大阪〜中崎町〜

大阪の中心地である梅田から地下鉄で一駅、そこに中崎町はあります。第二次世界大戦時の戦火を奇跡的に逃れたことから、 まちなみは今でも昭和の雰囲気を残しています。500メートル四方程度のこじんまりとした町ですが、下町情緒あふれる民家 や町工場が肩をならべるよう建ち、その隙間を縫うようにして狭い路地が入り組んでいます。
ところが近年、中崎町は古さと新しさが共存する珍しいスポットとして注目を浴びています。梅田の再開発の影響を受けて、 商業ビルがぽつぽつと建ち始めた一方で、LOHASやリノベーションといった流行に則った若者達が古い家屋を改装して 雑貨屋やカフェを始めていたりします。まちなみを残しながらも少しずつ変化し、複雑さを増していく中崎町を今回は調査 してきました。
実際に町を歩いてみました。大通りの道幅はそれほど広くなく、そこからさらに幾つもの細い路地が伸びています。

(写真1)中崎町の様子です。大阪の中心地としては珍しい、古い住宅地となっています。

路地は折れ曲がるようにしてさらに住宅地の奥深くにまで続き、もう行き止まりかと思ったところで、 小奇麗なカフェが姿を表すこともしばしば。まるで迷路のようなまちなみをしています。
一見して、どこかで見たことのあるような懐かしい雰囲気のまちなみですが、ふと目を凝らすと、普通の一戸建てのような家が 実はギャラリーであったり、アットホームな雑貨屋があちこちにあったりします。

(写真2)一戸建ての並ぶただの路地のようにみえますが、実は一番手前の家はギャラリーとして開いています。個性的な建物ゆえ、 中で開かれる個展もひとくせある場合が多いようです。

どのお店も個性的なたたずまいながらも、古いまちなみを壊してしまうような外観をしておらず、派手で目立つような装飾もみあた りません。民家の群れに馴染むようにして、新しいお店が少しずつまちなみに彩りを添えていっています。

(写真3)民家の一階を改装したカフェです。内装はシンプルながらも落ち着いた雰囲気で、街の空気に溶け込んでいるようでした。

そうかと思えば、見上げるような真新しいビルが町に縦の空間を演出しています。写真4は中崎町のとある路地からの風景です。どれ だけ入り組んだ道を進んでいっても、見上げると高層ビルやマンションがそびえ立っており、街が立体的な構図を失うことは有りませ ん。古いまちなみと巨大なビルという組み合わせは不釣り合いの様に思えますが、不思議な事に中崎町はこれらの相反する二種類の建 物の勢力が絶妙に釣り合いを取ることで、独特なまちなみを作り上げています。

(写真4)

C.アレグザンダーの著書「パタン・ランゲージ」には「自然都市」と「人工都市」という二つの言葉が載っています。歴史を内在し、 長期間に渡って自然発生的に生まれた都市を自然都市といい、都市計画や行政の介入によって創り上げた都市は人工都市と呼ばれます。 人間が住みやすい町には、生活に必要な「構造的な複雑さ」が必要だと、アレグザンダーは述べています。理路整然と区画され整備さ れた人工都市よりも、中崎町のように、新旧が入り混じるようにして複雑性が生まれていく自然都市の方が、人を引き付ける強さは強 いのかもしれません。

(写真5)昔の理髪店のような外観ですが、夜になるとカフェバーになり、近くの専門学校生達があつまります。

(写真6)民家を改装して作られたカフェです。数年前、とある学生たちの卒業制作によって製作されました。 内装には出来るだけ手を加えず、また、改装前の木材を出来る限り再使用して作られています。 (残念ながら現在は移転に伴い閉店しています。)

中崎町は行政から景観保護の指定を受けた地域でもなければ、歴史的な名所でもありません。そこに住んでいた人と、新しくやってきた 人たちの対話を通して、お互いがよりよく共存していく為に今のようなまちなみが出来上がって行ったのです。町に点在するカフェやギ ャラリーは、地元の人達の情報交換の場として今では重要な地位を占めています。そして中崎町は特徴を失うことなく、今も変化し続け ています。(文責:中田早耶)