建物の屋根勾配が互いに同じであることは,軒高や壁面位置が等しいことよりも街並みの調和に影響を与えると考えられる.
写真6のように,屋根勾配が互いに同じであれば,建物の軒高や壁面位置が互いに異なっていても調和のとれた街並みであると考えられる.
逆に,建物の軒高や壁面位置が互いに等しくても,屋根勾配が異なれば調和のとれた街並みであるとは言い難いのではないだろうか.
また,奈良井宿に存在する建物の屋根勾配は10分の3である.
この勾配の妥当性を示す根拠の一つとして,背景の山の傾斜との調和が挙げられる.
山の斜面のように,既存の変化させられないものに合わせることは,調和や一体感を高めるための常套手段である.
◆まちなみの調和と画一化
以上,街並みに調和や一体感を与える3つ要素を挙げたものの,これらの要素をもつ街並みの評価が高いかどうかは議論の余地がある.
調和や一体感を追及しすぎる弊害として,街並みの画一化を招く恐れがある.
建物の色彩は2色で互いに同じ材質とし,軒高,壁面位置,そして屋根勾配は互いに全て等しい街並みを人工的につくった場合,このような街並みは高い評価を得られるだろうか.
おそらく,画一的であるという評価がなされるであろう.
ここで強調したいことは,色彩にしても軒高,壁面位置,そして屋根勾配にしても,「ばらつき」が必要であるということである.
「ばらつき」とは,建物の色彩の配置や軒高,壁面位置を互いに全て等しくするのではなく,変化を与えることである.
例えば,奈良井宿に存在する建物の軒高は建築時期によって若干異なる.その違いを表1に示す.
表1:建築時期の違いによる軒高の違い(1
建築時期 | 軒高 |
江戸末期から明治末頃 | 3.6mから4.3m |
大正から戦前 | 5mから5.7m |
戦後 | 6m以上 |
建築時期ごとの軒高の最小値と最大値の平均は,江戸末期から明治末頃の場合4m,大正から戦前の場合5.4mである.
戦後の場合は軒高の最大値が不明なので平均を算出していない.
このように,古くからある建物の軒高は,平均の前後0.4mの間にばらついていることがわかる.
従って,街並みの画一化を回避するためにも,平均の前後0.4mという「ばらつき」を軒高に与えることは,街並みに適度な調和と変化を与えると考えられる.
参考文献
1. 奈良井宿保存委員会発行,「重要伝統的建造物群保存地区 奈良井宿 町並み 建築 てくてくマップ」.
2. 長野県木曽郡楢川村(1998),「重要伝統的建造物群保存地区選定20周年記念 奈良井 保存のあゆみ」.
(文責:薄井宏行)