竹原 まちなみに込められた職人・市民の息吹

◆竹原について

竹原市は、瀬戸内海の豊かな自然と温暖な気候に恵まれた、広島県沿岸部のほぼ中央に位置する人口約3万人の都市です。現在の市街地にあたる竹原駅周辺エリアが、平安時代に京都下鴨神社の荘園として開発されたのを皮切りに、その後、江戸時代には製塩業・酒造業で発展。明治・大正期に都市化が進み、それらが今では全国19番目の町並み保存地区(重要伝統的建造物群保存地区)として美しい景観を形成しています。

このような歴史背景から、竹原は別名「安芸の小京都」とも呼ばれています。今回は、竹原の「町並み保存地区」にスポットをあて、その美しいまちなみと、それを活かしたまちづくりについてご紹介します。

◆竹原格子 各家に散りばめられた細やかなアート

たけはら町並み保存地区を歩く際に見逃せないのが、江戸・明治時代に建てられた町屋の窓に施された「竹原格子」と呼ばれる独特な格子です。建物に注目してまち歩きをすると、町屋の一軒ごとに工夫が凝らされたさまざまな格子が目に入ります。竹原格子は、出格子(外壁から通りに向かって突き出た出窓のような格子で建物の一階部分に多い)、平格子(格子の下に空間の無いもの)、塗格子(漆喰等で塗り固められたもので建物の二階部分に多い)に大別され、その形状から建てられた時期を推定できるとのこと。例えば、古い格子は太く、江戸後期になるとすき間が狭く繊細になり、縦方向と横方向の格子を組み合わせるなど変化のあるデザインが見られるようになったそうです。切り絵のような羽目板や、模様付きの横格子なども見受けられ、美しい格子に注目して歩けば、まさに芸術鑑賞をしているような気分になれます。


縦向きと横向きを組み合わせた出格子


模様付きの横格子


切り絵のような羽目板格子

◆竹細工 小さい置物から大きなイベントまで

竹原市には、その名の通り市内に多くの竹林が存在し、竹を使ったイベントがしばしば開催されています。例えば5月には、竹夢楽団の演奏とともに和服の竹原娘やたけはらかぐや姫がパレードをする「たけはら竹祭り」が、また10月には「憧憬の路」と呼ばれる、竹筒の灯篭で保存地区を幻想的にライトアップするイベントがあります。

残念ながら私たちが訪れたとき、これらのイベントは開催されていませんでしたが、普段のまちなみからも充分に竹の風情を味わうことができました。例えば、保存地区内にある、「まちなみ竹工房」では工房の会員が制作した竹細工の展示と販売がおこなわれています。また、通りの小路の溝には、素敵な竹のアーチが、さらに町並み保存センターの裏には、竹で作られた「東京スカイツリー」が展示されています。探訪を通じて、賑わう観光客とともに、地元の方々も自らの街の特性を活かし日々の暮らしを楽しんでいるようすが伺えます。


小路の溝にかかる竹のアーチ


東京スカイツリーを模した竹のタワー

◆酒造 歴史ある味をそのままに

冒頭の「竹原について」でも述べましたが、江戸時代には、製塩業と並んで酒造業で栄えた竹原。現在、蔵の数こそ少なくなりましたが、今なお市内には3つの酒蔵(竹鶴酒造、藤井酒造、中尾醸造)が日本酒造りをおこなっています。町並み保存地区にはそのうち、竹鶴酒造と藤井酒造が当時の蔵を残して立地しており、その伝統の味を全国に今も伝えていると聞き、私たちは訪ねてみることにしました。

竹鶴酒造は、NHK連続テレビ小説「マッサン」(2014年度後期)でおなじみニッカウイスキーの創業者である「竹鶴政孝」の生家でもあります。江戸時代からそのままの酒造の一部を「小笹屋酒の資料館」として、土日限定で開放しており、代々伝わる酒器や酒造りの道具を見ることができるそうです。ただし、私たちが訪ねたとき(2014年12月)は、「新酒の仕込みで大変多忙な時期でもあり、多くのお客様に対応いたしかねるので、やむなく当面の間閉館させていただきます。」という張り紙があり残念ながら入館できませんでした。またの機会に訪れたいと思います。


竹鶴酒造

気を取り直して向かった藤井酒造。宝寿酒造交流館としてこちらも酒造の一角を改造して開放しており、蔵のようすを直に体感出来ます。私たちが訪ねたときもこちらは営業しており、創業銘柄の「龍勢」や「宝寿」を無料で試飲させていただきました。酒蔵でいただくお酒は格別、その場で土産に購入と発送も可能です。交流館では、酒の試飲・販売のほかにも、関連情報の提供や、酒器・石鹸・仕込み水などのグッズ販売もされており、趣深くてにぎやかなとても楽しい空間でした。


藤井酒造

◆リノベーションと聖地巡礼 観光資源を上手に活用し観光客急増?!

今回の探訪から、竹原は、まちなみの「保存」のみならず、「活用」や「発信」も盛んにおこなわれていることがわかりました。

例えば、保存地区の神明掛町通りに佇むカフェ「cafe青」。こちらの外観は厳かな雰囲気の土蔵ですが、店内はその外観を忘れてしまうほどお洒落な空間。書道家でもある店長さんの書が飾られた素敵なこのお店で歩を休めることにしました。オススメのケーキセットはすべて店長さんの手作り。どれも美味しくいただきましたが、私は特に「旬のみかんがほんのり香るシャーベットアイス」に舌鼓を鳴らしました。店長さんにお話を伺ったところ、保存地区には他にも、築200年の醤油蔵を改造した「お好み焼き ほり川」など、伝統的建造物をリノベーションしたお店が点在しているとのこと。私たちも、撮影は出来ませんでしたが、古民家を買い取り、木のおもちゃを制作、展示しているアトリエに入りました。眺めて楽しむだけで終わらせず、伝統的な建造物を上手に活用していると感じたひとときでした。

また、「cafe青」の店長さんとお話する中で、メディアを通じたPR、呼び込みも盛んと判明しました。この竹原はアニメ「たまゆら」の舞台として取り上げられてから、アニメのロケ地巡り(聖地巡礼)で観光に訪れる若い男性が急増したといいます。これまでの中高年層に加え、新たな層を獲得したことで、街の活気がかなり変わったそうです。「竹細工」の章で述べた「竹まつり」や「憧憬の路」のイベントにおいても、たまゆらの関連コーナーを設けて更に観光客を呼び込んでいるとのこと。この日も「道の駅たけはら」にて「たまゆら」の登場人物の大型パネルが設置されていました。また、2015年1月現在、絶賛放送中のNHK連続テレビ小説「マッサン」のロケ地でもある竹原。マッサン夫妻のモデル「竹鶴政孝・リタ夫妻」にちなんだイベントを催し、さらに幅広い層の観光客が押し寄せているようです。今後の展開に注目の竹原に、ぜひみなさんも訪れてみてはいかがでしょうか?


蔵を改造した「cafe青」


店長さんおすすめのケーキセット

(文責:森岡渉)