–1044.
[4]塚井誠人,椎野創介(2016),「討議録に対するトピックモデルの適用」,土木学会論文集, Vol. 72,No. 5,pp. 341-352.
[5]崔廷敏,浅見泰司(2004),「言語統計分析による住宅建設五箇年計画及び答申の特性分析」,日本建築学会計画系論文集, Vol. 579, pp. 89–96.
[5]西井成志, 真鍋陸太郎, 村山顕人(2019),「立地適正化計画における居住誘導区域設定の考え方とその背景―市街化区域に対する居住誘導区域の面積比率が対照的な自治体の比較を通じて―」,都市計画論文集, Vol. 54, No. 3, pp. 532–538.
[5] 川邉晃大, 渡辺俊(2018),「多核性に関する指標を用いた都市圏中心核の形態分析-人口減少時代を迎えるわが国の都市圏の形態変化に関する研究(その1)-」,日本建築学会計画系論文集, Vol 83, No. 743, pp. 137–144.

文責:塩崎洸・鳥井原遼・成澤拓実