自然と都市の幸せな結婚 バンクーバー

バンクーバーはカナダ西海岸の玄関としてよく知られている。都市圏の人口は200万を超え、カナダ第3の都市で、西海岸では最大だ。 豊かな自然と天然の湾により、水産農林業、港湾業、観光業などで現在も発展し続けている。そして世界で最も住みやすい町、 という評価を何度も受けている。そんなバンクーバーの魅力は、豊かな自然と魅力的なアーバンライフが隣り合っているところにある。

ダウンタウンの北東部、バンクーバーの中心への玄関口とも言えるウォーターフロント駅周辺は、 大都市らしく高層ビルが立ち並んでいる。海上からダウンタウン側を見ると、まるで海の際までビルが建っているように見える。


この写真を見ると、上海などの沿岸にある都市と同じような風景に思える。 しかし、ビルの立ち並ぶ地域から少し西に目を移すと、カナダ最大の都市公園、スタンレーバークが広がっている。


高層ビルの立ち並ぶ地域と広大な都市公園が隣接しているのはNYのセントラルパークを筆頭に 世界各地の都市公園で見ることができるが、スタンレーパークの素晴らしい点は、あまりに美しい親水空間があることだ。 信じられないことに、水際にゴミ一つ落ちていない。日本の湾岸部は、たとえそれが臨界工業地帯でなかろうと、 必ずと言っていいほどペットボトルなどの家庭ゴミを目にする。しかし、バンクーバーの港には本当に、ひとつのゴミも落ちていない。 これはスタンレーパーク内の園路も同じで、民度の高さを伺わせる。


水面があまりにきれいなので、まるで鏡の上で船が揺らいでいるように見える。

このスタンレーパークを歩いていると、散歩している人、ジョギングをしている人、サイクリングをしている人など、 思い思いに時間を過ごしている人とすれ違う。歩行者用の園路はサイクリング、ローラーブレード用の園路と分けられていて、 猛スピードで走る自転車などに脅かされることなく、散策を楽しむことが出来る。


スタンレーパークからのダウンタウンの眺めは印象派の絵画のように美しい。


澄み切った水面は、遠慮がちに暮れていく空を揺らしながら映す。 二つの空に挟まれた高層ビルと森、そして多くの船達。ため息しかでない。

もちろん、バンクーバーの魅力は自然だけでない。 ダウンタウン周辺は大都市ならではの華やかな観光地やいかがわしくも魅力的な悪所も多くある。 ダウンタウン東部の、バンクーバー発祥の地と言われる歴史地区、ギャスタウンはヨーロッパ風の古くも魅力的な建物が数多く残る観光地だ。


ギャスタウンを歩いていると古い建物の中にギャラリーが入っているのをよく目にする。 ダウンタウンの中心部に近づくと観光客向けの土産物屋などが多くあるが、全体的に落ち着いた印象を抱く。



夜になると、ナイトクラブやバーが点在しているため、ナイトライフを楽しむ人々で溢れる。 バンクーバーは治安が良いことで知られている。夜の出歩きも、特に危ない、とされている地域に近づかなければ安心して出来る。

その他、カナダ最大の地価がついているロブソン通り周辺には高級ブティックなどが立ち並び、高級志向の人々の欲求も満たす。


ダウンタウンの西の地区、ウェストエンド周辺は様々な国のレストランがあり、しかも安価だ。 安い食事と言えば、ギャスタウンのさらに東にある、北米最大規模のチャイナタウンを忘れることができない。


これらダウンタウンの中心を歩いていると、あまりに美しく幸福なバンクーバーに潜む、というより公然と横たわる、闇を見ることができる。 それは非常に多くのホームレスだ。バンクーバーの夏は暑苦しくなく、冬も緯度の割にそれほど寒くならないため戸外での生活が比較的行い易く、 カナダ中からホームレスが移り住んで来ているという。ホームレス増加の原因には政府による、過剰ともいえる福祉政策もあげられる。 無償の食事配布はもちろん、ドラッグ用の新品の注射器の無料配布(!)も行っているという。 これは注射器の再利用などで感染症などが発生することを防ぐためらしいが、ドラッグの蔓延事態は野放しのままになっている。 ガスタウンを東に抜けた、チャイナタウンの北の地域はそのようなホームレスやジャンキーが屯する危険な地域である。 ロブソン通りを歩いた後、このような場所を通るとダウンタウンの大きな格差を実感できる。 実際この危険な場所はカナダ全土で最も家賃が安い場所であり、カナダで一番の地価の高いロブソン通りがそれほど離れていないところにあるのが少し不思議である。

しかし一部の危険な地区に近寄らなければバンクーバーはいたって安全で楽しい町だ。町の人々は本当に親切な人が多い。 仕事帰りの人に道を聞いても、とても丁寧に答えてくれる。つたない英語を笑顔で聞いてくれる女性の顔に、「ストレス」の文字は無かった。 もちろんまったく無くはないだろうが、東京の地下鉄で満員電車の中に押し込まれ、隣の人の体臭に顔をゆがめている人の顔を思うと、 どちらが豊かな生活を送っているかは明白ではないだろうか。

自然と都市が幸せな結婚生活を送っているバンクーバー。果たして日本の都市はどうだろうか。日本の自然と都市は、今や離婚の危機にあるのだろうか。それとももはや、離れ離れになってしまっているのだろうか。



(文責:川中彰平)