琉球文化が息づく街「沖縄県北中城村大城地区」

◆北中城村とは、大城地区とは

北中城村は、沖縄県県庁所在地の那覇市から見て北東に位置する人口1.6万人の村で、那覇空港から車で約40分の場所にある。 村の多くが丘陵地であるため、村内の内陸部にいても場所によっては、青く澄み渡った太平洋・東シナ海や、中城湾を臨むこともできる。一方、西部には米軍施設が広く占めている。ただ、2015年4月に、その米軍施設近くにあった米軍専用ゴルフ場の跡地に、県内最大の商業施設となるイオンモール沖縄ライカムが開業し、現在はそれに伴い、マンション開発等の跡地開発が進んでいる。 私たちが今回訪れたところは北中城村南部に位置する大城地区だ。大城地区は人口370人ほどの小さな集落だが、世界遺産の中城城跡や国指定重要文化財の中村家住宅等、観光スポットに恵まれた地域である。大城地区では地域活性化に対して関心を寄せている地元住民が多い。例えば景観美化活動を実践する目的に活動している「大城花咲爺会」という、全国的には珍しい中高齢男性のみで構成されている団体がある。このレポートでは北中城村大城地区の街並みを紹介したい。


図1:北中城村位置図
国土交通省国土政策局「国土数値情報(平成28年沖縄県行政区域データ)」をもとに筆者が編集・加工

◆散策
◆生活を支えてきたカー(湧水)

”カー”は、沖縄で湧水や家庭内の汲上式の井戸の総称である。昔は、生活を支える水をカーから得ていたそうだ。現在実際に使用されているカーは少ないものの、大城地区では文化財としてカーを多く残している。水を供給するものとしての役目を終えたカーは現在、水辺空間として街の景観維持に貢献している。写真1はアカリヌカーの余剰水を貯留して造られたため池であり、現在水辺空間として活用されている。


写真1:大城地区にあるため池。アガリヌカーはため池より少し高いところにある。

◆街の所々にあるシーサー達

大城の街なかには多くのシーサーが様々なところに飾られている。よくよく見ると、シーサーの顔に同じものはない。これはシーサーが数名の陶芸家から寄贈されたものや地域住民手作りのものであるためである。シーサーの顔は作成者の顔に似ると言われているらしい。街なかの手作りシーサーからは作成者の本気さや茶目っ気を感じられ、微笑ましく感じるとともに、大城地区の活気を感じる。


写真2:ブロック塀に飾られたシーサー達

◆沖縄料理屋さーふーふー

さーふーふーは大城地区にある沖縄料理屋であり、昼時は沖縄そばの店として、夜は居酒屋として営業している。さーふーふーは美味しい料理やお酒はもちろんだが、沖縄料理屋としての空間が非常に魅力的である。店内には甕(カメ)や琉球ガラスの食器が置かれており、夜になるとそれを実際に使用して泡盛を飲むことができる。今や泡盛は東京の普通の居酒屋でも飲むことができるが、ここでは泡盛を五感で味わえる。


写真3:さーふーふー店内を飾る琉球ガラス等(実際に使用可能)

◆大城地区の街の魅力

北中城村大城地区で数日間を過ごした後、集落に対する全体的な感想は、「琉球が息づく街」だ。大城の魅力を街並みと地元住民の二つに分けて説明したい。。
まず、大城地区の街並みの魅力は、現在でも集落全体に”琉球らしさ”が根付いて、それを体感できるところだ。観光名所の中村家住宅で、伝統的な琉球の建築様式を見ることができ、面白さを感じたのはもちろん、それに加えて私は、周囲の街並みが中村家住宅と一体となって形成されているところから、集落全体に対するちぐはぐさ・違和感を覚えずに文化体験できたことが大きな魅力に感じた。


写真4:手作りシーサーと統一感のある綺麗な街路

観光客の立場から見ると、文化が根付いていて、活気がある街は妄想も楽しい。訪れた時点では、世界遺産の中城城跡と大城の街と距離があり、二つをつなぐ道は一般的なアクセス道路という印象しかなかったが、おそらく次訪れるときには、なにかが変わっているはずだろうと思わせる。
次に、大城の人びとの魅力である。それは住民がコミュニティを愛しているところだ。
今回の調査では、大城の事務局の方や役場の職員の皆さん、地元の花咲爺会の皆さん、地元の青年会の皆さん等、お酌を交わす機会があり、非常に多くの方に歓迎してくれてありがたかった。正直今回は東京からの大勢の来客ということでこのように出迎えてくれたと思うが、地元の多くの人がすぐに集まれるところに東京では感じられないコミュニティの良さを感じた。
「ここでは、皆が支えあって生きている。」
コミュニティのつながりの強さから感じることができる大城地区の住民の幸福感は、首都圏に住んでいる者に、普段の生活がいかに人間味のない寂しいものかを考えさせられるものである。このつながりの強さもまた、琉球文化の一つであると思うし、大城地区の魅力であると思う。
今回私たちは大城地区の民泊を利用した。民泊は地元の人々とコミュニケーションを取ることのできる一つのツールとしてお勧めしたい。

(文責:増田広樹)

追記:研究会有志が、大城地区のカー(井泉)に着目した分析を行い、その成果が都市計画報告(都市計画学会)に掲載されました。ぜひご覧ください。PDF